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2020-05-01

植野 妙実子(中央大学名誉教授)

コロナ禍の中の憲法記念日

 このところ毎日、新聞で昨日の新型コロナ感染者数の確認をするところから朝が始まっている。「アウトブレイク」や「ラストシップ」の話は想像の上でのことだと思っていた。その話が身近なものとして迫っている。

 4月29日の日本の感染者数は13892人、フランスは世界6位で128339人。日本のPCR検査が限定的にしか行われていないとしても、この違いはどこにあるのか、と考えざるをえない。素人ながら明らかにいえることは、習慣の違いであろう。まず、親しい者は挨拶にハグをする。このハグは抱き合うだけではない。頰にブチュッとキスをするのである。つまり頰に相手の唾液がつく。次に主食のパンは手で食べる。このパンは無造作にパン屋でカゴに立てられて売っている。しかも紙で包んで売ることもしない。皿に入れずにテーブルに直接置いて食べることも多い。また彼らは土・日には家族や友人と食事会を長々とやり、口角泡を飛ばして議論する。こうしたことからあっという間に感染が広がったのであろう。これに対し、日本人は衛生的で、手を洗い、うがいもする習慣が身についている。幸い抱き合ってキスなど友達とはしない。

 他方で、フランスの法的対応は周到だった。迅速審議手続きで外出禁止と休業補償をセットにした法律(公衆衛生法典等の改正法)を作り上げた。しかもこの法律に、当面の違憲審査を禁じるという組織法律までつけて、それが合憲であることのお墨付きを憲法院から得ている。雑駁な性格(?)と思うのになぜこのように緻密な対応が可能だったのか。官僚が優秀なのか、議員が優秀なのか。テロ多発時に適用された1955年4月3日法では手段として十分ではないとの考えもあった。

 さらにマクロン大統領は要所要所で国民に向けて演説をし、その演説にフランス国民ではない、私さえ感動した。今は困難な局面を乗り越えるのに、国民の「連帯、信頼、意思」が大切という。それにひきかえ、二転三転する日本政府の対応。漸くマスクかと思ったら、汚れていて回収という。9月新学期案に、早くも選択肢の一つと表明するなど、「おい、おい」と言いたくなる。それはグローバルな視点からは将来的には必要なことであっても、今ではない。子どもの学習権のみならず、学生の就活、各種試験などにも関わり、根本的な社会のインフラの変更が必要となる。メリット、デメリットを十分に考えて結論を出すと同時に、段階的変更を示すべきことである。第一、早くもオンライン授業を始めた大学はどうすれば良いのか。また小中高生を9月までほっぽらたかしで良いのか。数々の疑問が湧いてくるし、迷走の予感もする。

もともと、様々な政治疑惑に対し、しっかりと説明を果たしてこなかった政府である。「この機に乗じて」と「拙速」を許すわけにはいかない。この機に乗じて法律改正、この機に乗じて憲法改正、などはさせぬよう監視する必要がある。今は感染防止、医療崩壊を防ぐこと、経済的に困窮している人を一日でも早く救済すること、それが最も必要とされることである。

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