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2019-02-01

浦田賢治「出現する世界秩序は、世界戦争で壊滅するのか? 米ドルと同盟と核兵器」

浦田賢治早稲田大学名誉教授、政治経済研究所監事の時評を掲載します。どうぞお読みください。

政経研究時報[公益財団法人・政治経済研究所発行] ISSN 1343-1560

No.21-3(2018/12)pp.10-11.  時評 2018/12/06脱稿

浦田賢治

出現する世界秩序は、世界戦争で壊滅するのか? 米ドルと同盟と核兵器

1 さる日曜日、1111日は、第一次世界大戦が終わった日だった。戦死者1600万人、戦傷者2,000万人以上を生んだ。この戦争で、イギリス主導の先進帝国連合がドイツ主導の後進帝国連合を負かせた。ロシア帝国がレーニンの革命政権によって倒された。国際連盟が創立される。それとともに、制度としての戦争を廃絶する思想が有力になってゆく。ケロッグ=ブリアン条約と呼ぶ不戦条約も成立する。しかし大戦終結からわずか20年後には、世界大戦が起きる。

第二次世界大戦では資本主義国の米・英と共産主義国のソ連が連合国側となり、これが、「ファシズム」と一括された日・独・伊の枢軸国を敗北させた。連合国・枢軸国および中立国の軍人・民間人の被害者の総計は5000万~8000万人とされる。当時の世界の人口の2.5%以上が被害者となった。だが米国の死者は0.3%だったのに、ソ連の死者は13.7%で、米国の4.28倍だった。またソ連の戦費は米国の戦費より4.8倍も多かった。これが1945年の米国とソ連の実情だった。

また第二次大戦後、基軸通貨が機能面で英ポンドから米ドルへ移った。ブレトン・ウッズ協定で、アメリカが米ドルの金兌換を約束したこと、また米国の経済力を背景に米ドルが名実共に基軸通貨となった。

2 第一次大戦で勝敗をきめる鍵は、潜水艦による制海権だった。またアルフレッド・ノーベルが発明したダイナマイトを大量に使う火薬戦だった。しかし第二次大戦は、制空権の覇者が勝利する空軍優先の戦争だった。米国が日本のヒロシマとナガサキに原爆を投下した。このことで核時代が始まった。戦勝国の連合は国際連合となった。しかし人類は、JFケネディが指摘したように、「ダモクレスのつるぎ【ダモクレスの剣】の下におかれた。したがって人間たるものは地球の生命体をまもって、生き残るために、核兵器を廃絶しなければならないという課題をせおった。

戦後、戦勝国連合が枢軸国を押さえ込んで国際連合の旗のもと、世界秩序がつくられる。だが実は原爆を投下した米国優位のパクス・アメリカナの形成がなされる。しかし戦時中から米国の原爆研究と製造の情報は、バンカーたちが手配したという、スパイによってソ連にわたっていた。1949年8月29日には、ソ連初の原爆実験がセミパラチンスク核実験場で行われた。1949年10月には中国(中華人民共和国)の建国宣言。それまでの米ソ間の抗争をへて、その後、東西冷戦体制が形成される。

だが45年近くの冷戦を経てソ連もワルシャワ条約機構も解体した。しかし米国主導で再編されたNATOは生き残って現在、ロシアと中国を標的にした軍事包囲網で迫っている。戦後73年を迎えた核時代のもとで、いま知識人たちは、出現しつつある世界秩序と戦争の新しい関係を問い糺している。

3 米国政権にとって世界秩序の鍵は、金兌換の約束を反故にした紙幣にすぎない米ドルを基軸通貨として維持することだ。2009年現在で対外取引の80%以上が米ドルで行われていた。だが2018年現在、通貨の比率は米ドル42.8%になっている。益々多くの国が、商品を自国通貨建てにしている。長期の展望では、中国元とEUユーロは、ドル支配を終わらせ、米国を本拠とする国際企業がドル優位により享受している利点を終わらせる。米国ドルの覇権に替わる多極型の世界秩序が出現しつつある。

 世界秩序の鍵の二つ目はNATOだ。NATOに留まる可能性が高いアメリカ属国は、イギリス、ポーランド、オランダ、ラトビア、リトアニアとエストニアだ。他のEU諸国とロシアは、正式に彼ら自身の軍事同盟を構成することができる。アメリカを支配する連中は、各国の主権や、あらゆる場所の人々の自決権を尊重する代わりに、イラク・リヴィア・ウクライナ、シリアなどにみられるように、侵略とクーデター(政権転覆)中毒になっている。アメリカの征服中毒は、実際、すべての他の国を脅かしている。

 11月6日(火曜日)、アメリカでトランプ大統領は中間選挙で勝利宣言をした。しかしある説は言う。米国議会の議員のほぼ全員が、終わることのない戦争を支持している。選挙運動では不干渉主義者だったトランプが、非公式宣戦布告の表現である経済制裁でイランや中国やロシアを恫喝している。だがこの三国全てが、最後の対決となるはずのものに備えている。

 したがって熱核兵器が種々雑多の格納庫やサイロから飛び立った後は、異なる人種や少数派の共生も取るに足らないことになるだろう。現在、原爆科学者の会の終末時計は、人類絶滅の2分前という警報を発している。1953年の米ソによる水爆実験、1962年の米ソ間のキューバ危機、そして現在である。第二次大戦のあと70年間で人口が3倍に増えて、やく73億人という。その地球の生命圏は壊滅して、人類の文明は農耕や牧畜、いずれも破壊されて旧石器時代にまで後退する。こういう事態をどう読むか、どうするか。これが問われている喫緊の課題である。

4 おわりに荀子の言葉を紹介する。荀子は中国,戦国時代末の儒家で、紀元前4世紀末ごろに生まれた。いわく、『君主は船であり、民衆は水である。水は船を載せるけれども、また、水は船を転覆させる』と。天変地異が起きる世界で多くのリーダー・権力者達は、往々にして、この船と水を取り違えたように思われる。いや、権力者だけでなく、現在世界の過半数の民衆自体が、思考停止か沈黙している。これをどうするか、これが肝心だ。(終)

早稲田大学名誉教授、政治経済研究所監事


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