*以下は、清水雅彦さん(日本体育大学教授)「『安保法制』と9条改憲」PeaceNight9実行委員会(主催)九条の会東大(共催)PeaceNight9集会『9条変えるとどうなるの?』2017.12.21での講演レジュメです。
PeaceNight9
「安保法制」と9条改憲
2017.12.21 清水雅彦(日本体育大学・憲法学)
はじめに
一 自民党の集団的自衛権行使容認論・ガイドライン再改定・戦争法
1 解釈改憲(集団的自衛権行使容認の政府の閣議決定)
① 従来の政府の9条解釈と見解
・9条2項…「戦力」は「自衛のための必要最小限度の実力を超えるもの」
→「実力」は憲法上保有できる(自衛隊を違憲としない政府の解釈)
・自衛権行使の3要件(1954年政府見解)
…我が国に対する急迫不正の侵害があること
これを排除するために他の適当な手段がないこと
必要最小限度の実力行使にとどまること
② 2014年7月1日の閣議決定で新3要件決定
…a,我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国
に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及
び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合、b,これを排除し、我が国
の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないとき、c,必要最小限度の実力
を行使することは許容される、という3要件に該当する場合は武力行使可能
→集団的自衛権行使も「集団安全保障」への参加も可能
2 ガイドライン再改定
① 日米安保体制の経緯と内容
・1951年日米安保条約署名(半植民地条約)
…一方的な基地貸与条約(全土基地方式)、米国に日本の防衛義務なし、日本の再軍備義
務、内乱条項
・1960年安保改定
…政治・経済協力規定(2条)、軍備増強義務(3条)、協議制度(4条)、片務的な日米共
同作戦行動規定(5条)、日本の基地提供義務・極東条項(6条)
・1970年安保自動延長
・1978年日米防衛協力のための指針(ガイドライン)締結
…侵略未然防止・日本有事・極東有事で構成
日本有事の作戦計画OPLAN5051・中東有事の作戦計画OPLAN5053作成
・1997年ガイドライン改定
…平時・日本有事・周辺有事で構成
朝鮮有事の作戦計画OPLAN5055作成(現在は政権崩壊対応のOPLAN5030)
② 2015年ガイドライン再改定
・2015年4月27日ガイドライン再改定
・米国…2012年DSG(米国防戦略指針)で国防予算削減
2014年QDR(4年毎の国防計画見直し)で4軍削減・サイバーや宇宙優先
アジア太平洋地域重視、中国は脅威であると同時にパートナーシップ
・日本…安倍政権の「積極的平和主義」、集団的自衛権行使容認閣議決定に対応
97年ガイドラインを越える自衛隊のイラク派兵・ジブチ基地など
中国は脅威であり南西地域防衛態勢強化
・平時から緊急事態(グレーゾーン~グローバル有事)の「切れ目のない」対応
…「アジア太平洋地域およびこれを超えた地域」
「日米同盟のグローバルな性質」
・「周辺事態」の削除
…周辺事態法1条「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのあ
る事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」
・「後方地域支援(rear area support)」の削除
…「後方支援(logistics support)」へ(後方から前線までの兵站)
・宇宙及びサイバー空間に関する協力
・必要に応じて設置される調整メカニズムの常設化…同盟調整メカニズム
3 戦争法
① 制定・改正対象法律(2015年5月15日国会提出、9月19日「成立」)
・「国際平和支援法」(新法)
・「平和安全法制整備法」(一括法)
…自衛隊法(1954年)改正
PKO協力法(1992年)改正
周辺事態法(1999年)改正
船舶検査活動法(2000年)改正
武力攻撃事態法(2003年)改正
米軍行動関連措置法(2004年)改正
特定公共施設利用法(2004年)改正
海上輸送規制法(2004年)改正
捕虜取扱い法(2004年)改正
国家安全保障会議設置法(1986年)改正
② 「武力攻撃に至らない侵害への対処」関係(分類は3月20日与党合意文書)
・離島の周辺地域等での侵害への対処
…「領域警備法」の制定は見送り
…自衛隊の治安出動(自衛隊法78条)や海上警備行動(同82条)の手続の迅速化(5月14
日閣議決定)
・日本の領海・内水での無害通航に該当しない航行を行う外国艦船への対処
…自衛隊の海上警備行動(同82条)の手続の迅速化(5月14日閣議決定)
・平時からの米軍等の武器等の防護
…米軍等の武器等の防護のための武器使用(自衛隊法95条の2)
③ 「わが国の平和と安全に資する活動を行う他国軍隊に対する支援活動」関係
・後方支援と「武力行使との一体化」論の変更
…周辺事態法の「後方地域」「非戦闘地域」はやめ、「現に戦闘行為を行っている現場」以
外での「後方支援」実施、「周辺」という事実上の地理的制約削除のために「重要影響
事態法」へ改正、米軍と米軍以外の他国軍隊も支援、弾薬の提供・発進準備中の航空機
などへの燃料補給も
④ 「国際社会の平和と安全への一層の貢献」関係
・テロ対策特措法やイラク特措法の時限立法はやめて「国際平和共同対処事態」に米軍等支
援の恒久法(「国際平和支援法」)制定、国会の事前承認は基本だが衆参各7日以内の議決
努力義務
・PKOなどの国際平和協力活動の拡大(PKO協力法の改正)
…駆け付け警護・治安維持活動も可能に、国連が統括しない停戦監視・安全確保・人道復
興支援活動等への参加も、自己保存型・武器等防護から任務遂行のための武器使用(PKO
協力法24条→25条)の拡大
⑤ 「憲法第9条の下で許容される自衛の措置」(集団的自衛権行使)関係
・自衛隊法3条の自衛隊の任務規定の変更
…「自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略
に対し我が国を防衛することを主たる任務とし……」の下線削除
・「存立危機事態」の追加
…自衛隊の防衛出動の要件(自衛隊法76条)に他国への攻撃・「存立危機事態」を追加
…武力攻撃事態法に「存立危機事態」を追加、「武力攻撃事態・存立危機事態法」に改正
⑥ 「その他関連する法改正事項」
・臨検
…船舶検査活動法・海上輸送規制法の改正
・他国軍隊に対する物品・役務の提供
…自衛隊法100条の6の改正
・在外邦人の救出
…在外邦人等の輸送(自衛隊法84条の3)の拡大
在外邦人等輸送の際の武器使用権限(自衛隊法94条の5)の拡大
4 集団的自衛権の問題点
① 国連憲章上の問題点
・1944年のダンバートン・オークス提案にはなかった
→中南米諸国の要求にアメリカが応えて国連憲章に規定
その後、NATOやワルシャワ条約機構など軍事同盟成立へ
② 行使の実態
・アメリカ…1958年レバノン、1965年ベトナム(オーストラリア、ニュージーランドも)、
1988年ホンジュラス、1990年ペルシャ湾地域(イギリスも)
・ソ連・ロシア…1956年ハンガリー、1968年チェコスロバキア、1980年アフガニスタン、
1993年タジキスタン
・イギリス…1958年ヨルダン、1964年南アラビア連邦、2001年アメリカ(フランス、オー
ストラリアなども)
・フランス…1986年チャド
・キューバ…1983年アンゴラ
・ジンバブエ、アンゴラ、ナミビア…1998年コンゴ
→主に大国が小国へ侵攻・侵略
③ 憲法上の問題点
・9条…従来の政府解釈でも否定、9条2項の存在を無視
・41条…国権の最高機関性の無視(1954年参議院の「自衛隊の海外出動を為さざることに
関する決議」)
・前文・1条…国民主権の無視(2013年参議院選挙公約になし)
・96条…国会と国民の意思の無視
「人類普遍の原理」(前文1段)、基本的人権の永久不可侵性(11条、97条)から
憲法改正には限界がある
・99条…公務員には憲法尊重擁護義務がある
→政府による解釈変更は立憲主義の否定
④ 安保条約上の問題点
・5条…日本にとっては個別的自衛権の発動としての共同防衛だけ
・6条…アメリカへの基地提供規定(5条のアンバランスを補う規定)
・NATO、米韓相互防衛条約、米比相互防衛条約などは集団的自衛権規定
→安保条約上改正なしに日本は集団的自衛権行使できるのか
二 安倍首相らの最近の9条改憲論
1 2017年5月3日民間憲法臨調・美しい日本の憲法をつくる国民の会共催の第19回公開憲法フ
ォーラムでの安倍首相のメッセージ
・「例えば、憲法9条です。今日、災害救助を含め、命懸けで、24時間、365日、領土、領
海、領空、日本人の命を守り抜く、その任務を果たしている自衛隊の姿に対して、国民の
信頼は9割を超えています。しかし、多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とす
る議論が、今なお存在しています。『自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば、
命を張って守ってくれ』というのは、あまりにも無責任です。/私は、少なくとも、私た
ちの世代の内に、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ、『自衛隊が違憲かもしれ
ない』などの議論が生まれる余地をなくすべきである、と考えます。/もちろん、9条の
平和主義の理念については、未来に向けて、しっかりと、堅持していかなければなりませ
ん。そこで、『9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む』という考え方、これ
は、国民的な議論に値するのだろう、と思います。」
2 日本政策研究センターの主張
① 『明日への選択』2016年9月号(日本政策研究センター)
・伊藤哲夫(日本政策研究センター代表)「『三分の二』獲得後の改憲戦略」
「ところで、もう一方で提案したいと考えるのが、改憲を更に具体化していくための思考
の転換だ。一言でいえば、『改憲はまず加憲から』という考え方に他ならないが、ただこ
れは『三分の二』の重要な一角たる公明党の主張に単に適合させる、といった方向性だけ
に留まらないことをまず指摘したい。むしろ護憲派にこちら側から揺さぶりをかけ、彼ら
に昨年のような大々的な『統一戦線』を容易には形成させないための積極戦略でもある、
ということなのだ。」「……筆者がまずこの『加憲』という文脈で考えるのは、例えば前文
に『国家の存立を全力をもって確保し』といった言葉を補うこと、憲法第九条に三項を加
え、『但し前項の規定は確立された国際法に基づく自衛のための実力の保持を否定するも
のではない』といった規定を入れること、更には独立章を新たに設け、緊急事態における
政府の行動を根拠づけるいわゆる『緊急事態条項』を加えること、そして憲法十三条と二
十四条を補完する『家族保護規定』を設けること、等々だといってよい。……」「最後に
もう一点確認しておきたいのは、これはあくまでも現在の国民世論の現実を踏まえた苦肉
の提案であるということだ。国民世論はまだまだ憲法を正面から論じられる段階には至っ
ていない。とすれば、今はこのレベルから固い壁をこじ開けていくのが唯一残された道だ、
と考えるのである。つまり、まずはかかる道で『普通の国家』になることをめざし、その
上でいつの日か、真の『日本』にもなっていくということだ。」
② 伊藤哲夫・岡田邦弘・小坂実『これがわれらの憲法改正提案だ 護憲派よ、それでも憲法改
正に反対か?』(日本政策研究センター、2017年)
・伊藤哲夫「なぜ、三つの改正を提案するのか」
「……三分の二の合意形成という目標です。そのためには公明党あるいは日本維新の会、
更に言えば民進党の一部だって巻き込んで行けるような、そんな項目というものをまず求
めるといった議論が、当然ここでは求められる。なのに、そうした合意がもうハナから出
来そうにもないような項目を、いくらそれが重要な項目であったとしても、それをあえて
振りかざすというのは、これはもう合意を形成する気がそもそもない議論と言わざるを得
ない。……『今の国会の状況を活かした憲法改正』という目前の課題に視点を据えていく
場合、これではむしろぶち壊しだと言うべきです。」「……そしてその場合、最大の条件と
なるのは、これまでの改憲派にとっては納得しがたい議論かも知れないけれども、この憲
法は少なくとも全否定はしないという姿勢です。……」
・岡田邦弘(日本政策研究センター所長)「自衛隊明記が『九条問題』の克服のカギ」
「……現在の二項を削除し自衛隊を世界の国々が保持している『普通の軍隊』として位置
づけることが最もストレートな解決方法と言えます。」「……とはいえ、自衛隊の存在に関
して何らかの憲法改正はまったなしの状態にあります。そうだとすれば、二項はそのまま
にして、九条に新たに第三項を設け、第二項が保持しないと定める『戦力』は別のもので
あるとして、国際法に基づく自衛隊の存在を明記するという改正案も一考に値する選択肢
だと思うのです。いわゆる『加憲』です。」「いずれにしても、自衛隊の存在を憲法に明記
することが肝要であり、そのための現実的な改正プランが準備されねばならないと思いま
す。」
3 従来の9条改憲案・政党の9条論
① 従来の自民党の9条改正案
・「新憲法草案」(2005年10月28日)第2章安全保障
第9条「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる
戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこ
れを放棄する。」
第9条の2第1項「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総
理大臣を最高指揮権者とする自衛軍を保持する。」
第9条の2第3項「自衛軍は、第一項の規定による任務を遂行するための活動のほか、法
律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行わ
れる活動及び緊急事態における公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るた
めの活動を行うことができる。」
・「日本国憲法改正草案」(2012年4月27日)第2章安全保障
第9条第1項「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発
動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段と
しては用いない。」
第9条第2項「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。」
第9条の2第1項「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総
理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。」
第9条の2第3項「国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律
の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われ
る活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うこと
ができる。」
第9条の2第5項「国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国
防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防
軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されな
ければならない。」
② 2017年総選挙における各党の公約
・自民党「自民党2017政策パンフレット」
「現行憲法の『国民主権』、『基本的人権の尊重』、『平和主義』の3つの基本原理は堅持し
つつ、憲法改正を目指します」「……自衛隊の明記、教育の無償化・充実強化、緊急事態
対応、参議院の合区解消など4項目を中心に、党内外の十分な議論を踏まえ、憲法改正原
案を国会で提案・発議し、国民投票を行い、初めての憲法改正を目指します。」
・公明党「衆院選重点政策」
「…施行70年を迎えた日本国憲法を優れた憲法であると評価しています。……とくに、『国
民主権』、『基本的人権の尊重』、『恒久平和主義』の3原理は普遍の原理であり、将来とも
堅持します。一方、憲法施行時には想定できなかった課題が明らかになり、憲法規定に不
備があるためそれを解決できないのであれば、そのための新たな条文を付け加えること(加
憲)によって改正することを考えています」「憲法9条1項2項は、憲法の平和主義を体
現するもので、今後とも堅持します。2年前に成立した平和安全法制は、9条の下で許容
される『自衛の措置』の限界を明確にしました。この法制の整備によって、現下の厳しい
安全保障環境であっても、平時から有事に至るまでの隙間のない安全確保が可能になった
と考えています。一方で、9条1項2項を維持しつつ、自衛隊の存在を憲法上明記し、一
部にある自衛隊違憲の疑念を払拭したいという提案がなされています。その意図は理解で
きないわけではありませんが、多くの国民は現在の自衛隊の活動を支持しており、憲法違
反の存在とは考えていません。今、大事なことは、わが国の平和と安全を確保するため、
先の平和安全法制の適切な運用と実績を積み重ね、さらに国民の理解を得ていくことだと
考えます。」
・日本維新の会「2017 維新八策」
「①教育の無償化 ②道州制の実現を含む統治機構改革 ③憲法裁判所の設置 ④憲法改
正国民投票で、現行憲法が未だに国民投票を経ていない等の問題点を解消 ⑤国際情勢の
変化に対応し、生命・財産を守るための9条改正」
・希望の党「政策パンフレット」
「自衛隊の存在を含め、時代に合った憲法のあり方を議論します。たとえば、国民の知る
権利を憲法に明確に定め、国や自治体の情報公開を進めること。地方自治の『分権』の考
え方を憲法に明記し、『課税自主権』、『財政自主権』についても規定すること。これらを
含む憲法全体の見直しを、与野党間の協議によって進めていきます。」「……現行の安全保
障法制は憲法に則り適切に運用します。」
・立憲民主党「政策パンフレット」
「……2015年に強行採決された違憲の安保法制の問題をうやむやにしたままに、理念な
き憲法改正が叫ばれています。専守防衛を逸脱し、立憲主義を破壊する、安保法制を前提
とした憲法9条の改悪とは、徹底的に闘います。現下の安全保障環境を鑑み、領域警備法
の制定と憲法の枠内での周辺事態法の強化をめざします。基本的人権の尊重、立憲主義、
民主主義といった原則は、決して揺るがしません。解散権の制約や知る権利など、この原
則を深化するための憲法論議を進めます。」
・社会民主党「憲法を活かす政治」
「日本国憲法の『平和主義』、『国民主権』、『基本的人権の尊重』の三原則を遵守し、憲法
を変えさせません」「『戦争法』に基づき、アメリカと一体となって世界中で戦争する自衛
隊をそのまま憲法に位置づけ、9条を死文化しようとしている安倍首相の『2020年改
憲案』に反対します。9条の平和主義を守り活かします。教育無償化や参議院の合区解消、
緊急事態対応には、憲法改正は不要です」「集団的自衛権の行使を容認した『7・1閣議
決定』を撤回させ、『戦争法』を廃止します」「平和憲法の理念に基づく安全保障政策を実
現るために、『平和創造基本法』を制定します。自衛隊の予算や活動を『専守防衛』の水
準に引き戻します……。」
・日本共産党「2017年総選挙政策」
「市民と野党が力をあわせ、安保法制=戦争法、秘密保護法、共謀罪法――3つの違憲立
法をそろって廃止し、日本の政治に立憲主義・民主主義・平和主義を取り戻します。――
集団的自衛権行使容認の『閣議決定』を撤回します」「9条に自衛隊を書き込もうという
改憲案は、単に存在する自衛隊を憲法上追認するだけではありません。『後からつくった
法律は、前の法律に優先する』というのが、法の一般原則です(後法優先の原則)。たと
え9条2項(戦力不保持・交戦権の否認)を残したとしても、別の独立した項目で自衛隊
の存在理由が明記されれば、2項が空文化=死文化することは避けられません。世界に誇
る平和主義をさだめた9条によって、逆に無制限の海外での武力行使が可能になってしま
います。これこそが、安倍首相の9条改憲の正体です。首相が憲法9条に書き込もうとし
ている自衛隊とは、安保法制=戦争法によって集団的自衛権の行使が可能となった自衛隊
です。これを憲法に書き込むということは、憲法違反の安保法制を合憲にするということ
にほかなりません。――安倍政権による憲法9条改定に反対します。」
4 9条「加憲」論の検討
① 安倍の姿勢
・とにかく改憲をしたい
・歴史に名前を残したい?…教育基本法の改正、防衛省設置、憲法改正手続法の制定、国家
安全保障会議の設置、秘密保護法の制定、武器輸出禁止三原則の変更、集団的自衛権行使
の解釈変更・戦争法の制定、共謀罪法の制定など
・9条改憲論としては後退←運動と世論の成果
② 9条「加憲」の意味
・限界説(通説)…憲法改正は憲法制定と異なり憲法の継続性が前提、制定>改正
根拠~人類普遍の原理(前文1段)、人権の性質(11条・97条)
内容…改正手続、基本原理(国民主権、人権の尊重、平和主義)、憲法制
定権力の排除
・「自衛隊違憲」が憲法上言えなくなる
←2015年憲法研究者286人が回答したアンケート結果
自衛隊の存在違憲162人(56.6%)、合憲73人(25.5%)、わからない・その他51人(17.8
%)
←自衛隊違憲論があることで、自衛隊≠戦力・軍隊、「専守防衛」「集団的自衛権行使否認」
「海外派兵の禁止」など歯止めをかけてきた
・9条2項の「空文化」「死文化」
←「後法優先の原則(後法は前法に優る、後法は前法を破る)」
→「加憲」という表現は妥当か、「改憲」「壊憲」
・違憲の「戦争法」の正当化
→集団的自衛権も行使できる自衛隊の正当化
今後は「軍隊」に向けてのさらなる改憲(軍法会議の設置、フルスペックの集団的自衛
権行使など)・「普通の国」へ
・自衛隊の「公共性」論
→9条の下で否定されてきた「軍事公共性」
改憲後は自衛隊機の夜間飛行等・土地収用・有事の際の徴用などに「公共性」
三 改憲か日本国憲法か
1 最終目標としての憲法の全面改正~2012年4月の「日本国憲法改正草案」の主な内容
① 国家主義
・前文第1段主語…「日本国民は」(日本国憲法)から「日本国は」(改憲案)へ
・天皇元首化(1条)
・「国家の安全」…改憲案、国家安全保障会議、国家安全保障戦略など
② 人権規定
・人権制約原理(12条、13条)…「公共の福祉」から「公益及び公の秩序」へ
人権と人権が衝突した場合の調整原理から「国家の安全と
社会秩序」(2005年要綱)へ
・大幅な義務規定の拡大
③ 緊急事態条項
・外部からの武力攻撃・内乱・大規模自然災害等に内閣総理大臣が緊急事態宣言
・法律と同一の効力を有する政令制定、内閣総理大臣は地方自治体の長に指示
・何人も国その他公の機関の指示に従わなければならない
④ 平和主義
・9条改正
・平和的生存権の削除
2 日本国憲法の平和主義の意義
① 国連憲章と日本国憲法~武力による威嚇と武力行使の考え
・憲章2条4項…「慎まなければならない」
憲法9条1項…「永久にこれを放棄する」
→日本国憲法には国連憲章との連続面と断絶面がある
27か国目の「軍隊のない国家」になるのか、「普通の国」になるのか
② 安倍政権の戦争法の狙いは何か
・「積極的平和主義」…proactive contribution to peace
日本国際フォーラム(安倍首相は元参与)2009年提言
・アメリカの政権によっては日本もアメリカの戦争に参加し、自衛隊が他国民を殺し、自衛
隊員が殺され、日本国内ではテロが発生して一般国民も死ぬことに
③ 「戦争する国」に対抗する二つの平和主義
・憲法9条
…消極的平和(negative peace)の追求、暴力(戦争)のない状態をめざす
・憲法前文
…「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努
めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」
「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する
権利を有することを確認する。」
…積極的平和(positive peace)の追求、構造的暴力(国内外の社会構造による貧困・飢餓・
抑圧・疎外・差別など)のない状態をめざす
おわりに
・運動の課題(総がかり行動・市民連合について)…
・安倍改憲NO!全国市民アクションについて
…運営は、総がかり行動実行委員会と全国市民アクションとの連続・合同運営委員会
総がかり行動実行委員会は従来の運動継続、全国市民アクションは安倍の9条改憲反対運動
全国での組織化と学習運動、「安倍改憲NO! 憲法を生かす全国統一署名」運動(3000万筆目
標)、新聞意見広告、毎月19日行動・11月3日大集会など
・総選挙の結果について
…野党候補乱立で自民党は小選挙区で4割台の得票で7割台の議席獲得
しかし、比例の自民党得票率は33.28%、立憲3野党は26.95%・+希望の党で46.83%
内閣の不支持率が支持率を上回って迎えた総選挙で与党が勝利するのは1996年以降初
・個人の課題…自己満足で終わらない、自己規制・萎縮・忖度しない