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2022-05-01

いまこそ、日本国憲法<憲法9条>のリアリティを、子どもたちと共有したい ― ロシアのウクライナ軍事侵攻とロシア・ウクライナ戦争から見えること ―

根森  健(新潟大学・埼玉大学名誉教授)

 「人間の尊厳保持に重きを置く、平和な社会を推進すること」(オリンピック憲章)を目的として行われた冬季オリンピックとパラリンピックの狭間の2月24日に、プーチンのロシアは、「突如」―― だが用意周到に ――、ウクライナへの軍事侵攻(「特別軍事作戦」という名目での侵略戦争)に踏み切った。

 以来、もう2か月が経ったが、まだ戦争は終わらない。今や、ヨーロッパ第1の軍事大国ロシアと、軍事力で劣るとはいえ、第3の軍事力を持つウクライナが、NATO諸国の支援を得て、取り返しの付かぬほどの犠牲の下で必死に戦う国土防衛の戦争になっている。テレビやインターネットなどにはこれまでに例がないほど、詳細に攻撃や犠牲を伝えるニュース映像があふれている。そうした映像で伝えられるのは、軍事施設や戦車などの残骸だけでなく、むしろ、ついこの間まで、美しかった都市や町村とそこでの暮らしを木っ端みじんに破壊し、子どもを含め、普通の人々さえも虐殺する戦争の姿だ。

 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、ウクライナでは4月21日までに、少なくとも2,435人の市民が死亡したと発表。集計の遅れなどで、実際はこれを大きく上回るとの見方を示している(実際、ロシア軍の「制圧」の象徴とされた東部の要衝マリウポリでは、市長がこれまでに2万人以上が死亡していると述べている)。

 一方、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のまとめによると、ウクライナからポーランドやルーマニアなど国外に避難した人の数は4月22日の時点で、516万人余りとなっている。それに、報道によると、戦況を避けるために居住地以外の国内の場に避難した人の数は3月17日の時点で648万人に達していた、ということであるから、国内外の避難民を合わせると、1,000万人以上となっており、実にウクライナの人口約4,200万人の約4分の1の人が、居住地を追われたことになる(周知のように、現在、18才~60才のウクライナ国民男性は、ゼレンスキー大統領の発動した「総動員令」によって、出国禁止とともに徴兵されているにも関わらず、このような膨大な数になっているのである)。

 さて、このようなロシアによるウクライナ侵略戦争のニュースや映像に接して、日本(や世界)の子どもたちは、何を思っているのだろうか? 私たち大人だって、このような惨状の報道に接して、コロナ禍の収束の一向に見えない中、さらに精神的にもストレスを抱え、身体的にも変調をきたしたりする。また、自分の無力感にさいなまれ、時に、素朴な不安に襲われることがある。ましてや、子どもたちが、親や大人が気をつけているにせよ、意図せず、そうした戦争の惨状を伝える映像を見てしまうこともあるだろう。そうした場合の心のケアが何よりも重要なのは言うまでも無い。

 「災害や戦争が人の心に与える影響について詳しい目白大学保健医療学部の重村淳教授は『これはウクライナだけの問題ではなく世界全体の問題で目を背けるわけにはいかない。大人はウクライナの話題を避けずに、まずは子どもたちとしっかり対話してほしい』と対話することの重要性を指摘しています。その上で、戦争について子どもと話す時には、状況を子どもがどこまで知っているか確認すること、そして、子どもが怒りや悲しみ、不安に思っている点など何を感じているのか聞き取ることが重要だとしています。」(NHK首都圏ニュース2022年3月7日より)

 同様の指摘は、国際的に活動する非政府組織(NGO)「Save the Children(セーブ・ザ・チルドレン)」のホームページ上のcharity-storiesというコンテンツにも公開されている。「ウクライナの紛争について子どもたちと話す方法 ―― チャイルド・カウンセラーによると」というstoryの中で、養育者が子どもとの会話にアプローチするために使用できる5つのツールとヒントを挙げている。

1.  時間を作り、子どもが話したいときに耳を傾けること
子どもは大人と全く異なるイメージを抱いていることがあるので、子どもが話したいと思うときに耳を傾け、質問できる時間を持つことが大事。

2.  会話を子どもの年齢に合わせて調整すること 
幼い子どもと年長の子どもとでは理解も異なるのだから、年齢に応じた説明をすること。

3.  子どもが動揺している自分の気持ちを、会話の中で否定されることなく確認できるようにすること 
子どもが会話の中で支えられていると感じることが大切。子どもたちが動揺している事柄についてオープンで率直に会話をする機会をもつことが、安堵感と安全感を生み出す。

4.  世界中の大人がこの問題を解決するために一生懸命働いていることを伝えて、彼らを安心させること
これは子どもたちが解決すべき問題ではないことを子どもたちに思い起こさせ、罪悪感を抱くことなく、今まで通りに遊んだり、友だちに会ったりしていていいのだと感じられるようにすること。

5.  自分も何かしたいと思っている子どもたちに、そうした支援を行う実践的な方法を与えること
紛争の影響を受けた人々を助ける機会を持てるなら、子どもたちは、自分たちも紛争解決に一役買うことができたと感じることができる。子どもたちなりに、募金活動を行ったり、地元の意思決定者に手紙を送ったり、平和を呼びかける絵を描いたりすることができる。

 そうであるなら、まずは語り合い、話を聞くことが大事だというわけで、私も(まだ見ぬ、想像の中の)孫たちに、これから、一冊の絵本を読んで、戦争と平和について会話してみることにしよう。

 選んだ絵本は、いわさきちひろさんのあの素敵な絵に彩られた、『井上ひさしの子どもにつたえる日本国憲法』(講談社、2006年)だ。

もう二度と戦(いくさ)はしない(第9条)

私たちは、人間らしい生き方を尊(とうと)ぶという
まことの世界をこころから願っている

人間らしく生きるための決まりを大切にする
おだやかな世界を
まっすぐに願っている

だから私たちは
どんなもめごとが起こっても
これまでのように、軍隊や武器の力で
かたづけてしまうやり方は選ばない

殺したり殺されたりするのは
人間らしい生き方だとは考えられないからだ
どんな国も自分を守るために
軍隊を持つことができる

けれども私たちは
人間としての勇気をふるいおこして
この国がつづくかぎり
その立場を捨てることにした

どんなもめごとも
筋道(すじみち)をたどってよく考えて
ことばの力をつくせば
かならずしずまると信じるからである

よく考えぬかれたことばこそ
私たちのほんとうの力なのだ

そのために、私たちは戦(いくさ)をする力を
持たないことにする

また、戦(たたか)うことができるという立場(たちば)も
みとめないことにした」

 私は、今も続いているロシアとウクライナとの戦争をずっと見てきて、できるだけ速やかに、世界中の国々が、この日本国憲法9条の考え方を実現するようにしないと、プーチン大統領のように「核兵器も使うぞ」と脅しをかけているような、それこそ人類の破滅に至るような危険な流れを絶つことができないように思うのだけれど、さて君たちはどう思う?

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