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2026-05-02

憲法政治の「現実」を考える 植野妙実子(中央大学名誉教授)

はじめに
高市政権の発足後、異例ずくめの「スピード感」重視、議論を深めることがない、という状況が生まれている。しかもかなりの、違憲が疑われる政策が行われている。この足跡を辿り、立憲政治、法治国家のあり方を無視している危険性を確認していきたい。

1.高市政権の誕生

 10月4日、高市早苗氏が自民党総裁に選ばれた。立党以来70年で初の女性総裁の誕生である。しかし、そもそも麻生氏が地方議員の得票の多い者(党員算定票)を決選投票においては総裁に選ぶようにと指示したからである。自民党の地方議員は政治とカネの問題が表面化することを嫌っている。つまりこの時点で政治とカネの問題に触れない政治家が選ばれたということを意味する。
 しかし総裁になってからの道のりは単純ではなかった。自民党が過半数をとれていなかったからである。しかも公明党が連立離脱を通告する。26年間にわたる自民・公明の協力関係に幕が降りた。その時点で、高市氏は首相指名選挙で、野党統一候補が実現すれば、敗れかねない状況に直面した。そこに日本維新の会が連立相手として浮上。10月16日、維新が12分野の政策項目を示し、自民党との政策協議に入り、20日に高市・吉村両氏が連立政権樹立での合意を確認するに至って、合意文書に調印した。維新は閣内には入らず、閣外の協力に留めたものの、維新の協力なしには政権運営できない状況であり、ある意味、維新との合意文書に引き連られる政治が行われることになった 1

2.連立政権合意書の内容

 自由民主党・日本維新の会の「連立政権合意書」は、両党が「わが国が内外ともにかつてなく厳しい状況にある中、国家観を共有し、立場を乗り越えて安定した政権を作り上げ、国難を突破し、『日本再起』を図ることが何よりも重要であるという判断に立ち、『日本の底力』を信じ、全面的に協力し合うことを決断した」で始まっている。続いて「『自立する国家』としての歩みを進める内政及び外交政策を推進せねばならない」とし、「日米同盟を基軸に、極東の戦略的安定を支え、世界の安全保障に貢献する」ことを明らかにしている。また「リアリズムに基づく国際政治観及び安全保障観を共有する」としている。さらに経済成長には触れているものの、その認識は新自由主義そのものであり、「積み残してきた宿題を解決する」として、「憲法改正や安全保障改革、社会保障改革、統治機構改革を含む日本社会の中長期にわたる日本社会の発展の基盤となる構造改革の推進について、本合意に至った」としている。そして「本合意書の内容を精緻化するため、両党による実務者協議体を設置し、確実な履行を図る」としている 2
 この連立政権合意書の中で、次の12の政策に関してさらに細かな提言が書かれている。経済財政関連施策、社会保障政策、皇室・憲法改正・家族制度等、外交安全保障、インテリジェンス政策、エネルギー政策、食料安全保障・国土政策、経済安全保障政策、人口政策及び外国人政策、教育政策、統治機構改革、政治改革である。多くの提言には成立時期も示されている。この提言に基づき、早速検討が始まったもの(自衛隊の階級)や提案されたもの(憲法審査会における条文起草委員会)やとりかかることを明言したもの(戦略三文書前倒し改定)もある。

 新聞で合意書のポイントとしてあげられたのは次の点である。消費税に関しては、二年間に限り飲食料品を対象としないことも視野に、法制化を検討。皇室に関しては、来年の通常国会で養子縁組案を優先に皇室典範改正を目指す。憲法改正に関しては、9条の条文起草協議会を両党で設置。外交・安保に関しては、安保三文書を前倒しで改定。インテリジェンスに関しては、国家情報局、対外情報庁を創設。外国人政策に関しては、担当相を設置、在留外国人の量的マネジメント実施。副首都構想に関しては、来年の通常国会で法案を成立させる(二度失敗しており、維新としては三度目のチャレンジ)。企業・団体献金に関しては、両党の協議隊を設置し、高市総裁の任期中に結論を得る。議員定数削減に関しては、一割を目標に衆議院議員定数を削減するため、臨時国会で法案成立を目指す。
 この合意書は、細かな政策から、政治信条に関わる大局的なものまで多岐にわたっている。これらの政策の多くが維新の独自の考えを含み、国民の間で、また国会で議論してきた納得のできるものとはいえず、唐突感が強い。皇室の問題、9条に関する憲法改正、安保三文書の改定、外国人政策など、憲法の根幹に関わる問題もあり、十分に議論した上で国民の理解を得る必要のあるものが並べられている。しかも議員定数の削減に至っては、民主主義の基本に関わる問題である。自民党の中でさえ、合意できるのか疑問に思えるものであろう。さらにそもそもの「政治とカネ」に関わる企業・団体献金の禁止については、維新は強く主張していたはずだが、自民は透明性と公開性を高めることが重要とし、合意書の中では「課題意識は共有しつつも最終結論に至っていない」とし、協議体を臨時国会中に設置するも自民の高市総裁の任期中(2027年9月)に結論を得るとして、腰砕けの状態である。ここは大きく自民に譲ったといえよう。
 いずれにしても、自民・維新連立合意により、野党共闘も実現しないまま、10月21日の臨時国会での首相指名選挙で第104代首相として高市早苗氏が選出された。

3.第一次高市内閣の特色

 結果的に高市内閣は保守色が強いものとなった。閣僚人事において、官房長官に木原稔氏、外相に茂木敏充氏、防衛相に小泉進次郎氏、総務相に林芳正氏を起用し、小泉、林、茂木各氏は10月4日に投開票された自民党総裁選を高市氏と争った間柄であり、重要閣僚として処遇することで、挙党体制の構築に取り組む姿勢を見せたと評価されている。他方で木原氏は高市氏と保守的な政治信条が近く、高市氏が党政調会長時代から支えてきた仲である。他にも保守的な言動で知られる小野田紀美氏を経済安全保障相に起用し、外国人政策担当を兼務させた。外国人労働者受け入れ制度を疑問視してきた議員である。小野田氏と共に総裁選で高市氏の推薦人を務めた片山さつき氏も財務相として起用。積極財政派
であり、財政規律がさらに緩む可能性がある。同じく推薦人であった黄川田仁志氏も少子化・地方創生相として起用した。こうした採用は、首相になることに対しての論功を評価したといえる。政治資金収支報告書に不記載のあった議員はここではとりあえず起用しなかった。
 他方で副大臣の顔ぶれを見ると、いずれも自民党所属議員であるが、26名中、麻生派所属議員6名、旧安倍派所属議員4名が選ばれており、それなりに恩を返した形になっている。ここにも論功とバランスがみえる。維新は閣外協力の形をとったが、首相補佐官には維新の遠藤敬氏が起用された。さらに安保局長に、安倍内閣のもとで「自由で開かれたインド太平洋」の構想作りを担ったとされる市川恵一・前官房副長官補をあて、災害対応や国民保護を担当する内閣危機管理監には、98年に内閣危機管理監が設置されて以来、初の、防衛次官を務めていた増田和夫氏をあてた。これまでは警察出身者が就いていたポストである。この点ではこだわりと独自性がうかがえるが、第二次安倍政権のあり方を模しているともいえる。
 このように保守、論功、初の試みなどが兼ね合わさって、均衡を図る組閣、人事、となっている。官邸人事も刷新することで一体感を図った。高市氏に期待されていた女性大臣の大幅起用は実現していない。そもそもそうした期待自体が間違っていたといえるであろう。彼女が目指しているのは「安倍政権」をよりあからさまに保守化することであって、目指すところはフェミニズムの確立などにはない。その意味では組閣において彼女らしさは出たが、政策はあくまでも維新に引き連られる形となった。

4.突如の解散

 11月28日の時点で衆議院において自民・維新の連立に会派「改革の会」の3名が加わり、これで衆議院では過半数233議席を獲得することが可能となった。他方で参議院においては119議席で過半数までに6議席足りていない。当初の予想では衆議院解散は予算成立後にするだろうとの考えが有力であった。
 ちなみに憲法には「衆議院の優越」が定められており、権限事項としては予算先議権、内閣不信任決議権、議決の効力面においては、法律案の議決について、衆議院で可決し、参議院でこれと異なった議決をした法律案が、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再議決した時には法律となるものとされていること、予算の議決、条約の承認、内閣総理大臣の指名についても衆議院と参議院とが異なる議決をし、両院協議会を開いても意見が一致しないとき、または衆議院の議決から一定期間内に参議院が議決しないときは、衆議院の議決が国会の議決になるとされている。さらに法律レベルにおいても、両議院一致の議決または両議院の同意によることを原則としながら、意思が一致しないときは衆議院の意思が優越すると定められている場合もある。衆議院の優越が認められている理由は、衆議院議員の任期が参議院に比べて短く、衆議院の解散制度もあるので、より国民の意思に密着しているから、と説明されている。
 このような優越を有する衆議院の体制を盤石にしたい、そのような気持ちで高市首相は予算審議前の解散に踏み切った(すでに通常国会は2026年1月23日からと決まっていた)。予算は国民生活に直結する。これを無視して電撃解散に踏み切ることは首相のあり方としてはあるまじきことである。しかし首相は衆議院情勢調査を踏まえて、「早苗人気」のある中での解散が有利と見て(首相の決断は1月9日、2026年2月8日投開票)解散に踏み切った。
 結果は「2026年は日本の政治史の分岐点」といわれるほどの、自民党の戦後最多の議席を獲得する歴史的大勝となり(定数465議席中316議席獲得)、政局の主導権を回復した。高市首相は自らの政策実現に向けた基盤を固めることに成功した。衆議院選挙直前に結党した中道改革連合は惨敗した。SNSでも首相の人気は突出しており、キャッチコピーは「日本列島を、強く豊かに」である。
 自民党と維新の会の「連立政権」は参議院では少数与党であるが、先述の衆議院の優越により法案の再可決が可能となる。また衆議院のこの状況は憲法改正が衆議院では発議できることにもなる。衆議院の全常任委員会で過半数を確保し、委員長も独占できる。安定的な国会運営が可能な261議席を十分に超え、首相は政策推進のための安定的政権基盤を手にした。首相は、選挙戦で国家情報局の創設や旧姓の通称使用の拡大などの保守的政策を訴えていたので、こうした政策を進めることに国民の信任を受けた形ともなった。しかし実際に、首相の政策に賛同して国民が投票したのかはわからない。
 他方で、選挙結果は「1強多弱」という現象も示した。1996年10月に現行の小選挙区比例代表並立制に移行したが、この制度が果たして民意を十分に反映するものであるのか、常に問われてきた。今回も289小選挙区のうち、自民党は249議席で勝利したが(31都県で議席を独占)、比例代表での自民党の得票率は36.7%にすぎなかった。
 1選挙区に1人しか当選しない小選挙区制は死票が多く、極端な圧勝、惨敗が起こりやすいことが指摘されていた。今回はそのことが現実のものとなった。また民意は多様化しており、それゆえ、多党化してもいる。与党以外(野党)がいかに連携するかが問われるとともに、現行の選挙制度で果たして良いのか、民意を適切に反映する選挙制度の必要性について議論を深めることも求められる。

5.解散権のあり方

 高市首相は「解散権は首相の専権事項」、「首相がお決めになること」という言葉によって、予算のために設定された会期である「通常国会」の冒頭で、解散権を実行した。本当に解散権は首相がいつでも行使できるものなのか。日本国憲法にはそのようなことは書かれていない。憲法における解散権についての規定を確認しておく。
 「解散」とは、衆議院議員の全部について任期満了前に議員としての身分を失わせる行為である。今日においては民主主義の進展にともなって、行政府と立法府が対立する場合や選挙の際に争点とならなかった重要な国政問題が生じた場合などに、主権者たる国民の審判を求める手段としての解散権の役割が求められている。日本国憲法は議院内閣制を採用し、内閣に衆議院の解散権を認めているが、その憲法上の根拠は憲法69条に定められている。すなわち、衆議院で不信任の決議案を可決しまたは信任の決議案を否決した場合である。しかし学説上、それではあまりにも限定的すぎるのではないか、との考えが広まり、天皇の行為を定めている7条3号の「衆議院を解散すること」に基づき、解散権の行使は69条の場合に限定されず、内閣が民意を問う必要があると判断する場合には解散できる、とする立場が多くなってきた。なお、天皇の行為は、内閣の助言と承認により、国事行為として行うものである。しかしこの立場においても、首相が自由に解散権を行使できるとするものではない。解散は国民に対して内閣が信を問う制度であるから、それにふさわしい理由が存在しなければならない。内閣の一方的な都合や
党利党略で行われる解散は不当と考えられている 3
 しかしながら、実際には「内閣の都合」による解散が慣行となっている 4 。衆議院議員は任期を全うすることは稀である。任期を全うし、しっかり政策に励むことはなく、いつ選挙となるか、選挙基盤をどう固めるかに躍起となっている。とりわけ、自由な解散権と小選挙区制度が組み合わさると、与党は勝てると見込んだときに解散権を行使する、勝ち続ける与党と負け続ける野党という構図が固定化してきて、民主主義の危機を招くことになる。今回の高市首相の解散権行使も、高市人気に当てこんだ不当な、違憲な解散権行使だったといわざるをえない。権力の座にある者が自らの地位を強化するために、解散権を行使したといえる。その結果、圧勝だったので、「やると言ったものを全部やる」という強
気の発言になっている 5

6.財政民主主義の軽視

 高市首相の衆議院解散で予算案の審議入りは1ヶ月ほど遅れたものの、異例の短さで成立した(2026年4月7日成立)。高市首相は、施政方針演説では「謙虚に」と語っていたが、予算成立においては強硬な姿勢をとった。憲法41条は「国会は、国権の最高機関」と定める。議会制民主主義における国会の中心的な立場を表したもので、国民の代表者が集まる場所で十分に議論し、国家の政策が国民にわかりやすく伝わるという意義ももつ。
 しかしながら予算案審議につき、通常は審議を積み重ねて与野党で採決に至るという慣例があったが、この慣例に反し、衆議院では予算委員長の職権により、過去10年で最短の審議時間で通過させた。参議院においても審議時間は過去10年と比べて8割程度で終わった。さらに首相は国会出席にも消極的であった。予算のために参議院で首相が出席した集中審議は3回で9時間42分にとどまった。24年の当時の岸田文雄首相が6回で29時間36分、25年の当時の石破茂首相が7回で39時間24分だったことと比べると、大幅に少ないことがわかる 6
 こうしたことは財政民主主義(財政立憲主義)の軽視といえる。財政民主主義とは、国(地方公共団体も含む)の歳入と歳出が、憲法に基づき、国民の意思と監視によって行われなければならないことを意味する。日本国憲法においては「第7章 財政」の冒頭の83条で「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない」と定めるが、財政民主主義は、税金を支払う国民がその使い道を知り、納得する、さらにはどのように使われたか検証する、という行為を意味している。じっくりと話し合うということなく単にスピード感だけで決める、ということは財政民主主義とはいえない。その結果、社会保障の増大は高齢社会を迎えている日本においては当然であるが、防衛費が
過去最大という予算が成立している。国債発行の依存度が高く、借金頼みの予算である。

7.違憲を疑われる諸々の問題

 高市首相は自民を歴史的圧勝に導いたことで、「高市1強」とも呼べる権力を得た。そのもとでまずは新年度当初予算の早期成立を図った。さらには首相が力を入れる保守的政策の成立も急いでいる。
それらは次のようなものである。夫婦同姓を前提に結婚後の旧姓使用を拡大する法案(旧姓使用に法的効力を与える制度の創設)。これは世論の反応とは異なる。選択的夫婦別姓に賛成は63%、反対29%である(朝日新聞2025年2月16日)。また、皇室典範の改正にも早期実現を目指している。内容は女性天皇の誕生ではなく養子縁組案である(皇統に属する男系の男子を皇族として養子に迎える案)。これも女性天皇賛成が69%となっていることとかけ離れている(読売新聞2025年12月14日)。政府のインテリジェンス(情報収集・分析)機能の司令塔となる国家情報局新設に必要な法律制定にも前向きである(インテリジェンスに関する国家機能の強化、インテリジェンス・スパイ防止関連法制の検討)。
いずれも与野党協議でまだ話し合われていない事柄である。これらは自由民主党・日本維新の会の連立政権合意書の中に明示されているものと一致する。また維新は衆議院の議員定数削減を提案し、高市首相も同意しているがとんでもないことである。衆議院は民意の反映をする場所である。定数削減は民主主義の基本に反する。
 4月10日、自民党大会が行われ、首相は党総裁としての挨拶の中で、安定的な皇位継承に向けた皇室典範の改正と党是である憲法改正に強い意欲を示した。また新ビジョン「立党70年 自民党の歩みと未来への使命」では改憲が「死活的に求められている」とされた。首相はまた、「国論を二分する政策」として責任ある積極財政、安保政策の抜本的強化、インテリジェンス(情報収集・分析)機能の強化をあげ、衆議院選挙で信任を得たと繰り返した。自民党の新ビジョンは自らを「国民政党」と位置付け、「丁寧な合意形成を通じて、権力を適切に行使していく」と誓うが、実際の進め方はどうか。強引な政権運営が進められているのではないか。
 高市政権下では、派閥の裏金問題も世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係も、終わったことのようで、関係議員の復権が進んでおり、また裏金問題を受けて解散したはずの旧派閥のメンバーらの再結集も見られる 7
 この党大会においては、陸上自衛隊の女性隊員が制服姿で国歌を歌うということもあって、不適切で、違法として批判をあびた。自衛隊の任務は「我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務」としており、隊員は61条において政治的行為を制限されている。自衛隊も公務員と同様に政治的中立性を保つべきである。小泉防衛大臣は自衛隊法61条に抵触しないとの見解を示したが、警察や自衛隊が一方の政治勢力に加担するようなことはあってはならない。大日本帝国憲法下での行為(政権と軍の一体化)の反省を思いおこすべきである。
 さらに問題なのは日本国憲法の基本原則の一つの平和主義を損なう動きである。平和主義は長い間に当初の大原則を外れ、自ら作った枠組みさえも外してきている。安保三文書の策定もその顕著たるものであったが、さらにそれを改定して、戦争加担への道を踏み出そうとしている。大きな問題なのは国の方針を決めるこれらが「閣議決定」でなされ、国会で具体的に議論されていないことである。
 トランプ大統領のホルムズ海峡の問題に対して貢献してほしいとの要請には「法の範囲内で」として答えなかったものの、国際法違反を繰り返すトランプ大統領に対し「世界に平和と繁栄もたらせるのはドナルドだけ」と持ち上げた。さらに武器輸出政策の大転換に踏み切っている。すなわち、高市政権は防衛装備移転三原則とその運用指針を改定し、輸出の対象を、殺傷を主な目的としない「救難・輸送・警戒・監視・掃海」に限った5類型を撤廃し、武器輸出を原則可能とした。また他国との共同開発をした武器の第三国移転も認めた。これまでも個別の判断として例外的に認めてきた場合はあるものの、今回の撤廃で、戦闘機、護衛艦、潜水艦など殺傷兵器の輸出が原則的に可能となる。戦闘中の国への輸出は認めないとしつつも、「特段の事情」があれば可能とした。国会へは「事後通知」となった 8 。平和国家の理念が疑われる行為である。しかも政府の裁量が大きい。
 日本は他国の紛争に加担しない、国際法や人権を無視する国に武器は渡さない。こうした厳しい自制を、憲法前文のとりわけ平和的生存権や、「第二章 戦争の放棄」の規定の下で続けてきたが、ここで破られた。戦争に加担する国に大きく傾いたといえる。
 また憲法改正にも前向きである 9 。自民党は改正4項目(自衛隊の明記と自衛の措置の言及、国会や内閣の緊急事態への対応の強化、参議院の合区解消、教育環境の充実)を示しているが、とりわけ、緊急事態条項と9条の改正に取り組もうとしている。後者に関しては9条2項を外すかどうかで、自民・維新に隔たりがあるが、緊急事態条項に関しては同調している 10
 緊急事態条項とは、大規模な災害などの緊急時に通常とは異なる権力行使を可能にすることである。主な論点は、適正な選挙ができない場合の国会議員の任期延長、そして国会が開けない場合に内閣が制定する緊急政令、である。しかし、現行憲法の中に参議院の緊急集会の規定があり、必要性がない。緊急政令は権力濫用につながり危険性の高いものである。こうしたことを一度認めると、終わりをどこに置くのかという問題が生じる。フランスの現行第五共和制憲法には、大統領の例外的措置権(16条)、大臣会議による戒厳令の布告(36条)も定められているが、前者にはその権力行使が適正かの検証機関があり、後者に関してはわずか12日間でその後の延長は国会で決めることになっている。前者は過去に一回のみ、後者の使用はない。フランスでも規定の危険性が認識されている。
 民主主義(デモクラシー)もいつポピュリズムそしてファシズムへと移る危険性のあることは過去の例(ナチズム)ばかりでなく、現にアメリカの例が示していよう。


まとめにかえて

 日本は地盤沈下が続いているといわれる 11 。総人口は2008年をピークに1億2400万人を割り込んだ。経済力も低下し、2010年にGDPは世界4位に転落、26年にはインドにも抜かれる見通しである。1人あたりの名目GDPは、24年にはOECD加盟38カ国中24位で先進7カ国(G7)の最下位である。しかし、この打開が武器輸出解禁であるわけはない。なぜ人口が減り続けるのか、根本的な原因追及が欠かせない。そこには男女不平等、地域間格差の拡大など、構造的な問題に行き当たるであろう。
 こうした問題があるにもかかわらず、憲法改正で平和国家の基本を崩すことがあってはならない。それは問題の解決どころか、戦争する国へと、国自体の破壊、自滅へと進む行為である。憲法の基本に立ち返り、平和であってこそ、自由や権利を保障でき、経済も発展できる、ということに目を向けるべきである。[第24回 カワセミ大学(2026年4月26日、於杉並区善福寺オクターブ)での発表レジュメ
を一部修正して掲載した。]


1 この経緯等については、次のもの参照。植野妙実子「高市政権の本質」法と民主主義2026年1月号(605号)8-13頁。
2 自民党・日本維新の会「連立政権合意書」2025年10月20日参照。
3 例えば次の説明参照。芦部信喜=高橋和之補訂『憲法[第8版]』岩波書店2023年359-360頁。
4 裁判所はこれに対し、解散につき、統治行為との主張は認めなかったものの「内閣の政治的裁量にゆだねている」(苫米地事件控訴審・東京高判昭29・9・22行裁例集5-9-2181)、「極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であるので、司法裁判所の権限の外にあるといわなければならない」(同事件上告審・最大判昭35・6・8民集14-7-1206)として、不当性や違憲性を判断していない。第1審は、結論は異なるものの7条による解散を否定していない(東京地判昭28・10・19行裁例集4-10-2540)。
5 「1強再来[中] やるといったもの全部やる」朝日新聞2026年2月11日朝刊。
6 「『謙虚』どこへ 与党も困惑」朝日新聞2026年4月8日朝刊。また衆議院での当初予算の審議時間も約1ヶ月間、計70~80時間が慣例だが、今回は2週間、計59時間にとどまった。「社説」読売新聞2026年3月15日朝刊。
7 「社説」朝日新聞2026年4月14日朝刊の指摘。
8 「社説」朝日新聞2026年4月22日朝刊。
9 植野妙実子「改憲論に対する憲法学的考察」憲法ネット103編『混迷する憲法政治を超えて』有信堂2025年91-103頁参照。
10 「緊急事態条項 集中議論を」読売新聞2026年4月17日朝刊。
11 「国力 日本の戦略[上]」読売新聞2026年4月22日朝刊。

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