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2022-05-01

2020.5.3.憲法記念日に寄せて

鈴木 眞澄(龍谷大学名誉教授)

 「戦後・・・米国流の合理的思考に従ってきた日本にあっては、・・・あえて言うとすると、プーチンは狂気に陥ったとか、病気だというほかない。」佐伯啓思氏はこう指摘しました(3月26日朝日新聞)。ロシアによるウクライナ侵略が勃発して以来、その欧米社会はひたすら経済制裁と軍事支援で対応していますが、情況は3週間で終わると言われて10年続いたベトナム戦争とますます似てきました。

 冷戦終結後にもNATOが存続し、あまつさえ東方拡大を続けていること自体、理不尽であり糾弾されるべきですが、今回のロシアによるウクライナ侵攻は、明らかに国際法違反の武力行使です。しかしそれ以上に、(本来戦争の自衛か侵略かの区別はナンセンスですが)ロシアの軍事侵攻はウクライナの領土支配の意図が明白ですから、侵略戦争の典型と言うべきでしょう。

 権力は腐敗すると言われます。が、今回のプーチン大統領を見るにつけ、絶対的権力は常に狂気と隣合わせだと感じた人は多いと思います。核保有大国、しかも安保理常任理事国による「まさか」を知った以上、これまでの武装抑止力論とか憲法9条改正論など、ほとんど無意味に思えてきます。今国際社会が「覚醒」すべきは、「戦争」というものの「認識」を根本から変えることです。「認識の根本的転回」が世界を変えるからです。

 戦争とは、もはや「国家主権」や「国益」間の衝突とか、「国際紛争を解決する手段」(か否か)などと認識すべきではありません。戦争とは、すべて「ヒト殺し」です。人間同士の「殺し合い」です。「人間が人間であること」を忘れさせる所業です。こうしている間にも大勢の無辜の市民が「殺されて」います。これが戦争というものの実相(リアリティー)です。このリアリティ―を直視しない限り、地球上から戦争はなくならないでしょう。「世界には人間の命より大切なものはなく、あるはずもない」というゴルバチョフ氏の声明(3月5日朝日新聞デジタル版)は、正鵠を射た認識です。

 国際社会全体がこの「戦争のリアリティー」に覚醒し、当事国による和平交渉を全面的に支援する以外に、今起きている戦争を早期終結させることはできないでしょう。戦争はおろか武力による威嚇・武力の行使も放棄し、対話によってのみ平和を実現しようという日本国憲法の平和主義原理は、こうした根源的な平和思想の表現だと信じます。2022年5月3日は新たな憲法記念日になりました。

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