原発の再稼働、運転延長、新増設について、福島から考える
藤野 美都子(福島県立医科大学)
2022年7月から5回にわたって開催されたGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、12月22日、「GX 実現に向けた基本方針(案)~今後 10 年を見据えたロードマップ~」が取りまとめられ、今年2月10日、この基本方針が閣議決定されました。基本方針は、気候変動問題への対応が急がれ、日本としても、2030 年度の温室効果ガス 46%削減、2050年カーボンニュートラルの実現という国際公約を掲げる中、ロシアによるウクライナ侵略が発生し、電力需給ひ
っ迫やエネルギー価格の高騰が生じ、1973 年の石油危機以来の緊迫した事態に直面していると現状を説明しています。そして、今後の対応として、徹底した省エネルギーの推進、製造業の構造転換、再生可能エネルギーの主力電源化に加え、原子力の活用を掲げました。原発に関しては、再稼働のみならず、次世代革新炉の開発・建設、運転期間の延長にも言及しています。
東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、廃炉が決まったり、運転停止に追い込まれたりする原発が相次いでいましたが、政府は、原発活用へと大きく舵を切りました。2021年10月22日に閣議決定されたエネルギー基本計画では「東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した我が国としては、・・・可能な限り原発依存度を低減する」と謳っていました。しかしながら、4月27日には、脱炭素社会の実現のため、実質的に運転期間上限の60年を超えて原発の運転を認めるとする法案が、衆議院本会議で賛成多数で可決されたというニュースが伝えられました。
他方、ドイツからは、4月15日をもって、稼働していた最後の3基の原発が送電網から切り離されたというニュースが伝わってきました。ドイツは、福島第一原発事故を機に、脱原発へと政策を転換し、ロシアのウクライナ侵攻により停止期限は延長されたものの、ついに脱原発を実現したのです。この違いはどこから生じたのでしょうか。福島の一住民としては、この問いの答えを見出したいと切に願っています。
日本政府は、エネルギーの価格高騰に直面し、十分な国会議論も経ず、あっさり政策を転換しました。目先のことだけを考え、長期的視点に欠けるエネルギー政策を決定することには、大きな問題があります。原発は、安全に廃炉に至ったとしても、放射性廃棄物の処理という問題を抱えるエネルギーです。事故を起こした福島第一原発の廃炉には、多大な苦難が待ち受けています。事故から12年たった現在でも、帰還が叶わない住民が多数残されています。原発は、決して安
いエネルギーではありません。将来世代に重い負担を残すエネルギーなのです。さらに、ロシアのウクライナ侵攻は、原発の存在自体が、大きなリスクとなることを示しました。政府は、日本
への備えも不十分な、まして武力攻撃には全く対処不能な原発の存在をどのように考えているのでしょうか。人々の生活、いのちを守るというのであれば、現実的な選択肢として、脱原発という政策があるのではないでしょうか。
今日本で生活している人々のみならず、将来の人々にも大きな影響を及ぼすエネルギー政策について、長期的な視点から考え、実現できる政権誕生のためには、どのような道筋があるのか考え続けていきたいと思う今日この頃です。