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2023-05-01

防衛産業強化法案が私たちの生活に及ぼす影響-憲法9条2項の実利的意義

清末 愛砂(室蘭工業大学大学院教授)

 昨年12月に安保3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)が策定され、日本は大幅な軍事拡張路線を歩み始めました。さっそく今年4月にはそのための財源確保法案や防衛産業強化法案が国会に上程され審議が始まりましたが、4月27日には衆議院安全保障委員会で防衛産業強化法案の方が採決にいたりました。

 防衛産業強化法案は、①軍需産業への経済的支援、②防衛装備品の輸出の促進、そして③必要に応じて軍需産業を国有化することをめざすものです。安保3文書に基づく軍事大拡張路線は、基本的に軍事力に依拠した安全保障策を大幅に推し進めようとするものですが、経済面においても軍事路線から大きな利益を得ようとすることも含まれています。つまり、軍事的な力を誇ることで日本の存在力をアピールするだけにとどまらず、軍需産業の促進に基づいて経済力をアップすることでその存在力を示そうとするものなのです。

 こう書くと聞こえがいいかもしれません。しかし、軍需産業への経済的支援が大きくなれば、社会保障、医療、教育といった、人々の日々の暮らしに密接にかかわる分野の予算削減をもたらしかねないだけでなく、日本経済の対外的イメージを変え、他国との緊張関係を生む原因にもなりかねないのです。

 憲法9条2項は戦力の不保持を謳っています。戦力の不保持を掲げるということは、国として戦力を持たないということだけでなく、軍需産業を支援したり、武器輸出を促進したりすることを認めないことも意味します。この観点から考えると、防衛産業強化法案は9条2項に相反するものだと言わざるを得ません。このようなことを書くと、「お花畑のようなことを書いている」と言われるかもしれません。しかし、①他国との間で緊張関係を生じさせないようにし、かつ②バランスがとれた予算配分をすることで多くの人々の日々の生活を支えようとする発想は、現実にあわせた極めて実利的な考え方です。その意味においても、憲法9条2項は現実的な生活を見据えたものと捉えることができるのではないでしょうか。9条2項が私たちの生活を守る。国会での動きにあわせて、この視点を皆さんとあらためて共有させていただきたいと思いました。

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