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2022-10-04

岸田内閣が、世論と憲法とを無視して国葬を強行実施したことに対して抗議する憲法研究者声明

憲法ネット103運営委員会は、2022年10月4日に、「岸田内閣が、世論と憲法とを無視して国葬を強行実施したことに対して抗議する憲法研究者声明」を公表しました。

2022年10月4日

岸田内閣が、世論と憲法とを無視して国葬を強行実施したことに対して抗議する憲法研究者声明

1、2022年7月22日、岸田内閣は、安倍晋三元首相の「国葬儀」を執り行うことを決定した。この閣議決定に対して、多くの市民から反対の声があがった。短期間だったが、ネット署名「安倍元首相の「国葬」中止を求めます」には19万筆を超える署名が集まった。われわれ憲法ネット103の84名の憲法研究者も、8月3日付けで、「政府による安倍元首相の国葬の決定は、日本国憲法に反する―憲法研究者による声明」を発表した。圧倒的多数の国民が、この国葬にたいして反対していたという事実もここであらためて指摘する。にもかかわらず、9月27日、政府が国葬を挙行したことは、きわめて遺憾である。
2、国葬は、人の命に序列を設けるもので、また大日本帝国憲法下の身分制秩序に淵源をもつ儀式である。その点で、法の下の平等を定める憲法14条1項および身分制度の廃止を定める同条2項に反するおそれがある。政府はそれを「国葬儀」と言い換えたが、問題の本質はなんらかわらない。
3、大日本帝国憲法下で国葬を実施する際の根拠法令であった国葬令は、1947年の日本国憲法施行とともに憲法上の根拠を失い、遅くとも同年末には失効したものと考えられる。
現行・内閣府設置法第4条は、国葬を実施する場合の事務の所管が内閣にあることを定めるのみである。同法が、内閣が国葬を実施する根拠規定ではなく、それ以外に国葬の実施について定めた法律は存在しない。したがって国葬には、いかなる法律上の根拠もない。内閣法制局は1975年、国葬は法律上の根拠をもたず、実施には三権の承認が必要であると述べた。そのため佐藤栄作元首相の国葬は見送られた。この状況は今もかわらない。
 立憲主義のもとで、内閣をはじめ国家機関は、法が授権していないことは行えない。この問題は7月から指摘されていたが、政府は法的措置を講じようとしなかった。
4、在任中の安倍元首相について、私的利益を実現するために政治をゆがめたりしたという批判がある。カルト団体と親密な関係があったことも疑われている。だが自民党は、故人であり十分な「把握」ができないことを理由に、安倍元首相とカルト団体との関係性について「点検」すら行おうとしない。それは、議員本人からの自己申告をもって「点検」を終わらせ、それ以外の方法で調査を行わないからである。その責は岸田首相が総裁をつとめる自民党にある。
 政府は、安倍元首相について国葬という特別扱いをする理由をまったく説明できていない。そういうなかで、国葬を実施する正当性も必要性もないといわざるをえない。
 それどことろか、岸田文雄・葬儀委員長は、弔辞のなかで、防衛庁の省への昇格、「国民投票法」の制定、教育基本法の「改正」、日米豪印「クアッド」の枠組みづくり、安保関連法や特定秘密保護法の制定などを、故人の功績として並べたのである。これらいずれも、憲法に違反する疑いのつよい、あるいは憲法の趣旨に反する法律・行政である。国葬を口実として、明文改憲・実質改憲を国家的に正当化しようとすることは、許されるものではない。
5、故人を追悼し葬儀を行うことは、きわめて私的な行為であり、思想・良心の自由(憲法19条)や、信教の自由(憲法20条1項)と密接に関わる。したがって、もし国家が特定人物について国葬を行うなら、これら内心の自由を侵害するおそれがつよい。そのことをわたしたちは危惧してきた。そしてかりに国葬を実施するばあいも、個人が弔意表明を強制されることのないよう、政府に対して注意を喚起した。
 しかし首相は「国民一人一人に弔意の表明を強制するものではなく、喪に服することも求めない」(9月8日)と述べながら、予想される人権侵害を防ぐために必要な措置を具体的に講じなかった。それどころか葬儀委員長である岸田首相は、国葬当日に国の省庁で、半旗を掲揚し、黙祷を実施することを決定した。
国からの要請がなくとも、その意をくんで弔旗を掲揚したり、職員に対して黙祷を促したりした自治体が多数あった。その結果、弔意を奉げることに違和感や反対の意見を有する職員らの思想・信条の自由は、侵害されてしまった。このように、直接・間接に人権を侵害したことにおいて、国の責任は大きい。
さらにわれわれがつよく危惧していたことであるが、公立の小中学校において、弔旗が掲揚された事例も報告されている。
6、政府は国葬を実施すること、およびそのために国庫を支出することについて、国民や国会に説明をせず、また国会の承認を求めようとしなかった。そのような秘密主義に対する厳しい批判を受けて、政府は、見積り額を小出しに発表したが(8月26日に2億5000万円、9月6日に16億6000万円)、いずれも積算根拠の不明な机上の概算であった。
 野党は臨時会の召集決定を要求したが(8月18日)、内閣は不当にも臨時国会の召集を拒んだ。そのかわりに、衆参の議院運営委員会でわずか1時間半ずつの閉会中審査で説明を行い(9月8日)、批判をかわそうとした。このようなことは、国権の最高機関である国会(41条)を愚弄し、野党の臨時会開催要求権(憲法53条)を否定し、また国庫支出を国会の議決のもとにおいた財政議会主義(憲法83条)をないがしろにするものだった。
7、われわれは憲法研究者の立場から、安倍元首相の国葬が、日本国憲法に違反する疑いがつよいということをあらためて指摘する。国葬の実施を強行したことで、違憲・違法の国葬が合憲・合法になるわけではないことを強調する。そのうえで、
 内閣に対しては、法治行政の原理、法の下の平等や内心の自由など基本的人権の尊重、議会制民主主義、財政議会主義などを侵害し、総じて憲法を尊重擁護する義務(憲法99条)を遵守しなかったことについて、強く抗議する。
 国会に対しては、今回の国葬の法的問題や実態について調査を行い、そのなかで内閣の責任を追及すること(憲法66条3項)、ならびに、国費支出にかんする統制を厳格に行うこと(国費の支出に関する議決を行う憲法85条、予備費の支出に関する承諾手続を定める憲法87条2項、国会における決算検査を定める憲法90条)を求める。

憲法ネット103運営委員会

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