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2020-05-01

浦田 賢治(早稲田大学名誉教授)

新型コロナをめぐるテクノロジーと人権の問題

東西冷戦の終結直後1990年11月初旬、ベルリンでのことである。NATO高官や外交官らを含む専門家会議が開かれたとき、実践するアメリカの国際法学者リチャード・フォーク(Richard Falk)が現れた。彼は「Abolish Nuclear weapons(核兵器廃絶)と背中に書き込んだティシャツを着ているではないか。ぼくは、この勇気と仕草に痛く衝撃をうけた。

 さて憲法学も、みずからの形而上学と諸科学の成果に依拠しなければならない。ということを承知したうえで、現在緊急でかつ最も重要な新型コロナをめぐるテクノロジーと人権の問題に絞って発言したい。二つの事例をあげよう。

 コロナウイルスが中国に初めて現れる、わずか三カ月前、2019年9月、マイクロソフトが創設メンバーの一社である生体認証企業ID2020が、「幼児予防接種」に基づく、「最も成功した手法」のみを使う「幼児のための複数の生体認証技術研究」の新しいプロジェクトに着手したと、発表していた。

   「新しいインタビューで、我々が大量ワクチン接種をするまでは、大規模な公共集会は「決して」復活しないと、ビル・ゲイツは威厳たっぷりに述べた。一体誰が彼を世界の王様にしたのだろう」(注https://t.co/siW7bZ9yGc…pic.twitter.com/ivaCI8eAEl)マサチューセッツ工科大学(MIT)研究者が、皮膚下の見えない染料にデータを格納するハイテク「入れ墨」を開発したのだ。

 この「透明な入れ墨」問題に言及してイスラエルの歴史家ハラリは、NHK特集:パンデミックが変える世界(2020年4月25日放映)の中で、こういった。こうした個人生体の情報については、決して治安機関や安全保障機関に渡してはならない、と。この説にぼくも賛成である。医療機関だけに、匿名化して渡すのだだが、こうした情報管理の仕組みを作り、運用する力量をもった(権力の)担い手に、憲法学者はいかに貢献しうるだろうか。

 さて第二の事例は、ぼくの身近な最近の実践事例である。「PCR検査会場を区民に知らせるな!」世田谷区健康企画課からの電話(2020年4月27日)という事件、これである。ぼくは、区独自での抗体検査を検討中という保坂展人氏にあてて、つぎの番組を見てくださるように要請文を送信した。「デモクラシイタイムス」の「新型コロナの真実:5月6日以降に備える」(注 https://www.youtube.com/watch?v=biRtZzoM9NA)(児玉龍彦=金子勝氏出演、2020年4月28日)である。

現在まで日本政府が採ってきた学説は、新型コロナの真実をとらえていない。これまでの戦略:「外出の自粛型」は正しくない。今回の新型コロナの真実に照らして、「感染者の個別追跡型」(手法)でなければならない。「感染者の個別追跡型」の手法を採るさい、歴史家ハラリのいうとおり、個人生体の情報は、匿名化して医療機関だけに渡すのである。 おわりに「中国の武漢」で得た現在の教訓に触れておく。文明とは、社会のなかの弱者を一番大事にすることである。「パンデミックが変える世界」が、この教訓の真偽を明らかにするだろう。

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