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2023-05-01

2023年の憲法記念日によせて

石村 修(専修大学名誉教授)

 ドイツに留学していた時、同じ憲法の研究者からこんな質問を受けたことがある。「いつから日本は日本国なのか?」 これには即答ができず、困った。これは、国家の誕生を聞いているのか、憲法をもった国になった時を聞いているのかである。

 「国民の祝日に関する法律」に依れば、2月11日が「建国の日」であり「建国をしのび、国を愛する心を養う」とある。2月11日は、大日本帝国憲法が公布された日であり、神武天皇が即位した、紀元節に該当する。どうもこの日を日本国家の誕生日と言うことに、私にはためらいがあった。他方で、日本国が近代国際法で他国から承認をされた日とすれば、その時期は江戸幕府が開国した時期になる。先の質問に答えるのが難問であり、即答できなかったのは、こうした歴史物語をうまく説明できなかったからであった。

 ドイツは1990年のドイツ統一の日(10月3日)が建国記念日であり、統一ドイツ憲法の施行日でもある。すると、日本国も、ポツダム宣言を受託した日か、日本国憲法施行の日をもって、建国記念日といっても間違いではないであろう。ポツダム宣言は国際法であるので、憲法国家の誕生をもって立憲主義的な意味での日本国の誕生があったと解すれば、日本国憲法の施行が日本国の新たな誕生日になったとも言える。先に紹介した「祝日に関する法律」は、憲法記念日を「日本国憲法の施行を記念し、豊かな心をはぐくむ」と表現しているが、日本国民が「恒久の平和を祈願し、人類相互の関係を支配する理想を深く自覚する」(前文、2段落)日と言い換えてもいいはずである。憲法記念日は、そんな大事な日であることを、忘れてはいけないであろう。

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