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2024-05-01

地震多発国日本における原発稼働について

藤野美都子(福島県立医科大学)

 2024年1月1日16時10分、能登半島は、最大震度7の地震に見舞われた。その後も、震度5強を超える地震が続き、200名を超える人が亡くなり、多数の家屋が倒壊し、崖崩れ等により道路が寸断され、広い地域で断水が続くこととなった。被災地では、今も多くの人々が不安を抱えながら避難生活を続けている。


 福島第一原発事故を経験した私が、真っ先に心配したのは、北陸電力志賀原発の状況であった。2023年3月、原子力規制委員会は、志賀原発敷地内の断層を将来活動する可能性のある断層ではないと評価していたが、その評価に対する疑念の声が聞こえていたからである。実際には、志賀原発では、使用済み燃料プールの冷却水の溢水、変圧器の油漏れ、外部電源の一部喪失等はみられたものの、大きな被害は発生しなかった。不幸中の幸いであったというしかない。珠洲原発建設計画を止めることができて本当に良かったという声が、あちらこちらから聞こえてきた。


 4月12日に開催された内閣府の設置する「志賀地域原子力防災協議会」の作業部会では、事故が起きた際、屋内退避や住民の避難が求められる原発から30キロ圏内の14地区で、能登半島地震の後、少なくとも154人が、最長で16日間孤立していたことが報告された。原発が緊急事態に陥ったとしても避難できず、被ばくの危険に晒される恐れがあったのである。地震多発国日本における原発稼働のリスクの大きさについて改めて考えさせられた。


 4月17日23時14分、今度は、四国沖の豊後水道を震源とする地震が発生し、震度6弱の揺れを観測したというニュースに接することとなった。四国電力の伊方原発では、稼働中の3号機で、放射性物質を含まない蒸気を水に変えて集めるタンクの水位を制御する設備がバックアップ用の系統に切り替わった影響で、発電機の出力がおよそ2%低下したものの運転に影響はないと報じられた。またしても、原発の安全性に疑問が持たれる事態となったのである。


 内閣府の設置する「伊方地域原子力防災協議会」では、伊方原発が佐田岬半島の付け根付近に位置しているという地理的特性から、PAZ(原子力施設から概ね半径5キロ圏内。放射性物質が放出される前の段階から予防的に避難等を行う区域)以西の半島地域内を予防避難エリアと位置づけ、防護措置については、原発や周辺道路、港湾等の状況に応じ、多様な対応(陸路避難、海路避難、空路避難、屋内退避)を準備するとしている。国道197号が使用不可で、港湾が使用不可もしくは船舶が利用できず、空路による避難もできない場合、4,137人の住民は屋内に退避することとされており、緊急事態時の住民避難が困難を極めることを物語る筋書きとなっている。


 2023年11月水管理・国土保全局発行の『2023河川データブック』によると、2011年から2022年の間に世界で発生したマグニチュード6以上の1,725回の地震のうち、日本周辺で発生した地震は291回、16.9%を占める。福島第一原発事故の記憶が風化しつつあるなかで、能登半島地震、そして四国地震は、緊急事態時の住民避難が難しいことは明白であるにもかかわらず、地震多発国である日本で原子力発電所を維持し続けることの愚かしさに、再び私たちの目を向けさせることとなった。人々の命と生活を大切にするエネルギー政策を作り出していかなければならないと思う。

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