平和・人権・民主のもとにある東北アジアを求めて
稲 正樹(国際基督教大学元教員)
ヨーロッパの国際協調主義を論じた論文で川嶋周一はこう論じています「ヨーロッパの中軸たる独仏関係は、対立の極地の末に戦後国際協調を進めたが、北東アジアの主要国である日中韓の三国の国際協調は、いまだ入口にすら立っている状態ではないのが現状であろう。アジア諸国が抱える課題の奥底はまだまだ深い。それは、ヨーロッパが『短い20世紀』(ホブズボーム)を生きたのに対して、アジアは長い20世紀を(未だ)生きているからである」(「地域統合史のなかの国際協調主義−ヨーロッパとアジアの比較と交錯」笹川紀勝(編著)『憲法の国際協調主義の展開』敬文堂、2012年)。
未だ長い20世紀の時代を生きている私たちは、新しい出発として、日本・韓国・中国の3カ国による国際協調体制構築への歩みを進めていくべきではないか。そのためにはまず、日本が東北アジアにおいて平和のイニシャティブをとることが大切だと考えます。
第一に、東北アジア地域の紛争解決に武力を使わないという合意と紛争の平和的解決のための国際的機構の設置のイニシャティブをとる。第二に、東北アジア非核地帯条約の締結を実現していく。そして第三に、過去の日本帝国主義による侵略戦争と植民地支配の責任を認め、謝罪する。慰安婦問題、徴用工問題についても最終的解決をしなければならないことが、指摘されています(渡辺治『安倍政権の終焉と新自由主義政治、改憲のゆくえ』旬報社、2020年)。
400年前に朝鮮語と中国語を学んで辞書を作り、隣国との外交につとめた江戸時代中期の儒学者・雨森芳洲は、対馬藩主に上申した対朝鮮外交の意見書『交隣提醒』の中でこう述べています(雨森芳洲のことは、李京柱『アジアの中の日本国憲法−日韓関係と改憲論』勁草書房、2017年で学びました)。「朝鮮交接の儀は、第一に人情・事勢を知り候事、肝要にて候/互いに欺かず争わず、真実を以て交わり候を、誠信とは申し候」。このような「誠信(誠意と信義)の交わり」を、「一衣帯水」の隣国人同士として進めていくことが大切だと思います。
中国に対しては、アメリカ主導の対中包囲網に追随するのではなく、中国内外で党国家体制と戦っている人々と連帯し、老百姓の声を聞くべきことを中国に進言すべきではないかと考えます。自由・人権・平等・共和・民主・憲政を基本理念とした「零八憲章」の意義は不滅です。「国家の発展と社会の変化を見据えて、最大の善意をもって政権からの敵意に向き合い、愛で憎しみを溶かしたい」と語った劉暁波に連なる人々と繋がり、中国を一歩一歩改革していく手助けをする。香港の民主派の人々の困難な戦いに連帯していく。そして南北が統一された朝鮮を実現していく。
このような平和・人権・民主のもとにある東北アジアの時代が来ることを、大いなる幻として見ています。