憲法ネット103発足1周年記念シンポジウム 安倍政治を問う――9条・教育・沖縄――
2018年10月27日(土曜日)憲法ネット103発足1周年記念シンポジウムレジュメ
憲法ネット103発足1周年記念シンポジウム 安倍政治を問う――9条・教育・沖縄――
報告 「沖縄から安倍政治を総括する」 〔「沖縄からみた安倍政治の総括」改め〕
2018.10.27 専修大学神田キャンパス 小林 武 (沖縄大学)
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ま え お き
・ 本土出身者がなぜ沖縄のテーマを扱うのか : 自己紹介に代えて
・ 安倍政治を沖縄から診ることで総括的なコメントともなるような報告に
■ 安倍第2次政権の5年10か月(2012.12.26~)
〔安倍第1次政権 第1次安倍内閣 2006.9.26~07.8.27 (改造)2007.8.27~07.9.26 〕
安倍第2次政権 第2次安倍内閣 2012.12.26~14.9.3 (改造)2014.9.3~14.12.24
第3次安倍内閣 2014.12.24~15.10.7 (第1次改造)2015.10.7~16.8.3
(第2次改造)2016.8.3~17.8.3 (第3次改造)2017.8.3~18.10.2
(第4次改造) 2018.12.2~
その足跡――立憲主義破壊・政治道義の崩壊と沖縄威圧
2013.12.6 特定秘密保護法成立(13公布、14.12.10施行)
27 辺野古移設:仲井眞弘多知事、埋立てを承認
2014. 4. 23 森友:昭恵の写真・発言を紹介
7. 1 集団的自衛権行使容認の閣議決定
12.10 沖縄県知事に翁長雄志就任
2015. 2. 25 加計:安倍介入 15.3~6 加計:柳瀬、異例の面会
9.10 安保関連法成立
2016.11.20~ 自衛隊南スーダン派遣
2017. 2.17 森友:安倍、関与なら辞職発言 17.2~ 森友:公文書改竄・破棄・虚偽答弁
5 . 3 安倍、改憲ビデオメッセージ
6. 15 共謀罪法成立
7. 24 加計:安倍、「1月20日」答弁 7.25 加計:柳瀬、記憶なし答弁
2018. 2. 4 沖縄名護市長選:政権、「勝利の方程式」で介入
6.29 「働き方改革法」成立
7.20 カジノ法成立
27 翁長知事、承認撤回を表明 8.8 逝去 8.31 県、承認撤回
9. 陸自「シナイ半島多国籍軍・監視団(MFO)」への派遣検討
9.20 安倍、総裁に3選。改憲を強調 10.2 内閣改造:次期国会で改憲発議を明言
30 沖縄県知事選:玉城デニー圧勝、翁長県政継承=辺野古新基地建設阻止を公約
Ⅰ 歴史修正主義に立って、立憲主義を破壊し日本社会を傷つけ、改憲を図る安倍政治
1 歴史修正主義
(ル・モンド紙9.20電子版〔伊藤勝久「文化通信」9.21〕による) 安倍の改憲は、日本の帝国主義の復興を目指し、1930年代初頭から第2次世界大戦終戦までに日本軍が犯した残虐行為の数々を過小評価ないし否定しようとする広大な企ての中の一つである。1945年の敗戦による日本の歴史の深い断絶は、1910~20年に日本が経験していた民主主義への回帰と軍国主義の拒絶を導いた。安倍晋三を生み落とした日本の右派は、国際社会における劣等感から解き放たれ、経済的にも軍事的にも強い、ある種の「悠久不滅の日本」を取り戻すため、戦後というページを削除してこの断絶を抹消したいのだ。「日本よ立ち戻れ!」――安倍は、第2次政権初期の2013年2月、ワシントンでそう宣言している。歴史的観点からみれば、安倍が権力に至る道において目立った事実として残るであろうものは、派手な外交活動と経済政策よりも、その生い立ちから受け継いだ歴史修正主義だ。(小林要約)
① 従軍慰安婦・集団自決・南京大虐殺などの事実の否定
② 中学公民教科書採択への介入(2011~15年、育鵬社版の強制)、公立中学校授業への不当な介入(2018.2.16、前川喜平文科省前事務次官)
③ 天皇制 : 自民党改憲案(2012年。天皇を戴く国、国の元首)、「平成とその先の時代」を担う(2018.9、総裁選)、教育勅語評価(2018.12.2、柴山昌彦文科相)
2 反立憲主義
① 集団的自衛権行使容認の閣議決定と安保関連法の強行採決で反立憲主義が前景に出る
「最高責任者である私」の判断で60年以上の政府解釈を転換
→ 安保関連法から3年(2018.9.19):南スーダンPKO、自衛隊が米軍機を防護
② 立憲主義破壊が底なしの政治道義の崩壊を招く
・国政私物化(森友・加計をはじめとして)、官僚の文書隠蔽・改竄、法の支配の破綻
・個人主義じゅうりん(水田水脈LGBT非難・新潮45による擁護)
③ 無知であることを知らない無恥 ⇒「正直・誠実、謙虚・丁寧」が総裁選で問われる異常
3 安倍9条改憲(「自衛隊明記論」)の反立憲的手法
(2017.5.3ビデオメッセージ、18.8.12長州「正論」懇話会講演)
・ 党内手続も無視:船田 元「首相が改憲の発言をすると現場の議論が止まる」(9.20)
・ なお、立憲主義違背と違憲とのちがい→ 改憲論議における安倍と石破をどう見るか
4 対米従属姿勢のもたらす外交政策の致命的な劣化
日米安保絶対視 (「国体」扱い)。加えて、安倍のトランプ「100%支持」の姿勢
日朝(拉致、核・ミサイル・国交正常化)、日中(南シナ海)、日ロ(領土要求)などいずれも行き詰まり、日米では屈辱外交(事実上のFTA)。東アジアの平和構築への展望をもてず。
Ⅱ 安倍非立憲政治と沖縄の苦悩
1 「日米同盟」堅持と米軍基地の押しつけ
(1) 沖縄における4半世紀を超える憲法の空白と復帰後の安保の重圧
・ 戦後史の確認
沖縄戦開始直後の「ニミッツ布告」:大日本帝国憲法の遮断(1945.4)
組織的戦闘の“終結”(6.23) ポツダム宣言受諾(8.14) 降伏文書調印(9.7)
日本国憲法施行(1947.5.3)
サンフランシスコ講和条約発効:3条で沖縄等を切り離す(1952.4.28)
施政権返還:憲法の適用と同時に沖縄は安保法制の下に置かれる(1972.5.15)
(2) 日米安保体制の絶対視、地位協定の従属的構造を積極的に甘受
・ 普天間閉鎖に名を借りた辺野古新基地建設の強行
普天間基地起因の事件・事故の多発
基地は一段と危険なものとなっている:2019年2月限りでの運用停止は必至
空からの危険:2017年12月の緑ヶ丘保育園事故、普天間第二小学校事故
辺野古新基地建設不同意の県民意思は不動(すべての選挙、すべての世論調査で)
・ 政府、東アジア・朝鮮半島情勢の緊張緩和を視野に入れず(参考、7.28翁長記者会見)
2 翁長雄志氏の命を賭した仕事(2014.12.10-18.8.8)の継承と県民の判断
(1) 沖縄における翁長知事
・ 「沖縄の」保守(自民)政治家の骨格 =「誇りある」日米同盟
・ 「イデオロギーよりアイデンティティ」→「オール沖縄の団結」
「腹6分目」での妥協の結晶としての『建白書』(2013年)
・ 県民は、「第2の瀬長亀次郎」となることを期待
絶対に裏切らない人柄、県民への奉仕=職責への徹底した誠実さ
→ その死を知って、人々は“チルダイ”状態に
・ 政府と抗って1ミリも退かず(「米軍政府を恐れさせたカメジロー」に重なる)
沖縄の地方自治・民主主義、県民の自由・平等・自己決定権のあり方を示した
* 翁長氏の訴える言葉のもつ力:
(私も) 2016年6月の県民大会でのスピーチに促されて「平和な空を守る条例」
制定の請願運動を始めた(後にふれる)。
(2) 沖縄県知事選:玉城デニー氏勝利の歴史的意義
9月30日施行 有権者1,146,815 有効投票720,210 投票率63.24%
玉城デニー396,632 (55.1%。過去最多得票。翁長氏の得票に+4万):佐喜眞淳316,458(43.9%)
他に、兼島俊3,638 渡口初美3,482 玉城:佐喜眞の差は80,174票
〔期日前投票406,984:有権者の35.5%、有効投票の56.5%〕
① 安倍政権側が圧倒していた――屈せず、諦めなかった沖縄県民
選挙戦の本質: 安倍政権(代理人)とオール沖縄(『建白書』に結集)とのたたかい
選挙法破壊者の「勝利の方程式」(「名護パターン」ステルス作戦〔2月4日市長選〕)
Ⅰ 徹底した争点隠しと公開討論拒否。それをふまえて大規模なデマ宣伝
Ⅱ 自・公・維連携のもとに政権が直接選挙に介入
Ⅲ 政権の忠実な代理人となれる人物であることを第1条件として候補者選定
Ⅳ 地元企業を締め付け、「期日前投票」制度を悪用して従業員を動員
〔名護市長選の場合;期日前投票は、有権者の44.46%、投票総数の57.80%!〕
→ 地方自治と近代選挙原則のじゅうりん:安倍政権の非立憲姿勢がここにも。
② 県民は、翁長県政を承認し、引き継ぎ辺野古新基地建設阻止の道を選んだ
『建白書』(2013年1月28日):《1.オスプレイ配備の撤回、2.米軍普天間基地の閉鎖・撤去、県内移設の断念》を内閣総理大臣に求めた。沖縄の全自治体と主要団体が署名押印している。
③ 県のおこなった承認「撤回」を支え、近く実施される県民投票を励ますことになり、
政権の新基地強行は困難な状況に。沖縄県民の意思が日本を救う働きをしている。
3 今後の展望のための課題として
(1) 中央政権が自治体首長を決めようとする安倍政治 → 自治体議会を捉え直す必要
① 憲法第8章「地方自治」(92~95条)成立の意義(同時に、地方自治法が施行)
② 地域における国民主権としての住民主権
③ 二元代表制における「議事機関」(93条)たる議会
④ 議会がつくる条例こそ自治体の基軸法(94条)
(2) 日米安保=地位協定との対峙の課題
日米地位協定によって、実質的に日本法の適用を受けず、治外法権的にふるまっている米軍を規制して、住民を保護するために、何をなすべきか。
―― 地位協定の抜本改定。安倍政権にはもっとも望めないテーマである。
―― 地位協定に対峙する条例の制定。それには、自治体の議会の役割が不可欠である。→ 市民による請願運動はその一例(「宜野湾市平和な空を守る条例」)
(3)《勝つためにはあきらめないこと》――沖縄の人々はけっして基地を許さず、非暴力
の不服従抵抗を続ける。今日の歴史的段階は、民衆が前進している段階である。これか
らも困難な局面が現われてくるが、きっとこれを打開して、前途を拓くにちがいない。
むすびにかえて
・ 安倍改憲の阻止は、憲法が活かされる政治への展望を開く。日本歴史は一歩前進を遂げる。
・ 沖縄に現われた安倍非立憲政治のひずみは大きい。これにとどめを刺し、憲法を守り抜く役割を沖縄が果たすかもしれない――沖縄県民が日本全体を救うのでは。
以 上