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2022-05-01

改憲問題を現実的な視点から考えてみませんか

清末 愛砂(室蘭工業大学大学院教授)

 「憲法に緊急事態条項が導入されていないから、大規模な感染症対策や震災対策ができません」「9条では国や国民を守れません。9条を変えないと、他国の侵略があったときに対応できません」

 新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大問題の収束の兆しがなかなか見えず、またウクライナに対するロシアの軍事侵略が長引くなかで、こういう主張を各所で耳にすると、「そうだったのか」「それじゃあ、改憲をしなければ」と思う方々もおられるでしょう。

 正直に書くと、わたし自身も改憲を通して深刻な感染症の拡大問題や軍事侵略問題を解決できると確信するのであれば、こうした主張に同意するでしょう。しかし、これまでのところ、わたしのなかでは、こうした主張はなんら説得力を持つものにはなっていません。

 COVID-19を含む感染症に対する個々の施策は、既存の関連する法律の適用や(必要あれば)その改正により可能であるからです。そもそも、感染症や震災対策は、憲法が保障する各種の権利に基づき、個々の法律を用いて多角的に行うべき課題です。緊急事態条項の導入を訴えるよりも、これまでの諸々の施策が、現行憲法上の各種の権利にかなったものとなってきたかどうかを問うべきではないでしょうか。はっきりいいましょう。大規模な感染症対策や震災対策のために、緊急事態条項の導入は必要ありません。

 9条を変え、いま以上に軍備を進めて侵略に備える・・・。それは、備えあれば憂いなしということなのでしょうか。では、備えはどこまで備えればいいのでしょうか。備えというのは、「相手」をある程度想定してやるものでしょう。相手が軍事力を拡大すればするほど、日本も「備え」の名の下でそれを拡大させることになります。こうして、どんどんどんどん軍拡が優先される一方、それらを補うために、私たちの日々の生活に密接にかかわる福祉や教育、就労等にかかわる予算が削られていきます。はっきりいいましょう。それではすまないでしょう。国家予算を圧倒的に逼迫していくことになりかねないからです。そうなれば、いうまでもなく予算としては破綻に近づいていきます。予算には限界がありますが、備えという名の下で広げる軍備には限界はありません。つまり、破綻への道を突き進んでいくことになるのです。こうしたあまりにも危険な備えについて考えるよりも、現行の憲法前文や9条の下で非暴力的な外交を粘り強く続けていく方がリアルな平和をもたらすといえるのではないでしょうか。

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