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2018-02-25

「今日の大学『改革』の歴史と現状ー『上からの大学改革』は何を目指すのか-」(横田力 都留文科大学)

以下は、2018年2月10日に開催された、山梨「市民と大学人をつなぐ会」の第1回集会(於:山梨県都留市)での、横田力さん(都留文科大学)の報告用レジュメと報告文書です。憲法改正と平和の問題を今日の危機的状況下の「大学」論と関連させて考える市民運動組織はあまり例がなく、またこれからの平和の担い手を系統的に培っていくには、大学をめぐる現状に対する市民の理解と支持が不可欠だと思います。市民のみなさんが、研究者サイドのこのような思いを受け止めてくれて、山梨「市民と大学人をつなぐ会」の発足が可能になりました。ぜひお読みください。


◾️報告用レジュメ

横田 力
9条『加憲』論と自衛隊の現実(pdf)

 

横田 力「今日の大学『改革』の歴史と現状ー『上からの大学改革』は何を目指すのか-」

     (主催:日本科学者会議東京支部 第19回東京科学シンポジウム予稿集  所収)

 

はじめに

 近代という時代の確立期以来、大学とは何等かの意味での普遍性即ち真理の追究の場であると同時に人間形成(人格陶冶)の場であるとされてきた。このうち前者は学問研究の自由であり、後者は教授の自由として広義の学問の自由の中心的な要素とされてきた。ただここで注意すべきは、この論理は常に近代国民国家の担い手をどう育てるか、そして大学は国民国家の発展にどう寄与するのかという課題と常に踵を接するものであったということである。つまり大学は常に「真理=普遍」を追究しつつも国家とそれを支持する社会のヘゲモニー権力による掣肘を受けるという関係にあったということである。この点をふまえた上で各論に進むことにする。

1.戦後の大学システムに対する構成員からの批判と抗議

 戦後の高等教育改革は、それ以前の旧帝大から私立の多様な専門学校までも含む多元的な構造を4年制大学へ一元化するところから始まった。その後、高度成長にあわせて理工学系を中心に国立大学がそれを担うための学部、学科の設立を進める時期はあったが、専ら企業社会の担い手たる中堅勤労者を育成するための文科系学生の大幅の拡大は私立大学が担うという形をとった。ここに大学における真理追及のためのメカニズムは高度成長を支える経済界の利害に大きく規定されることになる。

 68年-69年を嚆矢とする所謂「学生反乱」は一方で経済の論理による大学教育の歪み(私大の場合)と他方で医学部等を中心に教授達の「大学の自治」を仮象(ヴェール)とする旧帝大型の権威主義的構造を強く批判するところにその動因があった。ただ留意すべきはこの両者の主張は、大学とは経済成長であれ消費主義であれ何か他の世俗的(実利的)手段に奉仕するものではなく、未だ彼等が享受しえない普遍的意味をもった自由と価値を生み出したそれを広く社会に敷衍していく場として捉えていたことがある。ここにこの時代の学生反乱の意味を見出すことはその後今日までに至る大学論、若者論を論ずる上での基本的視座となる。

2.「批判」に対する国・ヘゲモニー権力の対応

 このような学生の問題提起を受けとめ先ずは「上からの教育改革」によってそれを包摂、統合しようとしたものが71年6月の中教審答申(所謂森戸構想)である。ここではすでに「大学の設置形態や、内部組織にも改善を加えて」、内部的な閉鎖性や社会に対する独善性から立ち直れるような「力が自動的に生まれてくるような制度上」の改革の必要性が謳われているのである(自律性と自己責任による管理運営の強調)。

 その後大学をめぐる状況は75年の私立学校振興助成法に基づく私立大学の経常費補助の開始に見られるように従来のno support、no control体制から一定のsupportとそれに基づく定員管理の方向が見られるようになる。

しかし、84年に中曽根内閣の下に臨教審が設置され中教審とは別のラインで教育改革が進められるようになると「教育の自由化」が大きな課題となってくる。所謂新自由主義と新保守主義との対抗の顕在化である。

 このような流れの中、21世紀へ向けての「上からの改革」の方向を決定づけたのが92年の大学審答申「大学教育の改革について」である。これを受けて「大学設置基準」は大幅に大綱化され、とりわけ戦後大学改革のコアーとされた教養教育と専門教育の科目区分が廃止され、教養部、教養学学部の解体が進み各専門分野を媒介するものとしてのliberal artsを介しての普遍知の追及は困難を迎えることになる。

 そしてこれに合わせるかのように90年代以降、大学の新規設置と定員増がなし崩し的に進められるようになり、大学は「大学が学生を選ぶ時代」から「学生が大学を選ぶ時代」へと展開することになる。問題はこのことが92年を一つのピークに18歳人口が将来の増大をほとんど見込めない形での減少カーブの中であえて追及されたことである。

 デマンドなき中のサプライの過剰は教育の質の劣化を生むだけでなく各大学は拡大のための投資の回収先を諸事業による利益と学生納付金そして国家補助、助成分の中の機能強化のための特別助成費を含む競争的助成経費に求めることになる。ここで重要なことはこのようなプロセスが展開する中で、学生にとっての大学観が決定的に転換することである。即ち、大学は一部の学生にとっては消費のためのいわば「テーマ・パーク」として捉えられ、他のより困難な状況を抱える学生には収奪を受けた借金返済のため苦しいアルバイトに耐えながら社会の経済システムにより早く、より効率的に順応することを学ぶいわば体験学習の場として意識されるようになったことである。ここでは普遍的価値と正義、人間が絆を求める連帯への方向性は極めて見出し難いものになるのである。

3.国公立大学の法人化とその後の展開

 このような中で小泉政権の急進的新自由主義改革の下で01年6月の「大学(国立大学)の構造改革」(遠山プラン)を受けて、実行に移されたのが2003年の国立大学法人化と地法独立法人法の制定であった。それはその嚆矢となった行政法学者、藤田宙靖の論考にみられるようにイギリスの独立エージェンシーに一つに範を求めるものであったが、法制化されたそれは、それとは全く内容を異にするものであり、研究・教育課程から大学の自治の中心的構成要素である人事権と教育課程編成権とを教授会から奪うものであり、学問の自由との関係からみても「学問研究の自由」と「教授(教育)の自由」との統一を困難にするものであった。

 その証左として、このことを前提に人事における教授会の中心的権限を定めた教育公務員特例法は通知により全面的適用が排除され(それは私立大学にも学問、教育上の条理として準用されていたもの)、同じくその権限事項を広く規定していた国立学校設置法は廃止されている。その後、10年が経過し、国立大学の第2期中期計画の後半3年の「加速度期」に入ろうとすると同時に最後まで残っていた自治の基盤としての学校教育法第93条が大幅に改正され、教授会は経営事項はもとより、教学事項についても決定機関ではなく必要に応じて学長の求めに対して意見具申する審議・諮問機関と規定されるに至ったのである。

 因みにあわせて国立大学法人の場合は「法人を代表し、その業務を総理する」ところの「学長=理事長」の選出過程が改編され(国立大学法人法改正)」学長の選挙は学外者が過半数を占める学長選考委員会が決定する「基準」によるとされたことで法人の最高責任者の選出がほぼ完全に外部化されたことも同じ状況を反映するものである。

4.大学改革をめぐる現局面における問題点

 このような中で確認すべきことは、大学の「上からの改革」を主導するのが常にその多くが経済的権力としての財界の提言を受けてのことだということである。今次2014年の学教法と国立大学法人法改正というこの間の約20年の改革のピークとも思われる状況は012年の経済同友会提言「私立大学におけるガバナンス改革」でその枠組みが極めて周到かつ具体的に示されているのである。

 そこでは04年に施行された国立大学法人法の枠組みをより完全に徹底させるために、国公私大全の大学組織のあり方を定める根拠法である学教法の改正と、その趣旨の徹底が各大学の内部規程の全面的見直しを伴う形ですでに強く主張されていたのである。

 結局のところこのような動向をうけ、学校教育法改正後の通知(いわゆるチェック・リスト「内部規則等総点検・見直しの実施について」)により国公私全大学の95%以上がその見直しを実施し、従来の憲法23条-47年(旧)教育基本法-学校教育法-教育特法に支えられ70年近くにわたって教育、研究現場を規定してきた「学問の自由」と「大学の自治」に関する教育法上の条規と慣行が殆ど抵抗の術もなく解体しようとしているのが現状なのである。そしてより大きな問題はこのような状況の中で学生の社会観、人間観がより強く現状に規定され社会にいち早く順応することを自立と考える自己規律型人間像が浸透していることである。こここから果たして「大学→社会→政治」のプロセスを領導する変革主体が生まれうるであろうか。

 この点を探ることが今日の大学論、若者論にとっての最大の課題と思われるのである。

<参考文献>-主要なもののみ-

『新自由主義大学改革』(東信堂)/『大学改革とは何か』(岩波書店)/『大学改革という理念』(明石書店)/日本教育法学会年報44号「新教育基本法と教育再生実行戦略」(所収、細井克彦論文)/同45号「戦後70年と教育法」(所収、光本滋論文、丹波徹論文)/『筑波大学 その成長をめぐるたたかいと現状』(青木書店)/『日本の私立大学 第3版』(青木書店)/法律時報増刊『改憲を問う』(所収、中富公一論文)/憲法理論研究会『憲法と自治』(所収、松田浩論文)

『現代思想』2014年10月「大学崩壊」所収の諸論文/『1986(上)』(信山社)     他

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