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2017-12-13

◎市民と語ろう「どこでも憲法」第1回講座の根森健さんの報告「憲法改正のもつ意味」と関連資料を一挙掲載!憲法改正を論じるには未来への想像力が必要だ。

「憲法研究者と市民のネットワーク」(「憲法ネット103」)

市民と語る「どこでも憲法」①:2017. 11.27

憲法改正のもつ意味

根森 健(神奈川大学特任教授)

— 目次 —

Ⅰ.憲法改正と、憲法改正のもつ意味

 1.【憲法改正とは】

 2.【憲法改正のもつ意味:改正手続の硬軟から、改正禁止規定の有無から考える】

    3.【憲法改正に限界はあるのか:無限界説 vs. 限界説】

 4.【憲法改正の要件:必要性と整合性】

Ⅱ.目下の「改憲論」とその「憲法改正」に対してもつ意味

 1.【日本国憲法の改正手続】と現実としての「硬性憲法の有名無実化」

 2.目下の憲法改正対象事項と憲法改正に対してもつ意味

        Ⅲ.憲法改正と「未来への想像力」

Ⅰ.憲法改正と、憲法改正のもつ意味

1.【憲法改正とは】

 成文憲法〔ex. 日本国憲法のような憲法典〕の内容について、憲法所定の手続きに従って、意識的〔・形式的〕な変更を加えることをいう。

 既存の個別憲法条項の修正・削除、それへの追加のほか、新しい条項を加える増補が通常の形であるが、成文憲法全体にわたっての全面的な書き直しという形がとられることもある〔ex. 大日本帝国憲法の全面改正という形での日本国憲法の制定〕。

 憲法改正は、〔このように〕成文憲法を前提とし、その定める改正手続で行われる点で、もとの憲法を廃止して始源〔始原〕的に新しい憲法を作る憲法制定や、明文の〔憲法〕条項の形式的変更をしないままにその規範の意味に変更が生じることを意味する憲法の変遷とは、概念的に区別される。

(以上は、野中俊彦他・憲法Ⅱ[第5版]有斐閣、2012年、407頁。行替えと〔〕挿入は、根森)

2.【憲法改正のもつ意味】

(1)【憲法改正の手続から考えると–硬性憲法と軟性憲法】

 憲法改正の手続に関しては、改正が通常の立法手続でできる軟性憲法と、改正が通常の立法手続より厳格な硬性憲法があり、日本国憲法を含め、今日ほとんどの憲法が硬性憲法である。

                              ↓

【日本国憲法96条】 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

  ○2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。       ↑国民が主権者

 【比較せよ→通常の法律案の議決:法律の制定】

法律案は、両議院でそれぞれの院の総議員の1/3以上の出席のもとで、出席議員の過半数で可決(56条1・2項、59条1項)。

(2)【憲法改正に関連する条項から考えると–憲法改正禁止規定の存在】

1)憲法改正禁止事項(条項)を規定をもつ各国憲法の例

各国憲法の中には、自ら、特定事項を挙げて、改正手続によってもそれを変更することができないことを明文で定めているものもある。

  〔例〕■フランス第5共和国憲法(1958年)89条4項  (三省堂・新解説世界憲法集よ    り)

            共和政体は、これを改正の対象とすることができない。

      *同様の規定:イタリア共和国憲法(1948年)139条

     ■ドイツ連邦共和国基本法79条3項   (三省堂・新解説世界憲法集より)

この基本法の変更によって、連邦の諸ラントへの編成、立法に際しての諸ラントの原則的協力、または、第1条(人間の尊厳など)および第20条(民主的・社会的連邦国家、法治国家など)にうたわれている基本原則に触れることは、許されない。

 2)【日本国憲法ではどうか?】憲法改正禁止規定と理解しうるものがある!

【前文第1段とくに後段】 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

【第11条】国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

【第97条】 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

(3)憲法改正のもつ意味 →憲法としてのアイデンティティ(自同性・同一性):「わたし(=憲法)がわたし(=憲法)であること」は譲るな!

 硬性憲法であることや、憲法改正禁止規定を組み込んでいる憲法は、憲法改正という行為が、「憲法が憲法であること(憲法のアイデンティティ)」に関わる行為であり、憲法改正を行うに当たっては、「憲法の同一[自同]性」を損なうことがあってはならないし、損なうことの無いように慎重に行われなければならない!

→日本国憲法の憲法アイデンティティとは:参照<資料:芦部先生と日本国憲法①・②>

3.【憲法改正に限界はあるのか:無限界説 vs. 限界説】

(1)改正無限界説と改正限界説

 上述のような憲法改正禁止規定がある場合に、それが掲げる憲法事項が改正できない(=改正の限界)のは当然として、その他にも憲法所定の改正手続に基づいても憲法改正の許されない(=憲法改正の限界となる)憲法事項(憲法条文)があるのか否か:そのような憲法改正の限界を、法学上(法理論上、従って法解釈上)考えることができるのだろうか?

 学説上は、憲法所定の改正手続に基づけばどのような改正も可能であるとする「無限界説」と、所定の改正手続によっても、改正できない憲法事項(憲法条項)があるのだとする「限界説」とに見解が分かれる。限界説が支配的である。論拠は分かれるが、そうした1つの例として、「わたし(=憲法)がわたし=憲法)であることにかかわる大切なことは譲ることはありえない」というものを挙げておく。

 *【日本国憲法生誕に関わる「八月革命説」について】

  日本国憲法は大日本帝国憲法の改正として定められたが、主権の所在を天皇から国民へと変更しているなどの点から、新憲法の制定と一般に解されている。上記、限界説の立場から、この新憲法の制定は、法的には「革命」だとする、「8月革命説」が憲法学者の宮澤俊義によって唱えられ(政治学者の丸山真男の発案といわれる)通説化した。

(2)日本国憲法の改正限界事項(条項)とは:

   上述のように、①日本国憲法自身が改正禁止を「明記」している規定がある、そして、それに  加えて、理論上②憲法改正の限界をなすものがある、と考えると、

①憲法自身が「明記」する、憲法改正禁止事項(条項)

     ・憲法前文第1段後段=国民主権(民主制)

・憲法11条および97条=基本的人権の保障

②その他に改正の限界をなすと解される憲法事項(条項)

・日本国憲法の「この国の(基本的な)かたち」を構成する「三大基本主義」=①にも掲げた国民主権主義(憲法前文第1段・1条・96条2項)・基本的人権尊重主義(第3章・97条)に加えて、平和主義(憲法前文第3段=平和主義+平和的生存権・第2章[戦争の放棄]=9条)

* 基本的人権の保障、基本的人権尊重主義とは、第3章が規定する個々の基本的人権なのか、それとも、一定の「基本的な自由や権利」だけなのか?

*平和主義(戦争の放棄)とは、憲法前文第3段もなのか(平和的生存権もなのか)、9条のみか、9条1項のみ(:9条2項は含まない)なのか?

 ・憲法改正手続条項=96条(硬性憲法規定条項)

 ・国会を最高機関と位置づける権力分立制

 ・憲法の最高法規性(第10章=97条~99条:憲法尊重擁護義務)

4.【憲法改正の要件:必要性と整合性】:憲法改正を考え得る憲法事項(条項)と憲法改正

→ 植野報告参照

     → 改正の限界に触れないからといって、なんでも、思いつきでor, 党利党略で、「お試し受験」的に、拙速にやっていいのか? Ⅱで、少し考えてみたい。

Ⅱ.目下の憲法改正論議とその「憲法改正」のもつ意味

1.【日本国憲法の改正手続】と現実としての「硬性憲法の有名無実化」

(1)【日本国憲法の改正手続】

①衆参各院で、議員が、国民投票にかけるための日本国憲法の改正案(「憲法改正案」)の原案(「憲法改正原案」)及びその修正案を発議(=提案)するには、衆議院においては議員100以上、参議院においては議員50人以上の賛成を要する(国会法68条の2)。(※ちなみに、通常の法律案の発議=衆議院:議員20人以上、参議院:議員10人以上の賛成、予算を伴う法律案を発議=衆議院:議員50人以上、参議院:議員20人以上の賛成、を要する[同法56条1項]。)また、各院の憲法審査会も、憲法改正原案を提出することができる(同法102条の7)。

  ちなみに、この憲法改正原案の発議に当たつては、内容において関連する事項ごとに区分して行う(同法68条の3・102条の7第1項:区分発議ないし個別発議の原則)

②国民投票にかける「憲法改正案」については、上記改正原案等への、衆議院と参議院のそれぞれで総議員の 3分の2以上の賛成で国会が発議(=憲法改正案を議決)し、国民に提案してその承認を経なければならない(日本国憲法96条1項)。

③国民による承認には、特別の国民投票または国会の定める選挙の際に行なわれる投票において、その過半数の賛成を必要とする(同)。→満18歳以上の国民の投票による有効投票数〔【注記】正確には、可とした投票と否とした投票との総計〕の過半数(国民投票法126条)。

④国民による承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する(同条2項)。

(2)事実としての硬性憲法さの「有名無実化」

 1) 上記②との関連では

「 小選挙区比例代表並立制では衆議院で3分の2の多数をとることは難しくない。この選挙制度は.実際の得票率より議席数がはるかに多く配分される仕組みとなっているから、〔安倍首相が改正手続規定を改正してハードルを緩和化して、〕憲法改正発議の要件を2分の1にする必要はない。また,この選挙制度は,実際の国民の投票行動を反映しない。400/o台の得票率で3分の2の多数をとれるという制度であるならば,憲法改正の発議には高いハードルを課しておく必要があるともいえる。」(橋本基弘・日本国憲法を学ぶ[中央経済社・2015年]24頁。〔〕の挿入は根森)

2) 上記③現行憲法改正国民投票法との関連では、最低投票率が規定されていないのでは、硬性憲法としてハードルを高めたことの保証にはならないであろう。

 「 総務省は〔10月〕23日午前、第48回衆院選の投票率を発表した。小選挙区選は、戦後最低 だった前回2014年の52・66%をわずかに上回ったものの、53・68%〔投票者数:約5695万人〕で戦後2番目の低さだ  った。」(読売新聞on Line 2017年10月23日。〔〕の挿入は根森)

 →憲法改正国民投票も今回の衆院選挙並の投票率だとすると、

    → その有効投票〔:ここでは、すべての投票者が可か否に投票したとして〕の過半数だと、有権者全体(約1億609万人)のせいぜい27%でよい。

 → 日本人総人口の約23%の賛成で改正できることになる。

2.目下の憲法改正対象事項と憲法改正のもつ意味

(1)目下の憲法改正対象事項 — 自民:「自衛隊の明記」「教育の無償化」「緊急事態対応」「『議院の合区解消」など

●【NHK 解説委員室】2017年10月06日 (金)

 「衆院選と憲法改正の行方」(時論公論)  太田真嗣  解説委員

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  今月10日に公示される衆議院選挙は、きょう(6日)までに各党の政権公約がほぼ出揃い、ようやく全体像が見えてきました。長期政権を目指す安倍・自公政権に対し、新党を含めた野党勢力が政権交代に追い込めるかが最大の焦点です。しかし、この選挙の大きな論点のひとつとなる、憲法改正の問題に焦点をあてると、与野党対立の枠を越えた別の姿も見えてきます。今夜の時論公論は、3つ巴の争いとなる今回の選挙の構図と、憲法改正の問題について考えます。

… … …

  衆議院の過半数となる233議席を、与党が確保し、安倍政権を維持できるか。それとも、野党勢力が、『一強』と言われる、いまの政権を覆せるか。それが今回の選挙の最大の焦点です。

 その一方で、今回の選挙には、もうひとつ、注目されるラインがあります。それは、憲法改正案の発議に必要な衆議院の3分の2にあたる310議席を、どのような勢力が占めるかです。

  第2次安倍政権発足以降、国政選挙では、憲法改正に前向きな、いわゆる“改憲勢力”が、議会の3分の2を獲得するかどうかが注目されるようになり、実際、去年の参議院選挙を経て、改憲勢力は、衆参両院で3分の2を占めました。しかし、その後も、国会での議論は、必ずしも前進しませんでした。なぜ進まなかったのか。もちろん、時々の政治的駆け引きなども影響しましたが、その最も大きな要因となっていたのが、国会運営を握る与党の自民党と公明党、それに、野党第1党の民進党が抱える、『それぞれの事情』と、それが生み出す『微妙なバランス』でした。

  憲法改正を党是とする自民党は、安倍総裁のもと、改正実現を、より前面に打ち出すようになりましたが、民進党は、常に党内に『改憲派』と『護憲派』の対立を抱え、どちらにも舵を切れない状況でした。憲法改正自体ではなく、「安倍政権のもとでの改正は認められない」と突っぱねたのは、党内対立を避ける、いわば折衷案です。

  一方、憲法改正への温度差は、与党内にもあります。公明党は、今の憲法に、必要に応じて新たな条文を加える『加憲』という立場で、自民党が主張する9条改正には、強い警戒感もあります。民進党の内情を知りつつ、「改正には、野党第1党の協力が不可欠」と主張するのは、改正を急ぐ自民党へのけん制でもあります。自民党としては、なんとか議論を進めたいものの、強引に事を運べば、連立政権の土台が揺るぎかねない。そうした、いわば『三すくみ』の状態が続いてきました。

  しかし、民進党の分裂によって、こうした政治状況は大きく変わることになります。今後、憲法問題をめぐる政治のパワー・バランスはどうなるのか。今回の選挙の行方は、これまで以上に、今後の憲法論議のあり方、スピード感に大きな影響を与える可能性があります。

   では、憲法改正について、各党は、次の選挙で何を訴えるのでしょうか。

   自民党は、「初めての憲法改正をめざす」として、改正項目として、『自衛隊の明記』『教育の無償化』、『緊急事態対応』『参議院の合区解消』の4項目を挙げています。

 一方、同じ与党でも、公明党は、公約そのものには明記せず、党の基本姿勢を示すに止めました。自衛隊の明記は、「理解できなくはないが、いま必要なのは、法の適切な運営と実績の積み重ねだ」としています。

  また、日本のこころは、「日本の国柄を大切にした、自主憲法の制定」を訴えています。

 一方、希望の党は、「9条を含め、憲法改正の議論を進める」としています。その上で、「自衛隊の存在を含め、時代にあった憲法のあり方を議論する。『国民の知る権利』『地方自治の分権』を明記する」としています。また、維新の会も、『教育無償化』や『統治機構改革』、『憲法裁判所の設置』を3本柱と位置づけた上で、「国際情勢の変化に対応し、国民の生命・財産を守る9条改正」も公約に盛り込みました。

  これに対し、共産党は、「無制限の海外での武力行使を可能する9条改憲は許さない。変えるべきは憲法でなく、憲法をないがしろにする政治だ」としているほか、立憲民主党は、「未来志向の憲法を構想する」とした民進党の方針を踏襲することにしており、「安全保障関連法を前提とした憲法改正は認められない」と主張しています。また、社民党は、平和主義など、憲法の3原則を順守し、憲法の理念を生かして政策提起を進める」としています。

 今回、自民党は、憲法改正を初めて公約の重点項目にあげましたが、具体的な改正案やスケジュールは示しませんでした。他方、全体を見渡すと、9条も含めて憲法改正に前向きな政党でも、優先順位や、特筆している項目に違いがあるほか、憲法改正、そのものに反対、あるいは慎重な政党もあり濃淡は様々です。

  憲法のあり様は、与野党の超えた国の根幹に関わる問題です。それだけに、今後、選挙戦を通じ、各党の立ち位置や意見の違いが、有権者により鮮明に映るよう、充実した論戦を期待したいと思います。

  最後に、憲法の問題を考える上で忘れてならないのは、今回の選挙が、いわゆる“1票の格差”をめぐり、最高裁判所から『違憲状態』とされた、衆議院の状況を改善する取り組みでもあるという点です。「違憲状態とされる議会に、憲法を語る資格はあるのか」という指摘は非常に重いものでした。その意味でも、今回の選挙は、憲法改正問題が、現実の政治課題として国会の議論のテーブルの乗る、新たなスタートとなるかもしれません。

  憲法改正は、最終的には国民が判断することになりますが、それには国会での充実した議論が欠かせません。そのために、誰を代表として衆議院に送るべきか。有権者として、各党の議論にじっくり耳を傾け、貴重な1票を行使したいと思います。 (太田 真嗣 解説委員)

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/281485.html

(2)こうした憲法改正対象事項改正と憲法改正のもつ意味

   例:自民党の4項目について

    ①「自衛隊の明記」← 憲法のアイデンティティ喪失・破壊の試み

       憲法9条の第3項としての「加憲」という、とりあえずの破壊への着手

              ↓

どのように規定するかでも、違いが生じうるが、憲法9条2項の有名無実化:憲法アイデンテンティティの破壊へ

・例1:「③前項の規定にも拘わらず、自衛権に基づき自衛隊を設置することができる。」

        ・例2:「③前項の例外として、自衛権に基づき自衛隊を設置することができる。」

  ②「教育の無償化」

       高等教育の無償化? それとも、幼児教育の無償化

    ← 規定だけでは、お題目化。規定を置くことでの、具体化のネグレクトの言い訳。さらな     る展開・発展に対する「足かせ」:「転轍機」としての機能も?

  ③「緊急事態対応」

    基本的人権保障の否定等、憲法のアイデンディティ破壊・縮減化。かりに規定した通しても役立たずの問題など。→10.9「憲法ネット103」立ち上げシンポの植野報告参照。

  ④「参議院の合区解消」

参議院をどう位置づけるか? 地方自治をどう位置づけるか? 年来の主張である「道州制の導入」との整合性? ← 小手先だけでは考えることのできない課題!

Ⅲ.「憲法改正」のもつ意味を考えること — 憲法改正と「未来への想像力」

「〔日本国憲法もそうだが、〕憲法というものは世代を超えた国民が、絶えず未完成部分を残しつつその実現を図っていくコンセプトである。〔そのようなコンセプトとして、憲法アイデンティティもある。〕したがって、憲法はつねに未完でありつづけるが、だからこそ、世代を超えていきいきと生きていく社会を作るために、憲法は必要なのだ。未来への想像力なしに憲法の解釈はできないし、民主主義的な決定もできない。」(奥平康弘。奥平康弘/木村草太『未完の憲法』潮出版社、2014年よりの重引。〔〕挿入は根森)

*参照:(日本国)憲法への感動!–<資料:芦部先生と日本国憲法①>

                   ↓

  憲法改正を論じる上でこそ、未来への想像力が必要だ! 日本国憲法の憲法アイデンティティを再確認し、論じられている「憲法改正」が、憲法アイデンティティを壊すような「憲法改正」でないか、憲法アイデンティティを展開する「足かせ」となるような「憲法改正」でないか、しっかり吟味する必要がある。

 

<資料:芦部先生と日本国憲法②>

【憲法トピック】日本国憲法の憲法アイデンテンティとしての平和主義を考える

【信濃毎日新聞】【社説】2016年8月15日

  終戦の日に 芦部憲法学の「平和」を今

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 2013年3月、参院予算委員会。民主党(当時)の小西洋之氏が憲法改正問題で安倍晋三首相に聞いた。

  「総理、芦部信喜(のぶよし)さんという憲法学者、ご存じですか」

  首相は答えた。「私は存じ上げておりません」

  それに先だって小西氏は憲法で個人の尊厳の尊重を包括的に定めた条文は何条かを聞いたが、やはり首相は答えられず、「クイズのような質問をされても生産性はない」と不快感をあらわにした。

  憲法を勉強していない人が憲法改正を唱えている―。小西氏はそう訴えた。

  芦部氏は駒ケ根市出身の東大名誉教授で、戦後を代表する憲法研究者だ。1993年には文化功労者に選ばれた。

  この年に初版が発行された著書「憲法」(岩波書店)は多くの大学で教科書として使われ、6版を重ねて累計100万部のロングセラーになっている。

  門下生が多く、その教えは今も脈打つ。昨年、衆院憲法審査会で自民党推薦の参考人ながら集団的自衛権の行使は「憲法違反」と指摘した長谷部恭男・早稲田大教授もその一人だ。

  芦部氏の足跡をたどると、その憲法観が戦争体験に裏打ちされていることが分かる。先月の参院選で改憲勢力が衆参とも憲法改正を発議できる3分の2を超えた状況で迎えた今年の終戦記念日。芦部憲法学に触れ、平和のあり方を考えたい。

  <学徒出陣で失った友>

  43年、太平洋戦争の戦況悪化で学徒出陣が始まった。当時、東京帝大(現東京大)の学生だった芦部氏は12月、金沢師団に入営する。「生きて再び故郷の土を踏むことはないと考えていた」。後年、そう振り返っている。

  数カ月後、上官の指示で髪の毛と爪を切って形見として実家に送った。受け取った母親は上座敷に閉じこもったままだった。当時小学生だった妹の堀江玲子さん(83)が心配して唐紙を開けると、母は「大きい兄ちゃんが送ってきた」と白い紙の包みを見せ、涙をこぼした。

  妹から聞いたその場面が脳裏に焼き付いたのだろう。芦部氏は99年に75歳で亡くなる前、病床でこんな歌を残した。

  〈隊長の命にて送りし爪と毛をただ茫然(ぼうぜん)と見つめ居し母〉

  幸い、特攻隊員になる特別操縦見習士官の二次試験で不合格になり、外地に赴くことなく終戦を迎えた。だが、大学時代に同じ下宿で過ごし、毎晩のように語り合った親友や旧制伊那中(現伊那北高)の同級生を亡くした。

  <孤立しても「護憲」>

  95年10月。伊那北高創立70年の記念事業で、戦死した同窓生の鎮魂碑の除幕式に出席した。その後の講演で「(友を失った)苦い痛嘆の思いが、日本国憲法に抱く原点になっている」と述べている。

  その信念を示した舞台が、84年に設置された「閣僚の靖国神社参拝問題に関する懇談会」(官房長官の諮問機関)だ。公式参拝容認派がメンバーの大勢で、孤立しながらも違憲の主張を貫いた。

  「二度と戦争を繰り返さないようにという戦没者の声なき願いを将来に生かすには、(政教分離の)憲法の基本原則を固く守ることがどんなに重要であるか」

  著書「憲法」にも平和観がにじみ出ている。

  〈平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した〉

  憲法前文のこのくだりはしばしば「他国任せ」と批判される。

  芦部氏はこう反論する。

  憲法の平和主義は、単に自国の安全を他国に守ってもらうという消極的なものではない。平和構想を提示したり、国際的な紛争・対立の緩和に向けて提言したりして、平和実現のために積極的行動をとることを要請している―。

  <9条の精神を世界に>

  安倍首相の掲げる「積極的平和主義」とは別物だ。

  武器禁輸原則を撤廃する。他国への攻撃に対しても自衛隊が武力行使できる集団的自衛権を容認する。自衛隊を随時海外派遣し、弾薬の提供を含めた他国軍の後方支援をできるようにする…。

  安倍政権の安全保障政策は、芦部氏の「21世紀の世界へ9条の精神を」との呼び掛けとは逆方向に向かっている。

  戦争の反省を踏まえた憲法の原点に立ち戻り、日本が世界に果たす役割を考える時だ。

  不戦の誓い、非武装の理想、これを堅持することによってはじめて、あの戦争で尊い生命を絶った犠牲者の方々に鎮魂の誠をささげる道が開ける―。母校での講演を芦部氏はこう締めくくった。

  没後、玲子さんは戦没学徒兵の遺稿集をよく読んでいた兄のことを思い、こんな歌を詠んだ。

  九条を護(まも)れと説きて逝きし兄の仏前に今も「きけ

  わだつみのこえ」

  戦後71年の夏。戦没者の「声なき願い」に耳を澄ませたい。 (8月15日)

http://editorial.x-winz.net/ed-22394 (2017.11.17 アクセス)

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