高市首相の衆議院解散と憲法~「解散は首相の専権事項」は憲法的に適切か~ 飯島 滋明(名古屋学院大学)
【1】解散は首相の専権事項?
2026年1月23日、高市早苗首相は衆議院を解散しました。政治家たちは「解散は首相の専権事項」と発言してきました。「解散は首相の専権事項」という発言は憲法的に適切でしょうか? さらに今回の高市首相の衆議院解散は適切でしょうか? 本格的に憲法学説を展開することは想定していませんが、「衆議院解散」をめぐる憲法議論を踏まえて検討します。
【2】衆議院の解散の意義と機能
衆議院の解散とは、任期満了前にすべての衆議院議員の身分を失わせる行為です。
かつて君主制のもとでは、国王が意に反する議会を罷免し、自己の意思を貫徹するために使われました。たとえば1628 年に議会が「権利の請願」を可決すると、翌 29年にチャールズ1世は議会を解散しました。その後11年間、議会を開きませんでした。
一方、現代では重要な国政問題に関して主権者の意思を問う役割が期待されています。
【3】解散権の主体
1940年後半から50年代にかけ、だれが解散権を行使するのか、どのような場合に解散権を行使できるのか等について「解散権論争」が活発に行われました。
まず、だれが解散権を行使できるのか。憲法69条の場合(=内閣不信任案が可決された場合)以外には、実質的な解散権は衆議院にあるとする「自律解散説」もあります。ただ、議会の多数派が少数派の地位を剥奪することになるのは問題とされて少数説に留まります。そして「内閣に帰属する(内閣総理大臣ではない)という点では、学説はほぼ一致している」※1 という状況です。たとえば解散に関する憲法の規定である7条3号では、「内閣の助言と承認」に基づき「解散」されるとされ、「内閣総理大臣の助言と承認」となっていません。69条も「内閣」となっています。そこで内閣総理大臣だけでなく、合議体である「内閣」が解散権の主体と考えられます。「解散は首相の専権事項」という発言は憲法的には適切ではありません。小泉防衛大臣も「解散は首相の専権事項」と発言していますが、「内閣」の一員として解散について判断する立場にあることを理解していません。
【4】どのような場合に解散できるか
解散権の行使は69条の場合、つまり内閣不信任案が可決された場合に限定されるという「69条限定説」もあります。ただ、解散権は69条の場合に限定されないという「69条非限定説」が憲法学界の通説です。69条以外にも解散を認める際の憲法上の根拠として「7条3号説」(憲法学界の通説、実際の実務)、「65条説」、「制度説」と学説は分かれますが、重要な国政問題について主権者の意思を問うことが「衆議院の解散」に求められる役割であれば、「解散」の必要性は69条の場合に限定されないためです。
【5】解散権に限界はあるか
「69条非限定説」にたつと、憲法的には内閣は自由に解散権を行使できるとされます。
ただ、内閣が好き勝手に解散権を行使して良いとも考えられていません。たとえば同じ内閣が同じ理由で連続で解散することは認められないと考えられています。会期外の衆議院解散、衆参同日選挙を目的とした衆議院解散、衆議院の定数不均衡を合理的期間内に是正しない状態での衆議院解散が許されるかどうかも議論されてきました。
1952年6月17日、両院法規委員会で「衆議院の解散制度に関する勧告案」が可決されました。一部、抜粋します。
「衆議院の解散については、その決定権の所在及び事由の範囲に関し、種々の論議が行われているが、憲法の解釈としては同法第六十九条の場合以外にも、民主政治の選営上、あらたに国民の総意を問う必要ありと客観的に判断され得る充分な理由がある場合には、解散が行われ得るものと解することが妥当である。しかし、解散は、いやしくも、内閣の専恣的判断によつてなされることのないようにせねばならない」。
芦部信喜著/高橋和之補訂『憲法 第8版』(岩波書店、2023年)は、「解散は国民に対して内閣が信を問う制度であるから、それにふさわしい理由が存在しなければならない」のであり(359頁)、「内閣の一方的な都合や党利党略で行われる解散は、不当である」と指摘します(360頁)。
【6】高市首相の衆議院解散に「ふさわしい理由」はあるか
憲法的に考察すれば、「解散は首相の専権事項」でなく、たとえば「党利党略」「私利私欲」「国会での追求逃れ」のための解散は「不当」とされます。高市首相の今回の衆議院解散に「あらたに国民の総意を問う必要ありと客観的に判断され得る充分な理由」、「ふさわしい理由」があるのでしょうか? 2005年の衆議院解散で自民党が大勝したのち、小泉純一郎首相〔当時〕の政治的影響力が増したように、今回の衆議院選挙で自民党が勝てば、高市首相の政治的影響力が増し、高市首相が目指す政治を強力に推進することが可能になります。高市首相の支持率が高いうちに解散して自民党の議席を増やそうというのであれば、「党利党略解散」です。重要な国政問題について主権者の意思を問うことが「解散権」に求められる役割ですが、実際には内閣が選挙で勝てそうな時期を見計らっての「党利党略解散」が行われてきました。
そしてSNSでは、高市首相の解散は「統一協会」問題の追求を逃れるためとの批判にあふれています。統一協会との関係や「裏金」問題の追及を避けるための衆議院解散になれば、「私利私欲」「党利党略」解散です。今回の衆議院選挙、高市自民党は「裏金議員のみそぎは済んだ」として、自民党派閥裏金事件で政治資金収支報告書に不記載のあった「裏金関係候補」を公認しました。前回認めなかった比例との重複立候補を高市自民党は原則として認めました。その結果、小選挙区で落選しても復活当選が可能人になります。こうして「裏金議員」が復活する可能性が高くなり、「クリーンな政治の実現」は遠のきます。それで良いのでしょうか?
主権者として選挙で意思を示すことが大切です。
※1 岡田信弘 日本国憲法における衆議院の解散の「生理」と「病理」 生活経済政策
2020.5 NO.280
【主要参考文献】
「衆憲資第104号「衆議院の解散」に関する資料」(2025年5月8日付衆議院法制局作成)
樋口陽一『現代法律学全集2 憲法Ⅰ』(青林書院、1998年)
佐藤幸治『日本国憲法論 法学草書7』(成文堂、2011年)
栗城壽夫・戸波江二編『憲法〔補訂版〕』(青林書院、2002年)
植野妙実子『基本に学ぶ憲法』(日本評論社、2019年)
長谷部恭男『憲法』(新世社、2018年)






