多田一路「憲法・立憲主義・民主主義・平和主義」
以下は、京都大学学園祭(2018.11.24)における多田一路さん(立命館大学教授)の講演のレジュメです。どうぞご覧ください。
憲法・立憲主義・民主主義・平和主義
2018年11月24日
立命館大学教授 多田一路
改めて憲法と何か
・もっとも大事なのは、立憲主義と権力の統制
- 近代国家で、なぜ憲法が制定されるようになったのか?……憲法を制定する目的
- 権力としての国家の存在⇒法律を利用して、人々を支配・従属
- 市民革命前の国家はどうだったか?
- 剥き出しの国家権力は危険極まりない
- 今の日本でもし憲法がなかったら、現政権に楯突く発言を犯罪にできる。
- 国家権力に対する指令書・禁止事項リストの必要性
- 指令書・禁止事項リストの全世界共通バージョン=基本的人権
- 権力としての国家の存在⇒法律を利用して、人々を支配・従属
※剥き出しの権力は基本的人権の概念がなく、人間の尊厳を踏みにじる。人間の尊厳を保護するために、国家権力を縛る必要がある。
・権力統制原理・システムとしての、国民主権・民主政
国民主権とは、統治の実権を国民が掌握するということ
そのためのシステムが民主政
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民主政というシステムが正常に機能していなければ、権力を統制できない
このシステムの骨組みが憲法の採用する統治システム
憲法的視点から見た安倍政治の特徴
#「権力の統制」という視点で診てみる
- 安倍政治 保守でも改革者でもない……「改憲」「アジアヘイト」以外の理念は?
一方で、権力の奪取や権力基盤の強化には余念がない(総裁選、沖縄)
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- 沖縄県知事選挙の安倍政権側の戦い方
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……大量動員による業界締め付け(「ステルス作戦」)、敵候補の偽スキャンダルを週刊誌(週刊文春9月13日「隠し子疑惑」)に流す、SNSを使った大量ネガキャン
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- 対米外交……基本的に従属
「TPP反対」はどこへ行った?「TAG」って何だ?
米朝会談のときには「北朝鮮憎し」を一瞬優先させたが、すぐにトーンダウン。
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- 拉致問題……「対策本部」は2014年11月以降会議開催なし
米朝雪解けの兆しの際に、「対話のための対話は意味がない」。自分でやらないで「トランプにお願い」。=「やってる感」の演出
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- 森友加計問題……「総理案件」のイニシアチブは官僚にはない。
この問題で昨年通常国会の会期延長要求⇒拒否
臨時国会開催要求(憲法53条)⇒3か月ほったらかしのあと、冒頭解散により事実上拒否
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- 選挙前「森友加計については選挙で説明する」
- 選挙中「森友加計については国会で説明する」
- 選挙後「森友加計についてはすでに説明した」 これは「ロジ」さんという方(twitterアカウントは、@logicalplz)による、2017年11月20日のツイートです。
- 今国会で一番問題になっていること
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※以上のどれも、理念の問題ではなく、それ以前の問題。
※憲法が想定する、理性的な討議に基づく統治(あるいは選挙)、になっていない。
cf.石破の総裁選の公約は「全ての人に公平、公正、誠実、正直な政府を作る」
「理性的な討議」の前提は、ウソ・ねつ造・ゴマカシ・改ざん・証拠隠滅をしないこと。
※ウソ・ねつ造・ゴマカシ・改ざんは簡単だが、これらを「ウソ・ねつ造・ゴマカシ・改ざん」であるといちいち指摘して修正するのは、大変な作業。
⇒私たちに必要なのは、「見抜くリテラシー」
以上の状況下における「中立」的位置とは?
- 「野党にも責任がある」論⇒⇒⇒与党と野党は対等ではない。与党は政権を担当しているので野党よりも重い責任を負う。憲法66条3項
- 与党が与党内で内閣人事を回しているのなら、66条3項の意味は、与党が、野党を含む国会全体に対して責任を負うということ。
※与党が、第一義的に政治についての責任があるのであって、野党ではない。
- 「審議拒否はサボり」論⇒⇒⇒与党と野党は対等ではない、その2。
- 森友学園、加計学園、防衛省日報、福田次官セクハラ等の各種問題における政権担当者としての責任
- 森友加計……「万民のために政治をやっているのか」という問題
- 防衛省内の日報……「安保法制での政府の説明は正しかったのか」という問題
- 福田次官セクハラ……「一億総活躍、女性活躍は本気か」という問題
- 森友学園、加計学園、防衛省日報、福田次官セクハラ等の各種問題における政権担当者としての責任
いずれも政権が掲げる政策にかかわる前提問題
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- 政府には、質問に真正面から答弁し、求められた文書や情報を提出する責任がある。そこにウソ・ゴマカシ・ねつ造があれば、政策の妥当性そのものが揺らぐ(66条3項と、ゴマカシ、ねつ造)。
安倍政権以前の政権なら、どれも関係閣僚のクビの問題になっていた。なぜなら、政権掌握の政治的正当性の問題だから
※誠実に対応しない政府に対しての野党の対応は?……結局、日程が淡々と進む(日程決定自体も多数派である与党が握っている)のであれば、「誠実に対応しなくてもかまわない」ということと同じ。
※以上の話は、仮に安倍政権でなくても同じことをすれば、同じ評価になる。○○民主党だろうが、共産党だろうが。
※ゴマカシ、ねつ造と「中立」……ごまかす人とゴマカシを追究する人との間の「中立」はない。それは、「ゴマカシを追求してはならない」という意味にしかならない。
※安倍政権以前の自民党政権下においては「中立・中道」はあり得たかもしれないが、理性的討議そのものを拒否する政権下における「中立」とは、「民主主義でなくてもいい」という意味になる。
以上のような特徴を持つ安倍政権での改憲の性質
※大前提として注意すべきこと……憲法を変えるほうがいいのか、変えないほうがいいのか、という抽象的な問いは無意味かつ意味不明(cf.民法を変えるほうがいいのか、変えないほうがいいのか?。なんだそりゃ)
- これまで(安倍改憲以前)は、一応、権力担当者も憲法は守らねばならないものとして行動してきた。
- 「解釈改憲」とは、解釈を変更することによって、従来理解されてきた憲法規範とは違う規範内容を生み出すこと。
- 政治的な評価を排除すれば、「解釈の変更」ということ
- 本来の憲法原理からずれている、という評価を込めて「解釈改憲」
- 従来の「解釈改憲」は、一応、成文の憲法規範を出発点にして「解釈」をする、という意味では、「権力者は憲法を守らねばならない」という意思がある
- cf.自衛隊の合憲性の説明、海外派遣(PKO等)がなぜ憲法上可能か、の説明
- 「解釈改憲」とは、解釈を変更することによって、従来理解されてきた憲法規範とは違う規範内容を生み出すこと。
- 安倍政権は、政権担当者が憲法を守らねばならない、との認識が希薄
「まず、立憲主義については、『憲法というのは権力を縛るものだ』と、確かにそういう側面があります。しかし、いわば全て権力を縛るものであるという考え方としては、王権の時代、専制主義的な政府に対する憲法という考え方であってですね、今は民主主義の国家であります。その民主主義の国家である以上ですね、同時に、権力を縛るものであると同時に国の姿についてそれを書き込んでいくものなのだろうと私達は考えております」(2013年7月3日党首討論会発言) |
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- 「解釈改憲」のパンドラの箱=2014年7月の閣議決定
- これまでの政府の説明の積み上げでは許容できないものを許容するために、これまでの説明自体をひっくり返す。(安倍政権の本質?)
- 野党による臨時会(憲法53条)要求の黙殺(2017年)
- 「解釈改憲」のパンドラの箱=2014年7月の閣議決定
日本国憲法特有の戦力放棄条項
- 1項で戦争等放棄、2項で一切の戦力(軍隊)が持てない。
- 「武力の行使」とは、軍事組織を使用すること
- Cf.国連憲章2条4とその例外としての51条
- すべての国連加盟国に一般的に禁止されている「武力の行使」
- 後方地域支援(兵站)も「武力の行使」に含まれる
- 「陸海空軍その他の戦力」とは、軍隊(軍事組織)のこと(通説)
- 「○○軍」なる名称であるかどうかは関係なく、それに相当する実力部隊
- 自衛目的なら軍隊が持てる、という見解(ごく少数)もあるが、日本政府はその立場ではない
- 「武力の行使」とは、軍事組織を使用すること
- 自衛隊は?
- 政府の説明……自衛のための必要最小限度の実力部隊としての自衛力部隊
- 9条2項が禁止する戦力に当たらない、とする
- 自衛隊違憲論……自衛隊は9条2項が禁止する戦力に当たるのではないか?
- 政府の説明……自衛のための必要最小限度の実力部隊としての自衛力部隊
自衛隊の実態はもはや「専守防衛」ではない
- 国民の自衛隊に対する認識と、自衛隊の実態とのずれ
「良い印象」89.8%(「良い印象」36.7%+「どちらかといえば良い印象」53.0%)vs「悪い印象」5.6%(内閣府世論調査2018年1月) |
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- 「自衛隊いいね」と思う動機は「守ってくれる」⇔戦争に行く軍隊じゃない
- 「守ってくれる」の中身……災害対応、専守防衛
そのずれにつけこんだ「明記型改憲」
- 専守防衛を超えた自衛隊の装備
ステルス戦闘機、水陸起動団……
※自衛隊は、何を使い何をして「守ってくれる」のか?、と問題提起することが重要。
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「守ってくれる」ための自衛隊は、「だれの子どももころさせない」組織か?
※これを国民投票有権者に理解してもらうことが重要
逆に、改憲派は、以上のことを国民が理解する「前に」投票させることが成功の秘訣
改憲国民投票は自民党が「握る」
- 大阪都構想住民投票に見る国民投票運動
- 大阪維新のテレビCM
- テレビ大阪『ニュースリアル』「大阪都構想リアル闘論」(2015年5月1日)「超延長戦」(5月16日)⇒司会者はいずれも大阪都構想賛成派(長谷川豊・須田慎一郎)
……広告代理店にとっての「改憲国民投票予行演習」
- 国民投票は、テレビを主たるアリーナとするプロパガンダ戦になる。
⇒テレビを支配する広告代理店=電通のメイン顧客が主導権を握る
「だからマスゴミはだめなんだ。ネットのほうが信用できる」⇒アマイ!!
実はネットのほうが支配が簡単。ポータルサイトや検索サイトを支配すればよい。
改憲派の主張だけを検索上位にランクさせればいいだけ!
⇒ネットで、賛否の公平などありえない。
まとめ
・権力の統制こそが、憲法のコアである。
・この観点から安倍政権を診ると、統制を受けないように・自由に権力行使ができるように行動している。
・このもとでの改憲は、権力を憲法によるコントロールから解放することが主題である。
・国民投票においては、真実にもとづき、合理的理性的な判断根拠を国民に与えることが一番大事。しかし、改憲派の国民投票運動はそうならない。
〔資料〕
国連憲章
2条4
すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
41条
安全保障理事会は、その決定を実施するために、兵力の使用を伴わないいかなる措置を使用すべきかを決定することができ、且つ、この措置を適用するように国際連合加盟国に要請することができる。この措置は、経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる。
42条
安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。
51条
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。
憲法9条
1項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。