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2022-05-01

75回目の憲法記念日を前に、福島から考える

藤野  美都子(福島県立医科大学)

 2月25日のロシア軍がチョルノービル(チェルノブイリ)原子力発電所とその周辺地域を制圧したというニュースに接し、背筋が凍りました。1986年の事故後、2000年には運転を停止していますが、敷地内には大量の使用済核燃料が保管されており、事故を起こした4号炉の廃炉作業も進まず、シェルターで覆われただけの状態で、決して安定的な状態にはないからです。さらに、ロシア軍は、キーウ(キエフ)への攻撃も行っており、2011年秋、私たち福島からの調査団を暖かく迎えてくださった市民グループ「ゼムリヤキ」の皆さまの安否が気になります。ゼムリヤキは、原発で働く人々のための街としてつくられたプリピャチの方々が、移住先で作ったグループです。原発事故で移住を余儀なくされた上に、移住先でもロシア軍の攻撃を受けることになるとは、なんと過酷な運命なのでしょうか。今回の事態は、原子力発電所の存在それ自体が、大きなリスクとなることを示しました。日本にはテロ攻撃への備えも不十分な50基以上の原発があり、これらが軍事攻撃を受けた場合には、想像を絶する被害が発生することになるからです。

 2月27日のフジテレビの番組での安倍晋三元首相の発言には、驚きました。NATO加盟国の一部が採用している核シェアリング(核共有)に言及し、「議論していくことをタブー視してはならない」とされたのです。安倍元首相は、敵基地攻撃能力の対象を基地に限定せず「中枢を攻撃することも含むべきだ」とも主張されています。戦争の悲惨さに接し、戦争の早期終結を皆が望んでいるときに、近隣諸国への敵愾心をむき出しにしたような発言を元首相がするとはどういうことでしょうか。ロシアのウクライナ侵攻が核戦争に至ることを世界中が危惧している今、唯一の被爆国である日本には、核兵器の使用を抑止する役割を積極的に果たすことが期待されているはずです。軍事衝突が起これば、多くの命が犠牲になり、経済的損害も甚大になります。平和を真に希求するのであれば、軍事衝突が起こらないようあらゆる努力を行うのが、政治家の務めではないでしょうか。私たちは、日本国憲法の平和主義を活かすために、近隣諸国との友好な関係を築くよう外交を行うことを、政府や自治体に粘り強く求めていかなければなりません。

 また、ロシアのウクライナ侵攻を契機に、原子力発電所の再稼働を加速すべきであるとの声が高まっていることにも、強い危機感を抱いています。フランスとイギリスは、原発の新増設を表明し、ベルギーは運転期間の延長を決めました。日本は、石油危機後に原発を主軸とするエネルギー安全保障を進めてきましたが、福島第一原子力発電所事故前でエネルギー自給率が高かった時でも20%止まりでした。これも、原子力を「準国産エネルギー」と位置付けた場合の数字です。原発の再稼働が進められていますが、原子力の電源別発電量は6%であり、自給率は12.1%です。一度事故を起こすと取り返しのつかない被害をもたらす原子力発電に頼ることの危険性は、福島の住民が身をもって体験しました。真の意味での自給率を高めるためにも、再生可能エネルギーに注力すべきではないでしょうか。

 この10年余り、核の恐ろしさを身近に感じてきた福島の一住民として、一方でロシアのウクライナ侵攻が早期に集結することを願いつつ、他方で再生可能エネルギーの進展に期待しつつ、この一文を認めました。

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