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2021-05-03

コロナ対応のための憲法改正は全く不要だ!

藤井 正希(群馬大学准教授)

 共同通信社が憲法記念日の5月3日を前におこなった憲法に関する世論調査結
果によると、憲法改正による内閣権限強化や私権制限が想定される緊急事態条
項新設を容認する声が反対意見を大きく上回った。すなわち、新型コロナウイ
ルスなどの感染症や大規模災害に対応するため、緊急事態条項を新設する憲法
改正が「必要だ」とした人が57%、「必要ない」は42%だったという。長引く
コロナ禍で自殺者や失業者は急激に増加し、先の見えない外出自粛や移動制限、営業時間の短縮要請等に疲弊した市民の声としては、決して理解できないものではない。
 しかし、日本国憲法を改正しなければコロナ禍に対処できないというのは、憲法に対するまったくの“濡れ衣”である。憲法の“公共の福祉”(12条、13条、22条、29条)を根拠として、場合によっては内閣が現在よりも強力な行動制限や営業禁止等の私権制限を市民に対しておこなうことは十分に可能であるし、物資の流通規制や価格統制で市民の経済活動に大幅に介入することも不可能ではないのである。この点、同調査において、時短営業した飲食店への支援の可否につき、協力した飲食店に補償を「するべきだ」は50%にのぼったが、憲法29条の理念からすれば、休業・時短の要請は財産権の制限にあたりえるので、私有財産制限に対する補償を規定した同条3項により、制限に見合った補償がセットされなければならないことになる。また、憲法25条の理念からすれば、すべての国民に健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)を保障しなければならず、コロナ禍による失業者や生活困窮者には国が救済の手を差しのべることが憲法的な責務となる。このように、コロナ禍には現行憲法の枠内で十分に対応できるのである。
コロナ対応のために緊急事態条項を新設する憲法改正を認めることなどまさに狂気の沙汰であり、憲法に毒を飲ませる行為に等しいであろう。必要なのは“日本国憲法の活躍”であり、まさに今ほど憲法の理念の実現が求められている時はかつてないのである。74回目の憲法記念日を迎えるにあたり、市民はそのことをしっかり銘記してほしい。  

以上

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