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2017-11-03

安倍9条改憲の危険な本質(山内敏弘 一橋大学名誉教授)

*以下は、「憲法9条京都の会/安倍9条改憲NO!全国市民アクション・京都」主催の「11・3憲法集会 in 京都」において、山内敏弘一橋大学名誉教授が行った講演の原稿です。憲法9条京都の会の事務局長・奥野恒久龍谷大学教授の許可をいただき、「憲法ネット103」に転載させていただくことが可能になりました。安倍9条改憲の危険な本質について、明快に論じています。​ぜひお読みください。

 


 

安倍改憲No!11.3京都集会

                                                                                                                                                            2017年11月3日

山内 敏弘(一橋大学名誉教授)

一  はじめに

(1) 10月22日の衆議院選挙とその結果について

   今日は、日本国憲法が、1946年11月3日に公布されてから、71年になります。 この間、平和憲法が一度も改悪されてこなかったことを、まずは、皆さんとともに喜びたいと思います。それと同時に、現在、私たちは、平和憲法がいまだかってない存亡の危機に立ち至っていることをも認識せざるを得ない状況にあります。

   それはいうまでもなく、さる10月22日に行われた衆議院選挙の結果、自民・公明の与党が憲法改正に必要な3分の2の議席を獲得しただけでなく、希望の党や日本維新の会といった改憲勢力を含めると衆議院で8割という圧倒的多数が改憲勢力によって占められ るようになったからであります。 そもそも、今回の衆議院解散は、二重の意味で違憲のものでありました。第一に野党が憲法53条に基づいて臨時国会の開催を要求していたにもかかわらす、それを無視して冒頭解散をしたという点で、それは憲法53条違反でした。また、解散権を行使する正当事由がなんらなかったという意味では憲法7条や69条にも違反する解散でした。安倍首相 は、「国難突破解散」と呼びましたが、実体は、まさに加計・森友問題隠しのための解散でした。あるいは、北朝鮮の脅威をことさらにあおる、ためにする解散でした。麻生氏が、 自民党の勝利は、「北朝鮮のおかげだ」といったのは、安倍首相の本心をも言い当てたもののように思われます。 今回の衆議院選挙によって、改憲勢力が衆議院で圧倒的多数を占めることになりましたが、しかし、同時に確認しておくべきは、衆議院の議席数と有権者国民の意思との間には大きな乖離が今回も見られたということです。例えば、自民党は、全国289の小選挙区で、75%の議席数を得ましたが、得票数で見れば、過半数にみたない48%でした。また、比例区で得た自民党の得票数はわずか33%でした。全有権者に占める自民党の絶対得票率は、小選挙区では25%であり、比例区では、わずか17%でした。このようにわずかの得票率であるにもかかわらず、衆議院での議席数では、単独過半数(233)を優に超える284議席を獲得したのは、ひとえに小選挙区制というまちがった選挙制度に起因しています。またそれを踏まえた野党間の選挙協力を行うことを拒否し排除の論理を貫いた希望の党の小池氏とそれに同調して民進党を解体させた前原氏のまちがった対応に起因しています。 このように、現在の選挙制度は、主権者国民の意思を正確に反映したものではないことからすれば、このような選挙制度は、かつての中選挙区制あるいは比例代表制一本に変更することが必要ですし、また、衆議院の解散権の行使についても法律で制限をかけることが必要(但し、そのための改憲は不要)だと思います。

(2)  国会の改憲発議を阻止するのは世論の力

   今回の衆議院の解散とその結果については、このような問題があることはきちんと押さえておかなければならないと思いますが、ただ、にもかかわらず、安倍内閣は、今回の選挙を踏まえてあらたに構成された国会で、念願の9条改憲に取り組んでいくことは間違いないと思われます。政権与党の公明党は9条改憲についてはいまのところ慎重な姿勢を崩していませんが、しかし、希望の党や維新の会が9条改憲に乗り気になった場合には、公明党の姿勢もどう変わるかは予測することはできないと思います。安倍首相は、来年の通常国会には国会での改憲発議を行うことを目指してこれらの政党への説得工作を行うことになると思われます。 いま、私達はそのような危機的な状況にあるわけですが、しかし、私達は必ずしも絶望する必要はないと思います。憲法改正を最終的に決めるのは、いうまでもなく、国民投票でありますので、国民投票で安倍改憲にNOということは出来るわけですし、また国民投票でNoと言うぞという意思表示を予め示しておいて、改憲の発議を阻止することもできるからです。かりに国会で強引に9条改憲の発議が決められたとしても、国民投票で否決された場合には、9条の改憲は今後かなり長期にわたって不可能になると思われます。そのことを踏まえれば、安倍首相にとっても、9条改憲の発議に踏み切るかどうかは、国会の議席数だけで決めることはできず、どうしても世論の動向を見極めることが必要になっ てきます。

   そして、その点で、私達にとってうれしいデータは、今回の衆議院選挙の後に朝日新聞が行った世論調査で、安倍内閣の下での9条改憲に賛成が36%で、反対が45%になっ たということです(10月25日)。また、今朝の京都新聞によれば、共同通信が今月の1日と2日に行った調査でも、9条改憲反対が52.6%で、賛成が38.8%になって います。このような世論動向が続く限りは、いかに安倍首相といえども、簡単には、改憲の発議の暴挙に打って出ることはできないと思います。 そうであるとすれば、私達は、このように9条改憲には反対であるという意思表示を今後とも示していくことが必要だし、さらに多くの人達を9条改憲反対の陣営に加わってもらうべく運動を進めることが重要になってくると思います。 そのためには、もちろん、9条改憲の危険性と9条を守ることの意義をわかりやすく説いていくことが必要だと思います。 そこで、以下には、私なりに9条改憲の危険性と9条を守ることの意義について簡単に お話することにしたいと思います。

二  9条2項を空文化する3項加憲論

   まず、安倍首相は、9条3項の加憲論について、3項に自衛隊が明記されても、「自衛隊はいままで受けている憲法上の制約は受ける」と述べ、保岡・自民党憲法改正推進本部長は、「9条の政府解釈を一ミリも動かさないで自衛隊を位置づける」と述べていますが、これらの言葉をそのまま受け止めことはできません。3項加憲によって、9条2項は実質的には死文化し、あるいはその解釈は根本的に変更されることになると思われます。

(1)自衛力論から「自衛戦力」論への転換、無制約な軍事力の保持へ

   第 1 に、従来政府は、自衛隊は9条2項が禁止する「戦力」には当たらず、必要最小限度の実力(自衛力)であるとしてきました。このような「自衛力」論は、自衛隊の違憲論を回避するために考え出された議論ですが、自衛隊の存在を3項に書き加えれば、このような「自衛力」論を採り続ける意味はなくなります。2項との矛盾を解消するためには、いずれは、2項では自衛のための戦力の保持は認められるというように「自衛戦力」合憲論へ解釈を変更することになると思われます。

   その結果、2項の戦力不保持規定は実質的に空文化し、従来自衛隊に付されていたもろもろの制約は取り払われることになります。従来は保持を禁止されていた「他国に対して侵略的脅威を与えるような兵器」、例えば、長距離爆撃機や攻撃型空母もその保持が可能となり、核兵器も自衛戦力の一環として無制限な保有が可能となります。

(2)安保法制(戦争法制)の合憲化のみならず、フルスペックの集団的自衛権肯認へ

   第2に、3項加憲によって集団的自衛権の行使が全面的に容認されることなると思われます。3項の文言がどのようなものになるかは、まだ分かりませんが、かりに「前項の規定は、わが国を防衛するための必要最小限度の実力組織としての自衛隊を設けることを妨げるものではない」といった規定になったとしても、ここで容認されている「自衛権の行使」の中には個別的自衛権のみならず、集団的自衛権の行使も含まれるであろうことは、 ほぼ確かだと思われます。従来の自民党の自衛権理解によれば、自衛権の中には本来個別的自衛権も集団的自衛権も含まれるとしてきたからです。これによって、安保法制(戦争法制)が認めた限定的な集団的自衛権だけではなく、フルスペックの集団的自衛権の行使が認められることになります。専守防衛や海外派兵禁止の憲法原則はこうして放棄され、日本は海外に出て行って戦争を行うことが憲法上可能となります。3項加憲がまさに「海外での戦争への道」を意味する所以です。

(3)交戦権否認規定の空文化

   第3に、このこととも関連して、3項加憲によって、9条2項の「交戦権」否認規定も、同様に空文化することになります。従来政府は、交戦権の意味について、「交戦国が国際法上有する種々の権利の総称であって、相手国兵力の殺傷及び破壊、相手国の領土の占領、そこにおける占領地行政、中立国船舶の臨検、敵性船舶の拿捕等を含む」と説明してきました。そして、「わが国を防衛するための必要最小限度の実力行使」は「交戦権の行使とは別のもの}として、合憲としてきました。つまり、個別的自衛権の行使は、交戦権否認規定には抵触しないとしてきたのです。しかし、3項加憲で自衛隊の存在が明記され、上述したように、集団的自衛権の行使も容認された場合には、個別的自衛権の行使のみなら ず、集団的自衛権の行使も、交戦権否認規定には抵触しないという解釈になると思われます。こうして、交戦権否認規定も実質的には空文化することになると思われます。

三 国民の人権・生活に重大な影響をもたらす「3項加憲」

   3項加憲は、国民の生活や人権にも重大な影響をもたらすであろうことは必至だと思います。3項加憲によって日本の社会全体で「軍事優先の論理」が大手を振ってまかり通ることになると思われます。この点は、必ずしも十分には周知されていないようですので、 ここでは、特に強調しておきたいと思います。

① 徴兵制・軍事的徴用制の導入

 第 1 に、3 項加憲によって、徴兵制や軍事的徴用が合憲とされると思います。これまでは、徴兵制は「公共の福祉」には合致しないとして違憲とされてきました。政府の解釈によれば、「徴兵制は、公共の福祉に照らして当然に負担すべきものとして社会的に認められるものではないのに、兵役といわれる役務の提供を義務として科されるという点にその本質があり、平時であると有事であるとを問わず、憲法13条、18条などの規定の趣旨からみて許容されるものではない」としてきました。しかし、3項加憲によって自衛隊は、いわば憲法上の公共性を付与されることになります。そうとすれば、自衛隊のための役務の提供は、公共性をもつことになり、合憲となると思われます。徴兵制もその他の軍事的徴用も合憲となります。そのことを、私たちは、多くの国民、特に若者達に訴えていくことが必要だと思います。

② 自衛隊基地のための強制的な土地収用

 第2に、自衛隊のための強制的な土地収用も合憲となります。現在の土地収用法は、戦前の土地収用法とは異なり、強制収用が可能となる「公共の利益となる事業」の中には自衛隊の基地建設を含めておりません。しかし、3項加憲によって自衛隊が公共的存在となれば、自衛隊の基地建設のための強制的な土地収用は「公共性」をもつことになります。 日米安保の下で辺野古基地建設が強行されているのと同様のことが自衛隊の基地建設についても起きると思われます。

③ 自衛隊基地訴訟への悪影響

 第3に、これまでにも多数の自衛隊基地訴訟が提起されてきましたが、3項加憲によって自衛隊基地の違憲訴訟が提起できなくなることはもちろんのこと、自衛隊機の運行差し止め請求も基本的に認められなくなるでしょうし、さらには、損害賠償訴訟でも住民の受忍義務が強く出てくると思われます。

④ 軍事機密の横行

 第4に、3項加憲によって、軍事機密の存在が憲法上認知されることになります。すでに特定秘密保護法では「防衛に関する事項」が広範囲に秘密とされていますが、しかし、現在の憲法の下ではその違憲性を争うことができます。それが、3項加憲がなされた場合には、違憲論は封じられることになります。また、先頃の国会ではPKOの「日報」について限定的であれ、情報公開がなされて大問題となりましたが、3項加憲で、これらの情報公開は全面的に認められないことになります。自衛隊の活動はほぼ完全にブラックホックスの中に入れられることになり、国民の知る権利は封じられることになると思います。戦前の大本営発表のような事態の到来を私達は覚悟しなければなりません。

⑤ 軍事費の増大と社会保障費の削減

 第5に、3項加憲が財政面に及ぼす影響も大きいと思われます。すでに安倍政権の下で、防衛費は5兆1千億を超えていますが、自衛隊が憲法的公共性をもてば、アメリカからの要請をも受けて、軍事費はうなぎ登りに上昇することになると思います。そして、それに反比例して社会保障費は削減されることになります。まさに「バターから大砲へ」の大転換がなされると思います。

⑥ 軍産学複合体の形成、「死の商人」の登場

 第6に、3項加憲によって日本でも本格的な軍産学の複合体が形成されるであろうということです。かつての武器輸出三原則は安倍政権の下で、防衛装備移転三原則へと変更されましたが、3項加憲によって、日本の産業界は政府の支援の下で軍需産業の強化と武器輸出に大手を振って乗り出すことになると思われます。軍需産業は、戦争が起きれば起きるほど武器が売れて儲かるわけですから、本質的に戦争を好む産業です。いわば「死の商人」です。そのような軍需産業の強化によって、日本社会全体が、アメリカなどのように 戦争に親和的な社会へと変質していくであろうことが危惧されます。

⑦ 自衛官に対する軍事規律の強化

 第7に、3項加憲によって、自衛官に対する軍事規律が強化されることも無視できません。自衛隊法(122条)は、防衛出動命令を受けた隊員が正当な理由なく職務離脱を行った場合や上官の命令に反抗し又はこれに服従しない場合には、7年以下の懲役又は禁固に処すると規定しています。敵前逃亡や抗命罪は死刑というのが、諸外国の軍隊の論理ですが、自衛隊は軍隊ではないということで、死刑はこれまでありませんでした。しかし、自衛隊が3項加憲で憲法的認知を受けた場合には、自衛隊は軍隊として軍事規律も強化されて、敵前逃亡や抗命は死刑となる可能性が高いと思われます。 安倍首相は、「自衛隊は違憲かもしれないが命を張れというは無責任」と言って3項加憲を主張していますが、しかし、3項加憲によって、自衛官は海外に出動して命を落とす危険性がはるかに増大することになります。のみならず、軍事規律の強化によって死刑を科される危険性も生まれてきます。逆説的な言い方をすれば、憲法9条こそが、自衛官の命を守ってきたことを、自衛官やその家族の人達に訴えていきたいものです。

四 9条全面改憲のための「第一段階」としての3項加憲論

(1)2項全面削除(9条の「武力によらない平和」主義の全面廃棄)への布石

 3項加憲は、このように9条2項を空文化し、日本を海外でも戦争をする国にすると共に、国民の生活や人権にも甚大な悪影響を及ぼすことは必至ですが、それでも9条2項は形の上では残りますので、3項との矛盾も解消されないまま残ることになります。その矛盾を完全に解消するためには、2項、とりわけ交戦権否認規定の削除が必要になってきます。現に、3項加憲論を昨年提唱した日本会議の伊藤哲夫氏は、3項加憲を2項削除のた めの「第一段階」と位置づけています。安倍首相も、その著書『新しい国へ』(2013 年)で、「わが国の安全保障と憲法(=交戦権否認規定)との乖離を解釈でしのぐのはもはや限界である」と述べて、つとに2項の改憲の必要性を説いています。自民党の佐藤正久氏は、党の改憲推進本部の会合で、3項加憲論を支持して、「ホップ・ステップ・ジャ ンプで考えると、まず第一歩が大事。自衛隊の明記を最優先すべきだ」と述べています。3項加憲は、三段跳びの改憲の第一歩と位置づけられているのです。

(2)緊急事態条項、軍法会議の設置のための改憲への布石

 そして、それは、2項削除のみならず、軍法会議の設置や緊急事態条項の導入へと至るものと思われます。緊急事態条項の導入については,自民党は、今回の選挙公約にも掲げている通りです。結局は、2012年の自民党の「国防軍」の創設や緊急事態条項を定めた改憲草案へと近づくことになるのです。このようなねらいをもつ3項加憲を、私たちは決して認めてはならないと思います。

五 9条が果たしてきた積極的な役割

 以上のように、9条改憲がきわめて危険なものであることを明らかにするとともに、他方で、憲法9条が公布以来71年間きわめて重要な役割を果たしてきたことをも今一度確認することが必要だと思います。

① 戦後70年間の日本の平和の維持に貢献

 戦後70年間、日本がまがりなりにも戦争を行ってこなかったことは、日本の近現代史の中で稀有なことですが、それはひとえに9条があったからです。自民党などは、日米安保と自衛隊があったからだと主張していますが、しかし、9条がなかったならば、日米安保の下で自衛隊は、ベトナム、イラク、アフガニスタンなど海外に出兵し、多数の戦死者を出していたであろうことはほぼ確実です。そのことは、お隣の韓国をみても、明らかで す。そのような事態をさけることができたのは、ひとえに9条があったからです。そのことを、私たちは、今改めて強調したいと思います。

② アジアなど諸外国に対する「不戦の誓い」

 また、9条は,アジアを初めとする国際社会に対する不戦の誓いとしての意味を持ってきました。そのような誓いをもつことで、日本は戦後の国際社会の中でそれなりに積極的な評価を受けてきました。「9条ブランド」が、少なくともこれまではテロの標的になることを阻止する役割も果たしてきました。

③ 「自由の下支え」としての役割

 国内的にみれば、9条は、戦後日本社会で「自由の下支え」としての役割を果たしてきました。「軍事の論理」がまかり通るところでは、市民的自由が大幅に制限され、抑圧されることは戦前の日本が示しているとおりです。近年、安保法制の制定と相前後して、特定秘密保護法や共謀罪法が制定されたのも、戦争体制の構築が市民的自由の制限と結びついていることを示しています。9条が果たしてきたこのような役割を私たちは改めて確認し、今後とも維持することが必要だと思います。

④ 「大砲よりもバター」の選択

 古来、「大砲かバターか」という言い方がなされてきたのは、軍事優先の財政施策と国民生活の発展とは相矛盾することが経験的にも証明されてきたからです。戦後日本の経済発展は、「大砲」のための防衛費を相対的に低く抑えてきたことに大きく起因しています。その意味で、9条が戦後の経済発展や福祉国家の進展に少なからざる役割を果たしてきたことも改めて留意されるべきだと思います。

⑤ 平和的生存権の基盤としての9条

 日本国憲法がその前文と9条で示している平和的生存権の思想は、日本国憲法が世界の人権思想の発展に大きく貢献することができるものです。国際連合は、昨年12月に「平和への権利宣言」を採択しましたが、これは、平和を享受することをそれ自体基本的人権ととらえる画期的な国際文書です。この条約の1条では、「すべての人は、すべての人権が促進・保護され、かつ発展が十分に実現されるような平和を享受する権利を有する」とうたわれています。このような国際的な潮流の最先端を切り拓いたのが,日本国憲法の平和的生存権ですが、それは、まさに9条があったからこそ,構築できたことが再確認されるべきだと思います。

六  北朝鮮問題への対応と国際社会の動向

 たしかに、現在、北朝鮮が核開発や弾道ミサイル開発を加速させ、日本の上空をミサイルが飛ぶような事態は、多くの国民に不安を与えています。安倍首相は、このような状況の下で断固たる「圧力」を北朝鮮にかけ続けるために、自分に強力な権限を与えて欲しいと言って選挙に打って出ました。

① 安倍首相の「対話なき圧力」の果てにいかなる和平の展望があるのか(?)

 安倍首相は、国連総会の演説でも、「必要なのは、対話ではなく、圧力だ」と述べました。そして、トランプ大統領が、「軍事力行使を含むすべての選択肢がテーブルの上にある」と述べていることを全面的に支持しています。しかし、「対話」なしの「圧力」の先に果たしてどのような展望を描いているのでしょうか。その具体的な展望を安倍首相はなんら語っていません。というか、語ることはできないのです。今朝の読売新聞の調査でも、「対話重視」が48%で、「圧力重視」の41%を上回っています。もちろん、北朝鮮の核開発は断じて容認できません。そのために一定の経済的圧力は必要だと私も思います。しかし、「圧力」だけでは、和平の展望は開けません。北朝鮮との多国間の対話や交渉によってはじめて和平への糸口が開けてくるものと思われます。現にアメリカや韓国などは水面下で北朝鮮との交渉を続けているといわれています。安倍首相の圧力一辺倒の政策では、逆に、「窮鼠猫をかむ」の譬(たと)えではありませんが、北朝鮮からの武力行使を誘発する危険性をも増大させると思われます。

② 「核抑止」論の破綻と核廃絶への平和的「対話」の必要性

 北朝鮮が核開発とミサイル実験を繰り返している背景には、十分な核兵器をもつことによってアメリカからの攻撃を阻止することができるという「核抑止論」があります。しかし、このような「核抑止論」は根本的に間違っています。その証拠に、一連の核開発によって北朝鮮の安全が強化されたかといえば、その逆で、アメリカとの軍事衝突の危険性がますます増加しているのです。「核抑止論」は北朝鮮をも危険に陥れているのです。

 しかも,北朝鮮の核開発は韓国の核武装論を誘発しており、さらには、日本でも核武装論や非核三原則見直し論の兆しが見え隠れしています。北朝鮮と韓国、そして日本までも核武装をするような事態になったならば、東北アジアの平和はまさに危機的状態に陥ります。

 そのような事態に陥らないようにするためには、朝鮮半島のみならず、日本を含めて東北アジア地域を非核地帯にすることが必要です。そのことをいまこそ日本の側から提案することが必要だし、また有益だと思われます。日本や韓国がアメリカの「核の傘」の下にありながら、北朝鮮の非核化だけを要求しても、北朝鮮に受け入れられることはないと思 われます。六者協議を再開して、その場で、日本の側から積極的に「東北アジア非核地帯条約」の提案をするのです。憲法9条をもち、初の被爆国である日本がいまできることは、そういうことだと思います。

③ 「核兵器禁止条約」(122カ国賛成)への参加

 おりしも今年の7月7日に国連会議で、核兵器禁止条約が122カ国の賛成で採択されました。非常に残念なことに、日本政府は、この条約の締結に反対して採決にも加わりませんでしたが、しかし、この条約によって、核兵器の開発、実験、生産、貯蔵、移転などが禁止されるとともに、核兵器の「使用の威嚇」も禁止されることになりました。この条約の基礎にあるのは、核兵器が「非人道」的な兵器であること、そして、「核抑止」論が決して妥当性をもつものではないことについての共通認識です。

 そして、大変喜ばしいことに、この核兵器禁止条約の採択に尽力したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)が、今年のノーベル平和賞を受賞しました。

 ところが、日本政府は、こうした国際社会の動きに背を向けています。さる10月27 日、日本政府は、従来から提案していた核兵器廃絶決議案を国連の軍縮安全保障委員会に提案し、144カ国の賛成で採択しましたが、賛成国は昨年から23カ国少なくなりまし た。この決議案は、昨年よりも表現が大幅に後退しただけでなく、核兵器禁止条約にはなんらの言及もしないものであったからです。ICANの国際運営委員をしている川崎哲氏は、これでは、「核兵器国と非核兵器国との橋渡しをするよりはむしろ分断を拡大させ、 核兵器廃絶の流れに水をさすものだ」と述べているが、その通りだと思います。日本政府が、核兵器廃絶にそのような消極的な対応をとっている限りは、北朝鮮の核開発の阻止の主張も、十分な説得力を持ち得ないと思われます。 しかし、私たちは、国際世論がむしろ核兵器禁止条約に示された方向に着実に進んでおり、それが、憲法9条が指し示す方向であることを確認して、その流れを強化促進するように努力することこそが、私たちの課題であると思われます。

七  結びに代えて

 いずれにしても、9条が重大な危機を迎えて今こそ、全国の9条の会や「全国市民アクション」などを中心として、9条改憲阻止の運動を全国各地で展開することが必要になってきています。

 冒頭に申しあげましたように、国会での9条改憲の発議を阻止できるかどうかは、ひとえに9条改憲反対の国民世論の盛り上がり如何にかかっています。本日のこの集会が、そのような世論形成のための新たな出発の会となることを心より期待しております。

 私の話は、以上です。どうもご静聴ありがとうございました。

                                                  (以上)

 

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