新刊 憲法ネット103(編)『混迷する憲法政治を超えて』
<新刊案内>
憲法ネット103(編)『混迷する憲法政治を超えて』(有信堂高文社、2025年10 月 初版第1刷発行)定価(本体2,800円+消費税)/ A5版並製/328頁/ ISBN978-4-8420-1091-5

http://www.yushindo.co.jp/isbn/ISBN978-4-8420-1091-5.html
本書『混迷する憲法政治を超えて』(有信堂高文社、2025年)は憲法ネット103の2020~2024年の5年間の活動を集約して世に問うものとして出版するものです。憲法ネット103主催の各種シンポジウム、学習会、連続講座におけるメンバーとゲストによる各種の報告を収録し、あわせて重要な憲法問題に関する書き下ろしの各章から構成されています。
以下、簡単に内容を紹介します。
第1部「平和主義のいま」は5つの章から構成されています。
第1章「日本国憲法の平和主義の理念と試練」(河上暁弘)は、憲法前文の平和主義の理念、非軍事平和主義としての9条の意義と第2次安倍政権以後の日本の軍事化と憲法状況を概観し、近年の自民党の改憲案も検討して、日本国憲法の平和主義は「徹底的平和主義」「積極的平和主義」であると主張しています。
第2章「安全保障政策の大転換―安保3文書がもたらす世界」(高作正博)は、安保3文書は憲法の平和主義を根底から覆し、国家作用の総合的な国力を「安全保障」バージョンに作り変えることを企図していると言います。安保3文書の具体化がもたらす法状況を検討して、制度に吹き込まれる精神に対する警戒を呼びかけます。
第3章「今あえて、『軍事によらない平和』を追求することの意義」(三宅裕一郎)は、「軍事による平和」の実相とその限界を論じ、「軍事によらない平和」を実現するためのアプローチとして「マルチト ラック外交」の可能性と、アメリカ市民との連帯・連携の可能性を指摘します。
第4章「防衛力の抜本的強化と九州地方への影響」(青野篤)は、「反撃能力」の違憲性、南西諸島での防衛力強化と戦場化の想定、加速化する九州地方の軍事拠点化の動きを検討しています。
第5章「沖縄と平和主義-『平和的生存権』からの考察を中心に」(飯島滋明)は、沖縄での日常生活と自衛隊配備・強化が平和的生存権侵害になると述べています。
第2部「民主主義・立憲主義を問う」は7つの章から構成されています。
第6章「『民意』もしくは『憲法』か」(石村修)は、比較憲法的な視点から立憲主義と民主主義のあり方を論じ、憲法制定後の政治権力が試みてきたのは実は「立憲主義への挑戦」の連続であり、その挑戦への抵抗を多くの憲法学者が支えてきたと述べます。
第7章「議会政治・憲法政治から見る安倍政権の総括―『レガシーを拒否する』主権者の権利」(永山茂樹)は、安倍政治の3つのねらいと5つの手法を明らかにして、安倍政権のもとでの議会政治を総括し、主権者には安倍政治というレガシーを拒む権利があることを確認しています。
第8章「改憲論に対する憲法学的考察」(植野妙実子)は、憲法改正手続、各政党の改憲論、自民党の改憲4項目、緊急事態条項の導入、9条の加憲的改正を検討して、必要のない憲法改正ではなく、世界平和確立のためにやるべきことは多いと述べています。
第9章「劣化する民主主義と選挙制度改革の展望」(小松浩)は、2024年スーパー選挙イヤー、2024年イギリス総選挙、2024年日本の選挙を振り返り、小選挙区制廃止運動をはじめとする選挙制度改革の必要性を論じています。
第10章「『政治とカネ』の重大問題-裏金をなくす改革の必要性」(上脇博之)は、違憲の政党助成金と違憲・違法な企業・団体献金を論じ、2024年6月の政治資金規正法改正は改革の名に値しないこと、「使途不明金=事実上の裏金支出」問題、裏金による改憲買収の危険性について指摘しています。
第11章「わが国における司法の果たすべき役割は何か」(青井未帆)は、裁判所には、市民社会に生起する様々な紛争の解決という機能と国家機関の間での任務分担に関わる機能の二つがあり、後者に関して「憲法外の事実」に屈せず司法がなすべき役割を果たすことができるか否かは、市民による自由を守るための不断の努力が鍵を握っていると言います。
第12章「憲法審査会における議論の現在」(大江京子)では、憲法審査会設置の経緯、2022年衆議院審査会の動向、国会議員任期延長改憲への批判、改憲派の勢力状況を解説し、改憲ありきではなく憲法の活用を重視すべきだと主張しています。
第3部「人権を守られているか」は8章から構成されています。
第13章「災害と憲法」(根森健)は、人権と地方自治の保障が災害に対する「レジリエンス(復興力)の構築」の基盤になり、「より良い復興」(Build Back Better)とは憲法を基盤とした「人間復興」であると論じています。
第14章「コロナ禍における安全・安心と自由」(愛敬浩二)は、「安全・安心と自由」に関する憲法学的考察をもとに、「国家からの自由」の主張が国家権力と「癒着」し、理性的な討議や科学的な政策形成を阻害する危険性を指摘し、「公共の福祉」再評価のための議論を深めることによって、emergency の特性に応じた「法律方式」による実効的対応と立憲的統制のあり方を丁寧に議論していくべきだと言います。
第15章「出入国管理に対する憲法的統制の実現に向けて-2023年入管法改定を中心に」(髙佐智美)は、入管法制の問題点とその原因、入管法制に対する憲法的統制を論じ、外国人労働者の必要性を認めて根本的な政策転換を行うことの必要性を訴えています。
第16章「個人の尊重・平和的生存権・女性の政治参画-ジェンダーと人権をめぐる憲法学的考察」(塚林美弥子)は、女性の政治参画の憲法理論、日本の社会構造上の問題、平和と女性の人権を論じています。
第17章「靖国神社合祀拒否訴訟の検討」(稲正樹)は、靖国神社合祀拒否訴訟に関する裁判例を取り上げ、裁判所による信教の自由論、政教分離論、靖国神社論の問題点を論じています。憲法13条、20条に基づく遺族の近親者に対する追悼・敬慕の情を尊重しない自由は靖国神社には与えられていないと、述べています。
第18章「ビラ配布の自由と憲法裁判-21世紀初頭における市民的自由の状況」(成澤孝人)は、立川テント村事件と日の丸・君が代問題、2004~2005年に起こった表現の自由への攻撃事件(堀越事件、葛飾ビラ事件、世田谷事件)を取り上げ、不当な権力行使を可視化し、精神の自由を回復していくことの大切さを訴えています。
第19章「マイナンバー制度とプライバシー-違憲訴訟で問題になったこと」(水永誠二)は、マイナンバー制度とその機能、ビッグデータの利活用の問題点、住基ネット訴訟・マイナンバー訴訟の問題点、マイナンバー制度と日本のデジタル化に欠けているものを指摘しています。
第20章「教育費無償化の改憲論」(丹羽徹)は、教育に関わる改憲案、教育無償化の動向、憲法審査会での教育無償化論議、教育無償化と憲法を論じ、教育無償化は教育を受ける権利の具体化で行われるべきものであり、軍拡予算との取引に使ってはならないと言います。
第4部「憲法を未来に生かすために」は以下の3つの章から構成されています。
第21章「日米安保条約の終了―主権国家日本の回復のために」(小林武)は、安保条約10条終了規定の持つ意味を確認し、安保体制の展開とその終焉を展望し、国民による非暴力不服従運動と自衛隊を専守防衛の線で統制することの必要性を主張します。
第22章「憲法9条解釈の前提となるべき戦争記憶の探究-沖縄戦ポストメモリーと集合的記憶」(麻生多聞)は、憲法9条解釈の前提となるべき戦争記憶の集合的記憶、沖縄戦生存者2世によるポストメモリーと集合的記憶を論じ、相対化の時代において、戦争記憶を集合的記憶へと昇華させ、憲法9条解釈の基礎として位置付けることの課題を論じます。
第23章「平和的生存権と国際協調主義に基づく国際連帯活動 ガザ攻撃と日本」(清末愛砂)は、自身のパレスチナとの関わりをベースにして、パレスチナ人の故郷の喪失と占領、国際連帯活動の軸となる平和的生存権、ガザ攻撃と日本の責任を論じています。
以上のように、本書に収録され執筆されたテーマは多岐に及びます。日本国憲法の立憲主義、民主主義、平和主義が切り崩されてきた現状をどうやって打開し、混迷する憲法政治の中で一人一人のかけがえのない暮らしといのちをどうやって確保していくのか。憲法12条は、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」と規定しています。憲法の担い手である私たちに「不断の努力」の大切さを気付かされる書籍だと思います。ぜひご一読のほど、どうぞよろしくお願いします。









