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2023-11-06

飯島 滋明(名古屋学院大学教授)「最高裁判所」をどうするか <2023.10.27 憲法研究者有志の緊急声明資料>

 1789年の大革命時に裁判所が保守的役割を果たしたことから「裁判所不信」の伝統がフランスに存在したように、裁判所も「圧政」に加担する機関にもなり得ます。

 この点、三淵忠彦初代最高裁判所長官は、「これからの最高裁は従来の場合を取り扱うほかに、国会・政府の法律・命令・処分が憲法に違反した場合には、断固として、その憲法違反たることを宣言してその処置をなさねばならぬ」と述べていました。しかし辺野古新基地建設に関する2023年9月4日の判決をみても、今の最高裁判所は個人の権利・自由の擁護、憲法擁護の役割を果たしているとは到底言えず、政府の手下そのものです。

 その一因は、政府による最高裁判所への人事介入にあります。たとえば2016年 7月19日から 2021年 8月26日まで最高裁判所の裁判官であった木澤克之氏。水島朝穂早稲田大学教授は木澤氏に関して「通常、弁護士で最高裁判事に任命されるのは、東京の3弁護士会か大阪弁護士会の会長経験者が多かった。弁護士会の主要な役職を何もやらずに最高裁判事になった木澤の唯一目立った肩書は、加計学園監事である」と皮肉を述べています(水島教授のブログ『直言』2021年10月25日付)。内閣法制局長官、日銀総裁等への安倍政権の人事介入は有名ですが、最高裁判所でも「私物化」が進められていました。弁護士会の推薦枠で推薦された人物を安倍政権は受け入れず、刑法学者とはいえ弁護士活動がほとんどなかった山口厚氏が最高裁判所の裁判官に指名されました。彼は当時、共謀罪に賛成する人物として批判されていました。9月4日の判決にも山口厚氏は関わっています。

 ただ、最高裁判所が政府の手下になりさがっているのは自公政権の人事介入だけが理由ではありません。宇賀克也裁判官のように「法の支配」「個人の権利・自由」を擁護すべき裁判官として役割を果たす裁判官もいます。たとえばアメリカでは2020年6月15日、連邦最高裁判所は6対3の多数意見で、職場でのLGBT差別は、性別に基づく差別を禁止する公民権法7編に違反すると判示しました。連邦最高裁判所がLGBTに基づく差別を公民権法第7編に違反すると判示したのはトランプ大統領の政策を否定するものでしたが、法廷意見を書いたのは、トランプ大統領に指名されたニール・ゴーサッチ判事です。日本の最高裁判所が問題なのは任命後でも「法律家」としての矜持も持たずに「政府の手下」に甘んじ続けることです。9月4日付の最高裁は、「法定受託事務に係る申請を棄却した都道府県知事の処分について、これを取り消す裁決がされた場合、都道府県知事は、上記裁決の趣旨に従って、改めて上記申請に対する処分をすべき義務を負うというべきである」と判示しました。憲法81条では、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と明記されています。「処分」が明記されているように、国土交通大臣の裁決という「行政処分」が憲法に適合するかどうかを審議するのが最高裁判所に求められた役割です。ところが国土交通大臣の裁決があったので知事はそれに従うべきと判示しました。驚くべき「職務放棄」です。「最も民主的」「最も進歩的」と言われた「ヴァイマール憲法」体制でナチスが台頭した一因として、右翼勢力に加担した裁判所の責任も指摘されます。後世、日本の最高裁も「法の支配」を貫徹する役割を放棄し、政府の手下に自らになりさがったと批判されるでしょう。

 今後、「政府の手下」になりさがることを何とも思わない最高裁判所を「法の支配」を実現する機関、「個人の権利・自由」「憲法」を擁護する機関に変えるためにはどうすべきか、国民的議論が必要となります。                                

以上

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