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2023-11-06

辺野古新基地建設に関して代執行を求める提訴を直ちに取り下げ、対話による解決を岸田 自公政権に求める憲法研究者有志の緊急声明<2023.10.27>

 2019年1月、憲法研究者有志は「辺野古新基地建設の強行に反対する憲法研究者声明」を出した。この声明で憲法研究者有志は、「辺野古新基地建設強行は『基本的人権の尊重』『平和主義』『民主主義』『地方自治』という、日本国憲法の重要な原理を侵害、空洞化する」と指摘し、新基地建設を強行しないように求めた。ところが岸田自公政権は沖縄の人たちの基本的人権を深刻に侵害し、「地方自治」を踏みにじる米軍(人)の行為に適切に対応しない一方、2023年9月4日の最高裁判決等を根拠に代執行手続を進めるなど、辺野古新基地建設を強行しようとしている。10月4日、国土交通大臣が設定した期限内に玉城デニー知事が計画変更申請の承認について判断をしないとしたのを受けて、翌10月5日、岸田政権は代執行を求める提訴を強行した。私たち憲法研究者有志は、岸田自公政権に代執行を求める提訴を直ちに取り下げ、改めて、沖縄県民の「基本的人権」「平和主義」「民主主義」「地方自治」の保障という観点を念頭に置き、沖縄県との対話・解決を求める。

1「基本的人権の尊重」「平和主義」「地方自治」「民主主義」と相容れない辺野古新基地建設

 2019年1月の声明で、「辺野古新基地建設問題は、憲法9条や日本の安全保障の問題であると同時に、なによりもまず、沖縄の人々の人権問題である」と憲法研究者有志は指摘した。上記声明で憲法研究者が「沖縄では多くの市民が在沖米軍等による犯罪や軍事訓練、騒音などの環境破壊により、言語に絶する苦しみを味わってきた」と指摘した状況は依然として変わらない。米軍人等による犯罪では不平等な内容の日米地位協定により、被害を受けた市民が理不尽な立場に追い込まれている。加えて、今も人々の生活を顧みない軍事訓練が沖縄県や市町村の意向を無視して強行されており、人々の「基本的人権」が侵害され、脅かされている。
 来月からの嘉手納基地への米軍無人機MQ9の移転配備・運用など、今も着々と、沖縄では異次元の基地強化が進められている。岸田自公政権が2022年12月に閣議決定した「安保3文書」のうちの一つ、「防衛力整備計画」1頁では、アメリカの軍事戦略である「統合防空ミサイル防衛能力」の強化が明記されている。この「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)の一環を担うものとして与那国島、石垣島、宮古島にはミサイル部隊が配備・増強される計画、沖縄市には陸上自衛隊の弾薬庫建設、うるま市にはミサイル基地建設が進められようとしている。辺野古新基地建設についても弾薬搭載エリア、係船機能付き護岸、2本の滑走路の新設など、現在の普天間飛行場と異なり、基地機能が強化される。こうした新基地建設は「沖縄の負担軽減」に逆行する「負担増」である。有事になれば必然的に攻撃対象となるなど、沖縄県民の「平和的生存権」も侵害される。まさに、辺野古新基地建設も平和主義とは相容れない。
 2019年2月の県民投票では、米軍(人)等が沖縄県民の「暮らしと安全」に配慮せずに脅かす現実も踏まえ、辺野古新基地に反対する票が多数を占めた。度重なる知事選挙や国政選挙でも、辺野古新基地建設に反対する民意が示されてきた。辺野古に新基地をつくらせないというのは沖縄県民の民意である。にもかかわらず、岸田自公政権は新基地建設を強行する姿勢を貫いている。県民投票、知事選挙、国政選挙で何度も示されてきた沖縄県民の民意に反して新基地建設を強行する岸田自公政権の対応は「民主主義」からも到底、正当化できない。

2 粘り強い対話に基づく解決を

 玉城デニー知事が辺野古新基地建設に反対の姿勢を貫いているのは、知事選挙の際の公約でもあり、沖縄県民の声を真摯に踏まえた結果である。ところが岸田自公政権は沖縄県民の声に「聞く力」を発揮することなく、辺野古新基地建設を強行している。辺野古新基地建設を強行しようとする岸田政権のこのような対応は、「基本的人権の尊重」「平和主義」「国民主権」などの憲法の基本原理を充実させるために必須である「地方自治」の保障を軽視・無視するものであり、決して容認できるものではない。
 2023年9月4日の最高裁判所の判決により、沖縄県知事は設計変更申請の承認を義務付けられたと報道・主張されることが少なくない。しかし9月27日付の行政法研究者有志声明が適切に指摘するように、当該最高裁判決は、国土交通大臣の取消裁決の拘束力を根拠に、本来問われていた、国土交通大臣の「是正の指示」の適法の審査を放棄するという、政府追随の姿勢が顕著な任務放棄の判決と言わざるを得ない。その点を措くとしても、当該最高裁判決は「たんに本件是正の指示の取消請求を棄却したものにすぎず、承認そのものを義務付ける法的効果を有しない」。地方自治法上、「是正の指示」(地方自治法245条の8第2項)に従わなかった場合、代執行するためには「高等裁判所」への提訴が要求され、その裁判で「〔他の〕方法によつてその是正を図ることが困難」、「それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるとき」等の要件が審理される(地方自治法245条の8第3項)。こうした制度からすれば、上記9月4日付最高裁判決が沖縄県知事に設計変更申請の承認を義務づけたと解するのは正確でない。むしろ憲法第8章で保障されている「地方自治」は「基本的人権の保障」「平和主義」「国民主権」の実現には必要不可欠であるために手厚い保障が必要であり、地方自治法上も、国の関与は「その目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、普通地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない」(同245条の3第1項)とされている。そして「地方自治」の重要性から代執行はやむを得ない場合にしかとることができない旨の規定である以上(地方自治法245条の8第1項)、沖縄県側との真摯な対話等もせず、直ちに代執行訴訟といった強硬手段をとった岸田自公政権の対応は、憲法の基本原理の実現のために必須の「地方自治」を軽視・無視するものとして断じて容認できない。「地方自治の本旨」(憲法92条)は「団体自治」と「住民自治」の原則から構成されるが、玉城デニー知事が国土交通大臣の是正の指示を承認しないという判断は県民の民意を反映した「住民自治」を実践する対応であり、岸田自公政権は重く受け止めるべきである。私たち憲法研究者有志一同は、岸田自公政権に代執行のための提訴を直ちに取り下げることを求める。そして、「基本的人権の尊重」「平和主義」「民主主義」「地方自治」の保障という観点からも、「辺野古新基地建設は普天間基地の危険除去のための唯一の手段」等の非科学的な主張に固執せず、沖縄県との対話を粘り強く続けることを求める。

以上

(賛同者) 2023年10月27日16時段階67名
愛敬 浩二(早稲田大学)
青井 未帆(学習院大学)
青野 篤(大分大学)
麻生 多聞(鳴門教育大学)
足立 英郎(大阪電気通信大学名誉教授)
飯島 滋明(名古屋学院大学)
井口 秀作(愛媛大学)
石川 多加子(金沢大学)
石塚 迅(山梨大学)
石村 修(専修大学名誉教授)
井田 洋子(長崎大学)
稲 正樹(元国際基督教大学)
植野 妙実子(中央大学名誉教授)
植松 健一(立命館大学教授)
榎澤 幸広(名古屋学院大学)
大内 憲昭(関東学院大学名誉教授)
大久保 史郎(立命館大学名誉教授)
岡田 健一郎(高知大学)
奥野 恒久(龍谷大学教授)
奥田 喜道(奈良教育大学)
小栗 実(元鹿児島大学教員)
上脇 博之(神戸学院大学)
河上 暁弘(広島市立大学)
木下 智史(関西大学)
君島 東彦(立命館大学)
清末 愛砂(室蘭工業大学大学院教授)
倉田 原志(立命館大学)
倉持 孝司(元大学教員)
小林 武(沖縄大学)
小林 直樹(姫路獨協大学)
近藤 真(岐阜大学名誉教授)
斉藤 小百合(恵泉女学園大学)
笹沼 弘志(静岡大学)
澤野 義一(大阪経済法科大学特任教授)
清水 雅彦(日本体育大学)
菅原 真(南山大学)
芹澤 齊(青山学院大学名誉教授)
高作 正博(関西大学)
髙佐 智美(青山学院大学)
高橋 利安(広島修道大学名誉教授)
高良 沙哉(沖縄大学)
多田 一路(立命館大学)
建石 真公子(法政大学)
常岡(乗本) せつ子(フェリス女学院大学名誉教授)
内藤 光博(専修大学)
長岡 徹(関西学院大学名誉教授)
中里見 博(大阪電気通信大学)
中島 茂樹(立命館大学名誉教授)
長峯 信彦(愛知大学)
永山 茂樹(東海大学) 
成澤 孝人(信州大学)
成嶋 隆(新潟大学名誉教授)
二瓶 由美子(元桜の聖母短期大学教員)
丹羽 徹(龍谷大学)
根森 健(埼玉大学名誉教授、新潟大学名誉教授)
藤野 美都子(福島県立医科大学)
前原 清隆(元日本福祉大学教員)
松原 幸恵(山口大学)
宮井 清暢(富山大学名誉教授)
三宅 裕一郎(日本福祉大学)
村田 尚紀(関西大学)
本 秀紀(名古屋大学)
山内 敏弘(一橋大学名誉教授)
吉井 千周(富山大学)
若尾 典子(佛教大学)
脇田 吉隆(神戸学院大学)
和田 進(神戸大学名誉教授)

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