「『小国』平和主義のすすめ」に応えて
稲 正樹(国際基督教大学元教員)
憲法研究者と市民のネットワーク(憲法ネット103)は発足2周年を記念して、2019 年12月に『安倍改憲・壊憲総批判ー憲法研究者は訴える』(八月書館)という本を出版した。この本の巻頭論文「自民党『改憲4項目』批判ー第9条には『平和省』こそ相応しい」において鈴木眞澄は、改憲阻止運動を後押しするためにも「非軍事の」=「丸腰の」積極的平和政策が必要であると述べていて、意を強くした。
この論文を一読して、千葉眞の「『小国』平和主義のすすめー今日の憲法政治と政治思想史的展望」(思想第1136号、2018年 12月)を直ちに思い出した。千葉眞はこの論文において、日本国憲法の「徹底した平和主義」は世界平和への日本の役割として「小国」平和主義を志向していると述べ、こう議論している。
仮想上はいくつかの道(選択肢)がある。一つは現在の安倍政権の道である。自衛軍あるいは国防軍を設置し、改憲を通じて現在の第九条第2項を削除するか骨抜きを計り、日本を通常の軍隊を有する「普通の国」として、抑止力としての軍事力拡大の路線を模索する道ー「よく通られた道」ーである。これと正面から対決するもう一つの選択肢は、「小国」平和主義の道ー「人があまり通っていない道」ーである。この二つの道を分かつものは、第 9条を改定して日米同盟の強化を求めていくのか、国連との提携をさらに深めて日米同盟を相対化し、第9条の徹底した平和主義を活性化していくのか(活憲)である。
この論文は、「戦争の惨禍」への深刻な反省と悔恨をふたたび将来の日本への社会的想像力として喚起することで、非戦型の「小国」平和主義の選択を提唱している。これは、「人があまり通っていない道」であるが、「誰かが通るのを待っていた道」でもあり、日本の民衆と主権者には、世界平和への政治的意志と地道な歩みとが求められているという言葉で結ばれている。
第一段階としての、自衛隊加憲論の阻止こそ、現在に生きる私たちの国民の、将来の世代の国民のための責務であることは言うを待たない(この点を指摘するものとして、山内敏弘『安倍改憲論のねらいと問題点』法律文化社、2020年)。しかし同時に、あなたたちは自衛隊と安保体制のない日本をいったいどのようなものとして具体的に考えているのかという問いかけにも、真摯に答えていく必要があると考える。
私たち日本の市民・憲法研究者は、「小国」平和主義の道を具体化する作業を進め、考察を深めていくべきではないか。9条加憲(と安倍政治の継承を誓う菅政権の改憲)阻止を超えて、憲法9条と平和的生存権に基づく平和構想、国家構想、地域秩序を積極的に提示し、多くの国民の支持を獲得していくべきではないか。すでに、深瀬忠一『戦争放棄と平和的生存権』(岩波書店、1987年)や、渡辺治・福祉国家構想研究会編『日米安保と戦争法に代わる選択肢』(大月書店、2016年)などの先行研究があり、私たちの後続を待っている。