第7次エネルギー基本計画について考える
藤野美都子(福島県立医科大学特任教授)
2025年2月18日、第7次エネルギー基本計画が閣議決定された。政府は、福島第一原子力発電所事故後策定された14年の第4次基本計画以降、事故の真摯な反省を出発点として、震災前に描いてきたエネルギー戦略は白紙から見直し、原発依存度を可能な限り低減するとしてきたが、今回の基本計画には、「可能な限り原発依存度を低減する」というフレーズは盛り込まれなかった。23年2月10日に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」が原発回帰を明確に打ち出していたことから、当然に予想される帰結ではあった。しかしながら、福島第一原発事故を身近でみてきた者として、第7次エネルギー基本計画には問題があると指摘しておきたい。
政府は、ロシアのウクライナ侵略が続き、中東情勢も緊迫化し、加えてGX(グリーントランスフォーメーション)が推進される中で、エネルギーの安定供給を確保しつつ、脱炭素電源の利用促進を図ることが求められており、再生可能エネルギーを主力電源として最大限導入するとともに、原発の再稼働の加速化と廃炉が決定したサイト内での次世代革新炉への建て替えを進めるとする。原子力は、優れた安定供給性、技術自給率を有し、脱炭素電源として最大限活用すべきとする。しかし、2040年のエネルギー需給見通しにおいて原子力を2割程度と想定するが、事故後、廃止あるいは廃止措置中の原子炉が26基に上り、既存の原子炉だけで2割を賄うことは困難である。また、開発はこれからとされる次世代革新炉を、2040年までに地元理解を得た上で建設することにも現実味はない。エビデンスに基づく政策立案(EBPM:Evidence-Based Policy Making)という観点からは、受け入れがたい計画といわざるを得ない。
4月23日、政府と東京電力が「事故から最長で40年間続く」と想定する廃炉作業最大の難関といわれる燃料デブリの試験的取り出しの2回目が完了したと発表された。福島第一原発では、事故で炉心溶融となった1号機から3号機において、溶け落ちた核燃料と周囲の構造物が混ざり合ったいわゆる燃料デブリが880トン生じたと推定されている。24年11月の1回目取り出しにより0.7gの燃料デブリが採取されたが、今回は0.2gであった。茨城県にある研究施設で、性質や状態について分析し、本格的な燃料デブリの取り出しに向け、工法を検討するという。880トンに対して、わずか0.7g、0.2gである。24年11月23日に福島市で開催された原子力損害賠償・廃炉等支援機構主催の「東京電力・福島第一原子力発電所の廃炉に関する対話」の際、元原子力規制委員会委員長の更田豊志氏は、東電は作業員の被曝線量の問題から複数回の試験取り出しに慎重であるが、工法開発のためには、0.7gでは少なすぎるので2回目以降の取り出しも必要であると説明されていた。取り出し作業は可能な限り遠隔で行うなどの対策は講じられているが、放射線量の高い環境で行われるため、作業員は被曝の危険に晒される。作業員の安全を考えると、拙速の試験的取り出しについては批判的にならざるを得ない。安全に停止された原子力発電所においても、高い放射線量が残る原子炉の解体作業は困難を極めるという。作業員と地元住民の安全のために慎重な取り組みが求められることから、廃炉作業が長期に及ぶことは避けられない。
政府も、原子力の活用には、使用済核燃料の再処理、核燃料サイクル、最終処分、安全な廃炉等の課題を解決することが求められているとする。一度原発事故が起きた後の避難が困難を極めることは、福島の事故により明らかとなった。さらに、能登半島地震では、既存の避難計画の不十分性も指摘された。技術革新が進み、安全性に対する国民の理解が得られた後であればともかく、これらの諸課題が未解決のまま、原子力に依存するエネルギー政策を推進することは、日本国憲法で保障される基本的人権を蔑ろにするものといえよう。