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2023-06-08

稲正樹(元UCU)「軍事大国への道は、日本の平和と安全につながるか?? 」上石神井九条の会2023年5月28日の総会後の学習会での報告レジュメ

稲正樹(元ICU)

0 出発点としての安保3文書改訂
大内要三「改訂された安保政策3文書を読み解く」2023.1.7平和憲法研究会報告レジュメ
・今回の3文書改訂は米国からの日米安保政策の「整合性」要求と安倍元首相らの日本帝国復興願望から。
・新戦略は経済・技術・国民生活まで軍事優先に組み込む
・新戦略は米国製兵器爆買いの「ツケ」を国民の負担で精算する
・新戦略は沖縄を戦地に想定して日米共同で実戦を戦える自衛隊をつくる
・新戦略はアジア諸国を脅迫することで日本の平和を守ろうとする
・国権の最高機関である国会で、先送りされた増税を否定し関連法案の提出を許さず予算審議で軍拡を拒否して、3文書を無効にすることを望む

【国家安全保障戦略】
1 策定の趣旨
 我が国を含む先進民主主義国は、自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値を擁護し、共存共栄の国際社会の形成を主導してきた。途上国を含む国際社会の多くの国も、こうした国際秩序を前提に、グローバリゼーションの中で、国際社会の平和と安定と経済発展の果実を享受してきた。しかし、普遍的価値を共有しない 一部の国家は、独自の歴史観・価値観に基づき、既存の国際秩序の修正を図ろうとする動きを見せており、国際関係において地政学的競争が激化している。我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境のただ中にある。その中において、防衛力の抜本的強化を始めとして、最悪の事態をも見据えた備えを盤石なものとし、我が国の平和と安全、繁栄、国民の安全、国際社会との共存共栄を含む我が国の国益を守っていかなければならない。

Ⅱ 我が国の国益 
 1 主権と独立を維持し、領域を保全し、国民の生命・身体・財産の安全を確保する。豊かな文化と伝統を継承しつつ、自由と民主主義を基調とする我が国の平和と安全を維持する。世界で尊敬され、好意的に受け入れられる国家・国民であり続ける。 
 2 経済成長を通じて更なる繁栄を実現する。開かれ安定した国際経済秩序を維持・強化し、他国と共存共栄できる国際的な環境を実現する。
3 自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値や国際法に基づく国際秩序を維持・擁護する。特に、インド太平洋地域において、自由で開かれた国際秩序を維持・発展させる。

Ⅲ 我が国の安全保障に関する基本的な原則
 1 国際協調を旨とする積極的平和主義を維持する。我が国を守る一義的な責任は我が国にあるとの認識の下、変化する安全保障環境を直視し、必要な改革を遂行し、我が国の安全保障上の能力と役割を強化する。
2 普遍的価値を維持・擁護する形で、安全保障政策を遂行する。世界的に最も成熟し安定した先進民主主義国の一つとして、普遍的価値・原則の維持・擁護を各国と協力する形で実現することに取り組み、国際社会が目指すべき範を示す。
3  平和国家として、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない。
 4 日米同盟は我が国の安全保障政策の基軸であり続ける。
 5 我が国と他国との共存共栄、同志国との連携、多国間の協力を重視する。

IV 我が国を取り巻く安全保障環境と国家安全保障上の課題
1 「グローバルな安全保障環境と課題」では、グローバルなパワーの重心が、インド太平洋地域に移る形で、国際社会は急速に変化し続けている。一部の国家が国際秩序に挑戦する動きを加速させている。
2 「インド太平洋地域における安全保障環境と課題」では、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)というビジョンの下、同盟国・同志国等✴️と連携し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を実現し、地域の平和と安定を確保していくことは、我が国の安全保障にとって死活的に重要。「現在の中国の対外的な姿勢や軍事動向等は、我が国と国際社会の深刻な懸念事項であり、我が国の平和と安全及び国際社会の平和と安定を確保し、法の支配に基づく国際秩序を強化する上で、これまでにない最大の戦略的な挑戦であり、我が国の総合的な国力と同盟国・同志国等との連携により対応すべき」。「北朝鮮の軍事動向は、我が国の安全保障にとって、従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」。「インド太平洋地域におけるロシアの対外的な活動、軍事動向等は、中国との戦略的な連携と相まって、安全保障上の強い懸念」。⏩これらは「潜在的脅威」に過ぎない。戦略には「脅威」の見積もりが必要。仮想敵国にとっての日本侵略のメリット、能力、意志の分析が必要だが米軍の戦力に整合させるだけの自衛隊は本格的な分析はしない。
・中露朝とも日本に戦争を仕掛ける必然性、メリットがない。むしろ国内的・国際的なデメリットの方が大きい
・現代戦は、情報戦→地上戦の順で進むが、敵地上陸・占領・統治をしないと完結しない
・中露朝とも現在、日本を一部でも占領する能力がない
・外交で互いの軍縮交渉をせず将来の脅威想定での軍拡は愚か
✴️国家防衛戦略では、第1のアプローチ:我が国自身の防衛体制の強化
第2のアプローチ:日米同盟による共同抑止・対処
第3のアプローチ:同志国等との連携我が国の安全保障を確保するため1カ国でも多くの国々との連携強化が極めて重要
⚫︎ 地域や各国の特性等を考慮した多角的・多層的な防衛協力・交流を積極的に推進
➢ 豪州:「特別な戦略的パートナー」として、米国に次ぐ緊密な防衛協力関係を構築
➢ 印:海洋安全保障をはじめ幅広い分野において二国間・多国間の軍種間交流をさらに深化
➢ 英・仏・独・伊等:グローバルな課題に加え欧州・インド太平洋地域の課題に相互に関与を強化
➢ NATO・欧州連合(EU):国際的なルール形成やインド太平洋地域の安全保障に関して連携強化
➢ 韓国:北朝鮮を念頭に日米韓の連携を強化
➢ カナダ・NZ:インド太平洋地域の課題への取組のため連携を強化
➢ 北欧・バルト・中東欧諸国(チェコ・ポーランド等):情報戦、サイバーセキュリティ、SC等の連携強化
➢ 東南アジア諸国等:各国の状況に合わせた各レベルでの協議、共同訓練、防衛装備移転等を推進
➢ モンゴル:能力構築支援、多国間共同訓練等に加え、防衛装備・技術協力を推進
➢ 中央アジア諸国:能力構築支援を含む防衛交流を推進
➢ 太平洋島嶼国:同盟国・同志国等とも連携して能力構築支援等を推進
➢ インド洋沿岸国・中東諸国・アフリカ諸国等:防衛協力を推進。特にジブチとの連携強化

Ⅴ 我が国の安全保障上の目標

Ⅵ 我が国が優先する戦略的なアプローチ 
総合的な国力(外交力、防衛力、経済力、技術力、情報力)を用いて、戦略的なアプローチを実施する。
 ⑴ 危機を未然に防ぎ、平和で安定した国際環境を能動的に創出し、自由で開かれた国際秩序を強化するための外交を中心とした取組の展開を行う。
  ⑵ 我が国の防衛体制の強化
ア 国家安全保障の最終的な担保である防衛力の抜本的強化 宇宙・サイバー・電磁波の領域及び陸・空・海の領域における能力を有機的に融合し、その相乗効果により自衛隊の全体の能力を増幅させる領域横断作戦能力に加え、侵攻部隊に対し、その脅威圏の外から対処するスタンドオフ・防衛能力等により、 重層的に対処する。また、有人アセットに加え、無人アセット防衛能力も強化すること等により、様々な防衛能力が統合された防衛力を構築していく。さらに、可動率向上や弾薬・燃料の確保、主要な防衛施設の強靭化により、防衛力の実効性を一層高めていくことを最優先課題として取り組む。
 我が国への侵攻を抑止する上で鍵となるのは、ス タンド・オフ防衛能力等を活用した反撃能力である 。今後も、変則的な軌道で飛翔するミサイル等に対応し得る技術開発を行うなど、ミサイル防衛能力を質・量ともに不断に強化していく。
相手からミサイルによる攻撃がなされた場合、ミサイル 防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からの更なる武力攻撃を防ぐために、我が国から有効な反撃を相手に加える能力、すなわち反撃能力を保有する必要がある。
 この反撃能力とは、我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段と して弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の三要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力をいう。
 反撃能力については、 1956 年2月29日に政府見解として、憲法上、「誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」としたものの、これまで政策判断として保有することとしてこなかった能力に当たる。    
 この政府見解は、2015年の平和安全法制 に際して示された武力の行使の三要件の下で行われる自衛の措置にもそのまま当てはまるもので あり、今般保有することとする能力は、この考え方の下で上記三要件を満たす場合に行使し得るものである 。
 この反撃能力は、憲法及び国際法の範囲内で、専守防衛の考え方を 変更するものではなく、武力の行使の三要件を満たして初めて行使され、武力攻撃が発生していない段階で自ら先に攻撃する先制攻撃は許されないことはいうまでもない。
 さらに、有事の際の防衛大臣による海上保安庁に対する統制を含め、 自衛隊と海上保安庁との連携・協力を不断に強化する。
 また、政府横断的な連携を図る形での自衛隊のアセットを活用した柔軟に選択される抑止措置(FDO)等を実施する。
 我が国の防衛力の抜本的強化は、速やかに実現していく必要がある。具体的には、 本戦略策定から5年後の 2027 年度までに、我が国への侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除できるように防衛力を強化する。さらに、 おおむね 10 年後までに、より早期かつ遠方で我が国への侵攻を阻止・ 排除できるように防衛力を強化する。さらに、今後5年間の最優先課題として、現有装備品の最大限の有効活用と、将来の自衛隊の中核となる能力の強化に取り組む。
 上記の自衛隊の体制整備や防衛に関する施策は、かつてない規模と内容を伴うものである。また、防衛力の抜本的強化は、一時的な支出増では対応できず、一定の支出水準を保つ必要がある。そのため、これら施策は、本戦略を踏まえ、国家防衛戦略及び防衛力整備計画に基づき実現するとともに、その財源についてしっかりした措置を講じ、これを安定的に確保していく。
 このように、必要とされる防衛力の内容を積み上げた上で、同盟国・同志国等との連携を踏まえ、国際比較のための指標も考慮し、我が国自身の判断として、2027 年度において、防衛力の抜本的強化とそ れを補完する取組をあわせ、そのための予算水準が現在の国内総生産 (GDP)の2%に達するよう、所要の措置を講ずる。[以下、略]

【国家安全防衛戦略】
Ⅰ 策定の趣旨
Ⅱ 戦略環境の変化と防衛上の課題
Ⅲ  我が国の防衛の基本方針
 今後の防衛力については、相手の能力と戦い方に着目して、 我が国を防衛する能力をこれまで以上に抜本的に強化するとともに、新たな戦い方 への対応を推進し、いついかなるときも力による一方的な現状変更やその試みは決して許さないとの意思を明確にしていく必要がある。
 3つの防衛目標=①力による一方的な現状変更を許容しない安全保障環境を創出。②力による一方的な現状変更やその試みを、同盟国・同志国等と協力・連携して抑止・対処し、早期に事態を収拾。③万が一、我が国への侵攻が生起する場合、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除。
 防衛目標を実現するための3つのアプローチ=①我が国自身の防衛体制の強化、②日米同盟の抑止力と対処力を更に強化、③同志国等との連携を強化
 1 我が国自身の防衛体制の強化
 ⑴ 我が国の防衛力の抜本的強化
 抜本的に強化された防衛力は、防衛目標である我が国自体への侵攻を我が国が主たる責任をもって阻止・排除し得る能力でなくてはならない。
 これは相手にとって軍事的手段では我が国侵攻の目標を達成できず、生じる損害というコストに見合わないと認識させ得るだけの能力を我が国が持つことを意味する。
 こうした防衛力を保有できれば、同盟国たる米国の能力と相まって、我が国への侵攻のみならず、インド太平洋地域における力による一方的な現状変更やその試みを抑止でき、ひいてはそれを許容しない安全保障環境を創出することにつながる。
 新しい戦い方に対処するために必要な機能・能力:
 ➢ 我が国への侵攻そのものを抑止するために、遠距離から侵攻戦力を阻止・排除
  ①スタンド・オフ防衛能力  ②統合防空ミサイル防衛能力
 ➢ 抑止が破られた場合、①と②の能力に加え、領域を横断して優越を獲得し、非対称的な優勢を確保
  ③無人アセット防衛能力  ④領域横断作戦能力  ⑤指揮統制・情報関連機能
 ➢ 迅速かつ粘り強く活動し続けて、相手方の侵攻意図を断念
  ⑥機動展開能力・国民保護  ⑦持続性・強靭性
防衛力の抜本的強化は、いついかなる形で力による一方的な現状変更が生起するか予測困難であることから、速やかに実現していく必要がある。
 5年後の2027年度までに、我が国への侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除できるように防衛力を強化。
 おおむね10年後までに、より確実にするための更なる努力 (より早期・遠方で侵攻を阻止・排除)。
 今後5年間の最優先課題は、現有装備品の最大限活用:可動率向上や弾薬・燃料確保、防衛施設強靭化を加速 。 
 将来の中核分野の抜本的強化:スタンド・オフ防衛能力や無人アセット防衛能力等。「反撃能力」:我が国への侵攻を抑止する上での鍵
⑵ 国全体の防衛体制の強化
2 日米同盟による共同抑止・対処
⚫︎ 米国との同盟関係は、我が国の安全保障の基軸
⚫︎ 日米共同の意思と能力を顕示し、力による一方的な現状変更やその試みを抑止
⚫︎ 我が国への侵攻が生起した場合には、日米共同対処により侵攻を阻止
 ➢ 日米共同の抑止力・対処力の強化(役割・任務・能力の議論を深め抑止力を一層強化)
 ➢ 同盟調整機能の強化(同盟調整メカニズム(ACM)等の調整機能を更に発展)
 ➢ 共同対処基盤の強化(情報保全、サイバーセキュリティ、装備・技術協力等)
 ➢ 在日米軍の駐留を支える取組(在日米軍再編等)
3 同志国等との連携

Ⅳ 防衛力の抜本的強化に当たって重視する能力
 1 スタンドオフ防衛=敵地攻撃力:様々な地点から重層的に艦艇等を阻止・排除できる必要十分な能力 。 各種プラットフォームから発射可能 。高速滑空飛翔や極超音速飛翔等の迎撃困難な能力の強化。 国産ミサイルの増産体制確立前に十分な能力を確保するため、 外国製のスタンド・オフ・ミサイルを早期に取得➡ どこから見ても攻撃用兵器であって防衛用装備でない。2018年から研究開発が始まっていたが、 全て完成するかは疑問。すでに2023年度予算に9415億円が計上。米国の統合ミサイル防空体制への参加が可能に 。
2 統合防空ミサイル防衛能力 :極超音速兵器等への対処能力を抜本的に強化 。ミサイル防衛により公海及び我が国の領域の上空でミサイルを迎撃 。攻撃を防ぐためにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、 相手の領域において有効な反撃を加える能力としてスタンド・オフ 防衛能力等を活用。ミサイル防衛と相まってミサイル攻撃を抑止➡ すでに23年予算に8206億円を計上、 増強された中国攻撃能力に対抗して弾道ミサイル防衛を発展させ、衛星、早期警戒機、レーダーで監視、ミサイルで迎撃する。防衛システム防衛対象は在日米軍基地、洋上の米艦、ハワイ・グアム含む。
3 無人アセット防衛能力:無人装備にAIや有人装備と組み合わせ、非対称的な優勢を獲得可能 。
4 領域横断作戦能力:宇宙・サイバー・電磁波の領域については妨げ能力を含め能力を強化・拡充 。陸海空防衛力:艦艇・戦闘機などを着実に整備。領域横断は陸海空ウサデン(宇宙・サイバー・電磁波の統合運用をいう)。➡23年予算案では宇宙1844億円、サイバー2648億円、陸海空1兆1763億円を計上。
 5 指揮統制機能の強化=統合司令部常設:AI導入等を含めネットワークの抗たん性や情報収集・警戒監視・偵察・ターゲティング(ISRT)能力を強化。情報本部を中心に分析能力を強化 。偽情報の流布を含む情報戦等に対処するための取組も強化 ➡2006年、3自衛隊を有事に統合指揮する統合幕僚長が置かれた。この統合幕僚長を総理大臣・防衛相との連絡役に専念させるため、統合幕僚長とは別に実戦指揮・米軍との調整を担当する統合司令官を置く。ISRTを含む情報本部の機能強化とセット。日米合同司令部の設置も見え隠れしている。
 6 機動展開能力・国民保護:自衛隊自身の海上輸送力・航空輸送力を強化しつつ、民間輸送力を最大限活用する。 統合による後方補給態勢を強化し、特に島嶼部が集中する南西地域にお ける空港・港湾施設等の利用可能範囲の拡大や補給能力の向上を実施。全国に所在する補給拠点の近代化を積極的に推進。 機動展開能力を住民避難に活用するなど、国民保護の任務を実施。
7 持続性・強靭性:必要十分な弾薬・誘導弾・燃料を早急に保有。装備品の可動率向上 。主要司令部の地下化・構造強化、施設の再配置等 。自衛隊員の継戦能力向上のため、衛生機能も強化。

Ⅴ 将来の自衛隊の在り方
陸海空自衛隊の 一元的な指揮を行い得る常設の統合司令部を創設。航空自衛隊を航空宇宙自衛隊とする。

Ⅵ 国民の生命・身体・財産の保護・国際的な安全保障協力への取組

Ⅶ いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤
・新たな利益率の算定方式を導入することで、防衛産業の魅力化を図る
・同盟国・同志国等の防衛当局と、防衛産業に関するサプライチェーン保護
・特許出願非公開等の経済安保施策と連携した機微技術管理等を実施。
・国内研究機関・学術界の民生技術を積極活用するための枠組みを構築
・防衛装備移転三原則や運用指針を始めとする制度の見直し、防衛装備移転を円滑に進めるため、基金を創設。[以下、略]

  1. 5年で43兆円の大軍拡*1

     政府は昨年末、2023年度から5年間で総額43兆円となる防衛力整備計画を決めた。現行計画に比べて1.6倍の規模で、17兆円の追加予算が必要。そのうち、14兆6000億円の想定・財源は決まっているが、残り2兆5000億円は未定で「さまざまな工夫」で確保するとなっている。
     (a)支出を効率化する歳出改革により 3 兆円強、
     (b)予算の使い残しのうち翌年度に繰り越されなかったお金=決算剰余金の活用により3兆5000億円程度、
     (c)新たに創設される防衛力強化資金(特別会計の剰余金や国有財産の売却など税外収入)で4兆6000億~5 兆円強、
    (d)法人税・所得税・タバコ税の増税によりそれぞれ確保するとしている。
  2. 2023年度予算案*2

     軍事費は、再来年度以降の軍事費に充てる「防衛力強化資金」(仮称)への繰り入れを含めて前年度比約4.8兆円増の10兆1686億円に膨れ上がった。歳出総額114兆3812億円の9%、歳出増加額約7兆円の7割が軍事費関係に充てられるという異常な軍拡予算。前年度比で約4兆8000億円の増加で、財務省も「防衛関係費」は前年度比89%増と説明し、1.9倍の増額。
    軍事費は「防衛力強化資金」への繰り入れ分の3兆3806億円を除いた23年度の軍事費だけでも22年度比1兆4000億円増の6兆8219億円と過去最大で、対国内総生産(GDP)比で1.2%となった。政府は、これまで60年以上にわたって、軍事費を少なくとも当初予算では「GDP比1%以内」にとどめてきたが、これを公然と踏みにじるもの。さらに、「軍事費は建設国債の対象としない」というこれまでの政府方針を変更して自衛隊の艦船建造、施設建設に4343億円の建設国債を充てるなど、侵略戦争への反省の上に立って築かれた財政のルールを投げ捨て、なりふり構わず軍拡財源を確保しようとする予算となっている。
     防衛省予算とは別に、財務省が所管する「防衛力強化資金」を創設し、特別会計からの繰り入れ、国有財産の売却のほか国立病院などの積立金やコロナ対策事業の残金まで流用して4兆5919億円を確保する。このうち 3兆3806億円を積み立てて24年度以降の軍事費まで先取り。このほか東日本大震災の復興特別所得税の増税・流用や、建設国債の充当にも手をつける。
  3. 我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法案
     2023年2月3日に、防衛力の抜本的強化に必要な財源を確保する特別措置法案を閣議決定し、国会に提出した。2023年度から5年間の防衛費を総額43兆円程度に増やすため「防衛力強化資金」を創設するのが柱。
     政府は軍事費増額を決めた昨年末、22年度水準からの増額分となる17兆円程度の財源について、税外収入で4兆6000億円~5兆円強、決算剰余金で3兆5000億円程度、歳出改革で3兆円強を捻出し、残りを増税や建設国債などで賄う方針を示していた。特措法案は、このうち税外収入の確保策と使途を定める。23年度予算案で防衛費に使う税外収入として、
     ・為替介入に備える外国為替資金特別会計と、公共事業などのための財政投融資特別会計からそれぞれ3兆1000億円、6000億円を回す(特別会計からの繰入金)
     ・大手町の国有ビル「大手前プレイス」の売却収入約4000億円
     ・国庫への返納金(国立病院機構などの積立金422億円、地域医療機能推進機構の積立金324億円、中小企業向けのゼロゼロ融資資金の残金2350億円)で4兆5919億円 
     これを複数年度にわたって支出する枠組みとして防衛力強化資金を創設する。このうち、1.2兆円を23年度に支出、残りを24年度以降の軍事費にあてる。
     増税規定は特措法案に盛り込んでいない。政府・与党は昨年末に法人、所得、たばこの3税の増税により27年度時点で1兆円強を確保する方針を決めたが、実施時期は「24年以降の適切な時期」とするにとどめ、判断を先送りした。*3

     *以下は、野口悠紀雄「防衛費増額の『財源確保法案」は赤字国債増発を見えにくくする”トリック”」(Diamond Online 2023.4.20)の指摘
     これには二つの問題がある。
     第一に、こうした収入が、28年度以降の年度でも継続的に期待できるとは限らない。第二に、(これがより重要な点だが)こうした収入は、これまでは一般歳出などの財源として使えるものだった。
     それが防衛費だけに回されるとすれば、他の経費に充て得る財源がそれだけ少なくなる。それは赤字国債の発行によって賄うしかない。
     結局のところ、これは赤字国債の発行によって防衛費を賄うのと同じことだ。ただ、それが分かりにくくなっているだけのことだ。
     「決算剰余金」:さらに問題多い 予備費の過大計上につながる恐れ
     政府の計画では、防衛力強化資金に繰り入れる外為特会などの剰余金だけでなく、一般会計の決算剰余金を防衛費増額の財源として活用することも掲げられている。
     しかしこれも問題がある。
     決算剰余金とは、簡単に言えば使い残しのことだ。財政法によって、その半分は国債の償還に充てるべきこととされている。残りの半分は、次年度の財源として使える。
     いまの制度では、剰余金は一般財源に使える。だから、それを防衛費に限定することになれば、他の歳出に使える財源が圧迫されることになる。つまり、防衛力強化資金の場合と同じ問題が起きる。この方策も、実質的には赤字国債の増発によって防衛費を賄うことを見えにくくしているだけだ。
     なお、現在国会で審議の対象となっているのは、防衛力強化資金の設立で、決算剰余金については、現在ある制度を使うだけのことなので審議の対象になっていない。
     剰余金の活用には、さらに大きな問題がある。なぜなら、剰余金を意図的に膨らますことが可能だからだ。このためには、当初予算における予備費を多めに計上すればよい。
     鈴木財務相はそのような運営はしないとしている。しかし、コロナ対策以降、予備費が著しく膨張しているのは事実だ。
     従来は、災害など不測の事態に備えて毎年3000億~5000億円を計上するのが通例だった。しかし、2020年度の補正予算で、コロナ対応予備費を計9.65兆円積んだ。21~22年度も当初予算で5兆円ずつを計上した。
     23年度予算では、一般予備費5000億円の他に、新型コロナウイルス感染症および原油価格・物価高騰対策予備費に4兆円、ウクライナ情勢経済緊急対応予備費に1兆円を計上した。
     新型コロナウイルスの感染拡大期ではどのような事態が起きるか分からないから予備費を多めに計上するという事情があったかもしれない。
     しかし、そうした必要がなくなってからも、これまでの延長で多額の予備費を計上する可能性がある。そうなれば、結局のところ、予備費という名目で次年度の防衛関係を賄うことになってしまう。
     予備費を多めに計上するには、赤字国債の増額が必要だ。だから、この場合にも実質的には赤字国債によって防衛費を賄っているのと同じことになる。
     大変重要なことなので繰り返すが、防衛力強化資金にしても決算剰余金にしても、実質的には赤字国債の増発によって防衛費を賄うにもかかわらず、それは分かりにくくしているだけのことだ。

     *東京新聞社説 2023.5.12 軍拡予算確保法 倍増ありき無理がある
     https://www.tokyo-np.co.jp/article/249445
     国内総生産(GDP)比1%程度で推移してきた防衛費を関連予算を含めて2%に倍増するための財源確保特別措置法案の衆院審議が大詰めを迎えている。
     与党は来週にも衆院を通過させる方針だが、防衛費倍増や「軍拡増税」の妥当性、専守防衛の在り方を巡る議論は十分と言えない。防衛費倍増ありきで防衛力強化を図ることには無理がある。採決を強行せず議論を続けるべきだ。
     政府は2027年度の防衛関連予算を23年度より約4兆円多い約11兆円、GDP比2%に倍増させる方針。毎年新たに必要な財源のうち3兆円を税外収入、決算剰余金や歳出改革、残り1兆円強は増税で確保するとしている。
     特措法案の柱は税外収入を積み立てて複数年度で支出する「防衛力強化資金」の創設だが、税外収入として見込む国有財産の売却益や特別会計の剰余金は一回限りでとても安定財源とは言えない。
     政府は防衛費に充てる一般会計の決算剰余金を年平均1兆4000億円と説明するが、新型コロナウイルス対策の未使用分も算入した見積もりであり、今後も同規模を確保できる保証はない。歳出改革の具体策も示していない。法人、復興特別所得、たばこ三税の増税策は自民党内の反対で法案に盛り込まれず、岸田文雄首相は「しっかり財源を確保する」と繰り返すだけだ。
     税外収入や決算剰余金を防衛費に充てれば、他の経費に充てる財源が減り、穴埋めのために国債を発行することになりかねない。
     一般会計はすでに財源の 3分の1を国債に依存している。国債依存が強まれば、財政はさらに悪化し、負担を将来世代に強いることになる。戦時国債の乱発による軍備拡張で戦争に突き進んだことを教訓とし、戦後は防衛費のための国債発行を「禁じ手」としてきたことを忘れてはなるまい。
     そもそも首相はなぜ防衛予算を倍増させなければならないか、国民に対して説得力のある説明を尽くしたとは言い難い。財源確保の特措法案も欠陥だらけだ。広く国民の負担増につながる法案を、数の力で押し通してはならない。
  4. 「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律案」の内容と特徴 *4

    *兵器製造の基盤強化:自衛隊の任務遂行に不可欠な装備品等(=自衛隊が使用する装備品、船舶、航空機及び食糧その他の需品)を製造等(=製造、研究開発及び修理並びにこれらに関する役務の提供)する事業者(=軍需産業)が、①原材料・部品などの供給網(サプライチェーン)の強靭化、②製造工程の効率化のための設備導入、③サイバー・セキュリティーの強化、④事業承継等を実施する場合、政府がこれらの経費を直接負担することを定めている。3月に成立した23年度の予算に363億円が計上されている。
     さらに、装備品等製造事業者に対して、防衛省はサプライチェーン調査を行う。装備品等製造事業者は防衛省の調査に対して回答の努力義務がある。調査の結果を以下の措置にも活用し、基盤の強化を図る。
     *「武器輸出」の円滑化:装備移転を行う企業(=上の装備品等製造事業者)が防衛大臣の求めに応じて、装備品の仕様・性能等を変更する場合、その費用に対する助成金の交付がなされる。防衛大臣が指定する指定装備移転法人が基金を設け、企業に助成金を交付する。23年度の予算では400億円が充てられている。さらに、株式会社日本政策金融公庫が、装備品製造等事業者(=装備移転を行う企業)による指定装備品等の製造等又は装備移転が円滑に行われるよう、必要な資金の貸付けについて配慮をする。
     *製造施設等の国による保有:上記の措置を講じてもなお、指定装備品等の的確な調達を図ることができないと認める場合には、防衛大臣は、企業から当該指定装備品等の製造等を行う施設又は設備を取得できる。また防衛大臣は、取得した指定装備品製造施設等について、当該指定整備品等の製造等を行わせるため、別企業に、その管理を委託できる。→企業の固定費負担等の軽減を図りつつ、国内基盤を維持するための、製造施設の国有化の規定であり、戦前・戦中の工廠(=国営軍需工場)の復活につながる。
     *装備品などの契約における秘密保全措置は、これまでの契約上の守秘義務から、法律上の守秘義務になる。防衛大臣は、防衛省と装備品等に関する契約を締結した企業に対し、一定の場合、情報を装備品等秘密に指定し、その有効期限を定め、提供できるとされる。一定の場合とは、契約履行のため、装備品等又は自衛隊の施設に関する情報で、公になっていないもののうち、その漏洩が我が国の防衛上支障を与える恐れがあるあるため特に秘匿することが必要なものを取り扱わせる場合である。兵器の製造や自衛隊施設の整備などで防衛省と契約する企業の従業員に秘密保全の義務を課し、漏洩した場合は1年以下の拘禁刑(懲役)又は50万円以下の罰金を科す規定も新設する。
     この法律案は、要するに、国内の軍需産業が兵器等を効率よく自衛隊に提供できるようにするために国費による財政援助を規定し、武器輸出を円滑に進めるために国内軍需産業に助成金を交付しまた日常的に資金を貸し付け、軍需産業が経営不振に陥った場合には、国による武器製造施設の国有化と他企業への管理・運営委託を可能にするものである。
     この法律案は、軍需産業を財政支援し、兵器生産を増強し、武器を海外に輸出して、世界に軍事的緊張と戦争をもたらし、国内の軍需産業(死の商人)を国家として大きく育成、させようとするものである。軍縮平和主義に立つ日本国の根幹を変質させるものであり、平和国家の息の根を止める。
  5. ODAではなくOSAという代物

    <Q&A>政府が創設した「OSA」って? ODAとの違いは? 相手国や援助額は?
    東京新聞  2023年4月21日

     政府は今月、民主主義や法の支配といった価値観を共有する途上国の軍に対し、防衛装備品などを無償提供する新たな軍事支援の枠組み「政府安全保障能力強化支援(OSA)」を創設しました。途上国支援には、70年近い歴史を持つ政府開発援助(ODA)がありますが、分野を軍事面に広げようとしています。
    Q OSAとは。
    A 民主主義などの価値観を共有する途上国を「同志国」と位置づけ、軍に装備品の提供やインフラ整備を無償で行う枠組みです。海洋進出を強める中国を念頭に、関係強化が期待できるアジアや太平洋島しょ国への支援を想定しています。政府は、日本にとって望ましい安全保障環境をつくるのが目的だと説明しています。
     Q ODAとの違いは。
     A ODAは「平和国家の道を歩む日本に最もふさわしい国際貢献」を掲げ、非軍事的な協力に徹してきました。政府関係者は「安保分野の支援は日本の国際協力の空白地帯だった」とOSAの意義を強調しており、平和国家の歩みと一線を画す軍事面に特化した取り組みになります。
     Q 具体的にはどんな支援を考えているの。
     A 2023年度予算に20億円を計上し、フィリピンやマレーシアに警戒監視レーダーなどを提供する見通しです。自民党内では「小さく産んで大きく育てる」と、将来的な大幅増を望む声も上がっています。
     Q ミサイルなどの攻撃的な武器を提供する可能性は。
     A 装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の枠内で行うため、殺傷能力のある武器は原則提供できず、レーダーのような警戒監視目的などに限られます。25日に自民、公明両党が三原則見直しの議論を始めます。殺傷能力のある武器の輸出解禁にかじを切れば、OSAにも準用されるので、日本の武器が途上国に拡散する可能性が生じます。
     Q 日本の装備品が紛争を助長する恐れは。
     A 政府は、平和国家の理念との整合性を図るため「国際紛争との直接の関連が想像しがたい」分野に支援を限定し、目的外使用や第三者移転を防ぐことを相手国に義務付けるとしています。ただ、渡してしまえば相手次第なので、実効性は不透明です。「同志国」の定義も曖昧で、支援先が拡大していけば、日本が意図しない使われ方をする懸念も強まります。
     Q 最近までOSAという名称を聞かなかった。
     A 政府は昨年末に閣議決定した国家安保戦略の中で大枠の方針を示しましたが、OSAの名称と具体的な内容を決めたのは今月5日に正式に創設した時です。他国への軍事支援という重大な決定にもかかわらず、国会の関与がほとんどなく、野党から「決定過程が極めて不透明だ」(共産党の山添拓参院議員)との批判が出ています。 「日本国憲法の定める、全世界の全人民(all peoples in the world)のもつ平和的生存権は、対等の自主独立の主権国家が普遍的政治道徳の自然法的拘束を受けつつ自主的に協調することを意味する国際国際協調主義を主導する指針である。・・つまるところ、日本国憲法の目指す平和は、それを軍事的手段によって日本一国にのみもたらそうとするものでは全くない。全人類が「恐怖と欠乏から免かれる」という、積極的・構造的な内容をもつ平和を享受しうることを、権利として保障し、その実現のために平和的手段による積極的な国際活動につとめることを誓ったのが日本国憲法なのである。・・・このようにして、平和的生存権に嚮導された日本国憲法の国際協調主義の理念は、本来的に全人類的広がりをもつものであるといえる。・・・国際協調主義についても、ここに検討したとおり、これを世界的規模での武力行使を正当化する概念として逆用し、改憲の論拠にしているという政治の現実がある。今求められるのは、平和的国際協調主義の原点に立ち還ることである。そして、それが人々によって支えられるなら、憲法にもとづいて歴史を創る展望が拓かれるにちがいない。」小林武『平和的生存権の展開』日本評論社、2021年、295-296頁。
  6. 「防衛装備移転三原則」の運用指針見直し
      武器輸出の緩和 平和主義、ないがしろか 2023.4.27 中国新聞社説
     日本の平和主義を大きく変質させかねない重大な問題だ。
     武器を含む防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の運用指針見直しに向け、自民、公明両党が協議を再開した。
     政府、自民党は友好国との関係強化や防衛産業育成を目的に輸出拡大へかじを切りたがっている。ミサイルなど殺傷能力を持つ武器輸出も解禁を目指す。岸田文雄首相はきのうの参院本会議で「重要な政策的手段となる」と議論の加速に期待した。
     だがウクライナ危機などに便乗するような進め方は許されない。武器の輸出が増えれば、間接的であっても国際紛争に加担する可能性は否定できない。
     戦後の日本は武器輸出をしない政策をとってきた。1967年に佐藤栄作首相が共産圏や紛争当事国などへの輸出を認めない「武器輸出三原則」を表明。76年に三木武夫首相がその他の地域へも「慎む」と言明し、事実上の禁輸政策となった。
     ところが2011年、野田政権が平和目的の装備品輸出などに道を開くと、14年に第2次安倍政権が「防衛装備移転三原則」と言い換えて禁輸政策を転換した。ただし輸出・提供先は安全保障上の協力国とし、対象も「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の5類型に限定。殺傷能力のある武器は認めていない。
     自民党では中国の軍備増強などを念頭に、周辺国へ供与すれば抑止力が向上し、安全保障環境の改善につながるとして武器輸出の拡大を訴える動きが出ていた。ロシアのウクライナ侵攻でその勢いはさらに強まった。
     岸田政権は昨年末の安保関連3文書改定で「三原則の見直し検討」を打ち出した。だが禁輸政策転換の際も、国民的な議論が十分なされたとは言えない。それを繰り返すつもりなのか。
     自公は昨秋の3文書改定に向けた協議で三原則緩和を議論したが合意に至らなかった。最大の相違点は殺傷能力のある武器輸出の是非だ。自民党は友好国に加え、国際法違反の侵略を受ける国への解禁を訴える。日英伊で共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出も念頭におく。これに対し公明党は「平和国家の歩みを堅持する」と慎重姿勢を崩していない。
     殺傷能力のある武器輸出は、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有に続く安保政策の大転換である。自民党は仕切り直しで結論を得たいようだが、拙速な議論を慎むべきだ。国会でも議論を尽くす必要がある。
     政府、自民党は5類型以外にも輸出対象を広げる考えだ。装備品によっては相手国で殺傷能力を備える改造が施される可能性がある。なし崩しに武器供与が拡大する懸念が拭えない。
     そもそも武器を含む装備品を海外に売ることが平和主義の理念に沿うのか。
     日本製の武器が戦闘で使われれば紛争を助長する恐れもある。紛争当事国への転売についても歯止めは容易でない。
     先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)前にウクライナへの武器提供を打ち出す思惑が自民党にあった。戦車などを提供する欧米に比べ見劣りするとの主張で、論外だ。日本の支援はウクライナ側が望んでいる通り、復旧・復興に徹するべきである。サミットでもその姿勢を打ち出してもらいたい。
  7. 土地利用規制法
     拙稿「国防関連等重要施設周辺住民監視規制法」法と民主主義580号(2021年7月)8-11頁。
     2021年6月21日に成立した「重要土地調査規制法」は、自衛隊基地・米軍基地・原発等の重要インフラ施設施設周辺の住民・関係者及び国境離島居住者・関係者の情報を包括的に調査・収集し、報告を徴収し、土地・建物の利用中止を勧告・命令し、従わない者に刑事罰を科すという法構造になっており、「国防関連等重要施設周辺住民監視・規制法」という呼称が適当である。
     内閣総理大臣は日常的に注視区域内の住民等の情報を収集し、関係行政機関・自治体から住民等の情報提供を受け、住民等から資料・報告の提出を求め、必要な措置をとるように勧告・命令する。国民監視には歯止めがない。政府の規制によって損害を受けた者には買い取りをすることによって基地・現原発周辺から反対派住民を一掃することも期待できる。膨大な量の個人情報の入手・蓄積・分析のために情報機関が強化され、基地や原発の監視行動も規制の対象とされる。
     この法律は、国防を口実として広く国民を監視する。ドローン規制法と相まって「基地の中をみるな」として戦争準備を国民の目から覆い隠すとともに、基地周辺を基地監視や基地反対運動などを行わない住民だけにして「戦争する国づくり」を担う。沖縄県内の運動を萎縮させ、ひいては弾圧の道具となる。そして多様なものを指定できる「生活関連施設」の周辺に住む日本の全住民も、同様に監視され規制される。
     そもそも重要施設の周囲1キロ以内の住民等の情報を精査しても、法律推進論者が言うテロ行為・スパイ行為の防圧に有用かどうか疑問がある。機能阻害行為の抑止に名を借りて、自衛隊基地・米軍基地・原発・国境離島周辺住民の抵抗を抑え込み、戦争に向かう国策の遂行に都合よく私権を制限し、民間の私有地を、当該施設から1キロメートル以内の土地を「注視・特別注視区域」と身勝手に国が分類して合法的に接収、奪い取る。平和主義原則と基本権違反の本法の発動を許さない国民的運動の構築と発展が心より望まれる。

    【声明】戦争する国づくりと一体の土地規制法区域指定を中止し、法を廃止するよう求める 2023年5月19日
     政府は、5月12日、土地等利用状況審議会に対し、第2回目指定対象として、1都9県の注視区域121カ所、及び特別注視区域40カ所を提示し、審議会はこれをすべて了承した。今後政府は関係地方自治体に説明と意見聴取を行い、8~9月ころ正式に指定する方針である。
     今回の候補区域は、前記のとおり合計161カ所である。初回指定がそれぞれ28カ所ずつの合計58カ所であったから、指定のペースはあがっている。報道によれば、政府は2024年秋ごろまでに全国で計約600カ所を指定する方針ということである。
     私たちは、今回の指定に対し、強く抗議する。そして政府には、このような指定を繰り返さず、土地規制法を廃止するよう求める。
     今回の指定には、安保3文書で示された戦争する国の体制構築を押し進める姿勢が露骨に表れている。まず、鹿児島以南が、特別注視区域は20カ所と半数を占め、注視区域は約7割の84カ所にのぼっている。報道によれば、国境離島の指定は今回で終了するとされ、この地域に未指定の国境離島が多く存在することから指定候補地数が多くなったという側面はあるとしても、鹿児島県内の自衛隊施設のほとんどすべてが対象となり、奄美大島、沖縄本島、宮古、石垣、与那国の南西諸島のミサイル基地や弾薬庫が指定対象となった。さらに、今回初めて「生活関連施設」としての原子力施設が指定されたが、指定されたのは鹿児島県川内市にある九州電力川内原子力発電所だけである。このように、今回の指定は、「台湾有事」を煽ることで軍拡をすすめ、「台湾有事」が発生した場合に、最前線となる南西地域の自衛隊施設周辺を自衛隊の活動に「妨害」が生じないようにしようとするものである。もちろん、沖縄県内には、他にも多くの自衛隊施設や在日米軍基地が多数存在するから、このままでは、今後沖縄県内はいたるところが指定区域となっていくであろう。昨年12月15日に閣議決定された「国家安全保障戦略」では、「自衛隊、米軍等の円滑な活動の確保のために、・・・安定的かつ柔軟な電波利用の確保、民間施設等によって自衛隊の施設や活動に否定的な影響が及ばないようにするための措置をとる」と、さらに「原子力発電所等の重要な生活関連施設の安全確保対策、国境離島への不法上陸事案対策等に関し、武力攻撃事態のほか、それには至らない様々な態様・段階の危機にも切れ目なく的確に対処できるようにする」と記載されているが、まさしくそれを実行しようとするものであり、今回の指定は「戦争する国」への地ならしがいよいよ本格的に開始されたということである。土地規制法の危険性については既に何度も告発してきたので繰り返さないが、今後、政府による基地反対運動や基地監視活動に対する監視や抑圧が強まるおそれがある。
     土地等利用状況審議会は、区域指定に対して、市民の権利が不当に侵害されないよう、慎重に審議し、意見を言う役割がある。しかし、審議会当日に161カ所もの候補地を初めて示されて、それぞれの指定の必要性や妥当性が判断できるのであろうか。また、2回目の区域指定の考え方として、「国境離島等及び当該離島等と同一地方公共団体に所在する他の施設のうち、準備が整った箇所について指定を勧める」とあるが、新潟空港をはじめとする佐渡以外の新潟県内の施設、あるいは金沢や小松など石川県の施設や高知県の施設など、国境離島がある市町村ではない自治体の施設が対象となっている。この点についてはどのような議論がなされたのであろうか。審議会委員には税金から報酬が支払われるのであり、市民の権利が不当に侵害されないようにしていく責務がある。しかし現状は、政府の提案を承認するだけの、単なる「お墨付き」を与えるだけの機関になっている。このような審議会のあり方や委員個々人に対し、強く抗議する。
     また、今後、指定対象とされた区域がある自治体には、内閣府からの説明と意見聴取手続が行われる。内閣府からの説明と意見聴取は、区域の存在する市町村だけでなく、都県に対しても行われる。沖縄県は、昨年9月、政府に対し、区域指定に当たっては関係自治体の意見を尊重すべきであること、特別注視区域の指定は真に必要最小限度にとどめるべきであること、区域指定は施設の機能に着目してなされるのであるから指定区域毎に機能阻害行為を明らかにすべきことという意見を提出している。今後、説明を受け意見聴取がなされる自治体においては、住民の権利と生活を擁護するという観点から、沖縄県と同様の姿勢で政府からの説明と意見聴取に臨んでもらうことを求めるものである。
     土地規制法は、憲法で保障された思想信条の自由や表現の自由、さらには財産権を侵害するおそれの大きい憲法違反の法律であり、直ちに廃止されるべきものである。私たちは、政府がこの法律の運用において、基本的人権を侵害し、平和主義を逸脱し、地方自治の本旨を蹂躙することがないよう今後も見張っていくことを宣言する。
     沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック、土地規制法を廃止にする全国自治体議員団、土地規制法廃止アクション事務所
  8. 経済安保法
     自由法曹団「経済安保法の成立に抗議する声明」(2022年5月19日) https://www.jlaf.jp/04seimei/2022/0519_1195.html
     2022年5月11日、参議院は、経済安保法案(「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案」)を本会議で採択して可決し同法案を成立させた。
     法案は、安全保障の確保に関する経済施策として、①特定重要物資の安定的な供給の確保(サプライチェーンの強化)、②特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に関する制度(サイバー攻撃等から防御する基幹インフラ整備)、③特定重要技術の開発支援、④特許出願の非公開に関する制度を創設することを内容としている。
     このように法案は、企業の経済活動はもとより、軍事技術を含む研究開発や特許、さらには学問研究の自由にも大きな影響を及ぼす重要法案であるが、中国の経済力、軍事力を脅威とする米国の安全保障戦略と軌を一にしたものであり、国会審議においても、自由と人権、日本の平和を危うくする重大な問題点が明らかにされている。
     法案の重大な問題点は、まず特定重要技術の研究開発に対して、資金支援のもとに官民協力して最先端技術を軍事活用しようとする点である。協議会に参加した研究開発者等には刑罰付きで秘密保護義務が課される。研究開発が国の一元的管理・統制のもとにおかれ、学術研究の自由が抑圧されることになる。 
     法案審議の過程でも、防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」の問題点を指摘した日本学術会議の声明に対して、与党議員からの批判が繰り返されている。また、衆参両院の付帯決議では、秘密保護に関して、「情報を取り扱う者の適性について、民間人も含め認証を行う制度」づくりが提起されており、適性評価のためにプライバシーをも調査しうるとした特定秘密保護法の「適性評価制度」が導入されようとしている。
     法案で導入される特許の非公開制度は、本来研究開発の成果を公開して産業に生かし、さらなる技術進歩のために活用する特許制度の例外を認めるものである。法案は、研究開発の成果を非公開として、その活用を刑罰を持って制限・禁止するものであって、経済活動や研究活動の自由、産業の発展を阻害することになる。学界などでの意見交換まで処罰の対象とされるなど研究活動の自由が抑圧されるおそれがある。
     しかも、この非公開制度は、法案の国会の審議を通じて、核兵器や先進武器技術に通ずる発明を念頭に置いた制度で、軍事的な要素が強いことが明らかにされている。実際、特許の非公開により、日米の防衛特許協定のもとで研究成果の軍事的利用が促進されることになる。
     法案は、民間業者に対して特定重要物資の供給確保計画を提出させて認定したり、重要設備の導入・維持管理などについても計画書の提出を求めて事前審査したり、これらに関連して政府に調査権限を付与したり、違反に対する刑罰規定を設けている。法案によって実施される施策を通じて、多額の財政援助を行う一方で、企業活動に介入し、民間に対する監視が強化され、経済活動の自由、知る権利や表現の自由が抑圧される危険が大である。そもそも、法案は、経済的安全保障という定義すら明記しておらず、国会の審議でも、経済安全保障の全体像が見えないとか、具体的なイメージができないとの指摘がされた。重要事項など138カ所も政省令に委ねられており政府の一存で決まる白紙委任との批判も相次いだ。しかし、政権による法案の運用により、人権が制限され、自由が抑圧される危険は何ら解消されていない。

    9 おわりに
    集団的自衛権問題研究会「敵基地攻撃能力ではなく北東アジアの軍縮協議を」(世界2020年10月号)は、①北東アジアにおける核・ミサイルの脅威に対処する軍縮・軍備管理の協議を発展させること、②日本は専守防衛を堅持し、これを変更すると受け止められるような政策を止めること、③世界的な核軍縮の進展を後押しすること、④気候変動や感染症が「人間の安全保障」に深刻な脅威をもたらしている現状を踏まえ、安全保障政策の包括的な見直しを進めることを指摘している。
    安保三文書に対抗して2022年12月15日に公表された、平和構想提言会議(https://heiwakosoken.org/teigenkaigi/)の平和構想提言=「戦争ではなく平和の準備を−”抑止力”で戦争は防げない」は、考え方の転換として、①軍事力中心主義と「抑止力神話」からの脱却、②日本国憲法の原則に立ち返れ、③「日米同盟」一辺倒から脱し、アジア外交と多国間主義の強化の三点を指摘している。
    この提言は、上記の集団的自衛権問題研究会の提案を補足・補強する形で「平和のために何をすべきか−今後の課題」として、①地域安全保障の課題(朝鮮半島、日中関係)、②軍縮・軍備管理の課題(日本の「専守防衛」の堅持と強化、緊張緩和と信頼醸成、核・ミサイルの軍縮の促進、国際人道法の遵守、新技術と武器の規制)、③「市民が参画する新たな安全保障」(軍事力に依存しない安全保障のための連携、紛争の要因に対処する社会・経済政策、市民社会の越境と連携の強化)の諸項目を挙げている。いずれも大切な視点である。
     2022年12月に閣議決定された国家安全保障戦略では「憲法」の言葉は一度しか登場しない。憲法13条の「生命・自由・幸福追求の権利」の保障も真剣に考えられていない。ここにあるのは、間の安全保障ではなく赤裸々な国益追求の国家の安全保障である。その国益追求は、米国の世界戦略・アジア戦略への従属を余儀なくされている。日本国憲法が基本にしている国際協調主義を採用することなく、時代錯誤の経済成長路線を追求する。そして諸国民への「平和的生存権」の保障を可能にする国際秩序の変革ではなく、インド太平洋地域において中国の挑戦に対抗して、現行国際秩序を維持、発展させることが国益であることを臆面もなく述べている。大軍拡の推進と敵地攻撃論という国家安全保障戦略に対応して、安保体制と自衛隊による安全保障に代わりうる対応構想をどのように説得的に提示してしていくのかという課題がある。日本国憲法の平和的生存権は、2016年に国連総会で採択された「平和への権利宣言」をさらに実り豊かなものにしていく指針としての役割を有しており、核の脅威から解放された東北アジア非核化の課題に取り組む上での指針を有している。*5
     いま新しい戦前の始まりを阻止し、戦争ではなく平和の道を選択する世論を作り出していくことが大切である。そのためには、第1に、日本国民の近代・現在戦争の経験を確認し、継承していく必要がある。第2に、東アジアにおける和解と相互協力をすすめ、東アジアにおける軍事的緊張の緩和と非核・平和保障機構づくりに取り組む必要がある。*6
    第3に、軍隊ではなく一般市民を防衛の主体とし、非暴力手段により市民生活を防衛するという安全保障の方法論である「市民的防衛論」(Civilian-Based Defense)を再検討する必要がある。*7
    そして第4に、従属国家化に向かわざるを得ない軍事大国の道ではなく、平和的生存権に嚮導された日本国憲法の国際協調主義の理念は本来的に全人類的広がりをもつという認識をもって、平和的国際協調主義の原点に立ち還ることである。*8 

<付録>
日米両政府は琉球諸島の戦場化すら辞さない中国との軍事対決政策を直ちにやめよ 
 日米両政府が、台湾有事の際に米軍が琉球列島(南西諸島)の島々に臨時の攻撃用軍事拠点を置くことを含む新たな日米共同作戦計画を策定するとの報道がなされている。
 米海兵隊の運用指針である遠征前進基地作戦(EABO)は、既存の陸上の基地からの攻撃、軍事艦船・航空機からの攻撃に加えて、多数の離島に小部隊が機動的に臨時の要塞を作って攻撃を行うというものである。米軍の攻撃用軍事拠点を増大させ、かつ移動性を高めることによって、敵国へのミサイル等による攻撃密度を高めつつ、敵国の攻撃対象が分散することで米軍部隊・基地の生存可能性を高めることを意図している。具体的には、台湾有事の際、日本政府はこれを安保法制に基づく「重要影響事態」と認定し、自衛隊の協力により米海兵隊が琉球列島の多数の島嶼に攻撃用軍事拠点を作ってEABOを行うという作戦計画をつくろうとしているのである。 
 これは、臨時の攻撃用軍事拠点や、沖縄に極度に集中する既存の米軍基地・自衛隊基地を中国がミサイルや航空機を動員して攻撃することを想定して、それに打ち勝つ作戦である。また、これまでのように米国が行う戦争の出撃基地や後方支援に在日米軍基地や自衛隊基地を使うという同盟関係にとどまらず、琉球列島全体が戦場となり、米軍基地と米軍基地とのわずかな隙間に暮らす全ての沖縄県民が戦火にさらされることになる日米共同作戦をあえて行うことを意味する。これは、日本軍が沖縄を捨て石として行った1945年の沖縄戦を彷彿とさせる。
 一方、近年、日本政府は「離島防衛」を掲げて九州・琉球列島に次々と自衛隊基地・部隊を新設し、米軍との基地共同利用や新たな共同訓練を行っている。また、自衛隊の宇宙・サイバー・電磁波の領域での活動を、産官学を巻き込みながら飛躍的に強化している。これらは、新たな日米共同作戦計画策定により、名実ともに台湾有事への米国の軍事介入作戦に投入されることになる。
 また、自衛隊について、岸田首相は、2021年12月の臨時国会における所信表明演説で、「敵基地攻撃能力も含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討し、スピード感をもって防衛力を抜本的に強化」すること、そのために「新たな国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を策定」することを表明した。 
 これらをあわせると、日米両政府が描いているのは、在日米軍と自衛隊が一体となって、中国への先制攻撃も可能な兵力・戦略をもって、日常的に中国に対峙するという構図である。このような軍事重視の政策は、あまりにも日本国憲法の規定とかけ離れている。そして、それは中国をはじめ近隣諸国との軍事的緊張を飛躍的に高め、不慮の軍事衝突と戦火拡大の危険をもたらすことになる。さらに、それが抑止力として実効性を持つこともないだろう。日米の軍事同盟強化は、中国、ロシア、北朝鮮などに対して、むしろ対抗的な軍事強化を促すだけである。「中国の脅威」を理由に軍事力強化に突き進む日米両政府は、東アジアにむしろ戦争の危機をあおっている。 
 私たちは、日米両政府に対し、琉球列島を軍事拠点化する新たな日米共同作戦計画、国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の策定、馬毛島から与那国島に至る琉球列島をはじめ全国での軍事基地建設・強化、敵基地攻撃能力取得を直ちにやめるよう求める。 

2022年2月25日 日本科学者会議幹事会


*1 この項目は、しんぶん赤旗他の新聞記事を要約。
*2 この項目は、しんぶん赤旗他の新聞記事を要約。
*3 以上の部分も、しんぶん赤旗の記事を引用。
*4 藤川隆明「第 211 回国会法律案等 NAVI 防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律案」立法と調査455号(2023年4月)を参照。https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2023pdf/20230414054.pdf
*5 山内敏弘『安倍改憲論のねらいと問題点』(日本評論社,2020年)195-214頁。
*6 福祉国家構想研究会(編)『日米安保と戦争法に代わる選択肢―憲法を実現する平和の構想』(大月書店,2016年)の第7章「安保と戦争法に代わる日本の選択肢−安保条約、自衛隊、憲法の今後をめぐる対話」(渡辺治執筆)を参照。
*7 麻生多聞『憲法九条学説の現代的展開−戦争放棄規定の原意と道徳的読解』(法律文化社,2019年)325-341頁を参照。
*8 小林武『平和的生存権の展開』295-296頁。

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